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第13話 王都穀倉局の裏帳面

製粉小屋で見つけた下書きを起点に、私は王都から届く通信控えを洗い直した。


 北辺と王都のやり取りは、本来なら領主館にも複写が残る。だが去年の冬分だけ、不自然に短い文面が多い。詳細は別送、とだけ書かれた紙が何枚もある。


「別送先を探す必要があります」


 ロルフが首をかしげた。


「そんなもの、王都の中じゃないですか」


「なら、王都へ荷を持つ商会の箱に混ざっているはず」


 私はヘルマー商会の送達箱を調べ、二重底になった木箱を見つけた。底板を外すと、小さな手帳が二冊滑り出る。


 片方は商会の私記帳。もう片方は、王都穀倉局の正式帳簿と同じ綴じ方をした裏帳面だった。


『北辺不足分二百八十袋、宴席用酒造へ転換』

『印影帳更新前に旧印使用』

『リーゼ嬢就任後、監査経路一本化』


 私は頁をめくるたび、呼吸を整え直さなければならなかった。


 リーゼはただ席を奪っただけではない。最初から、監査経路を細くして帳簿を握るために据えられた。


 カイルは裏帳面を黙って読み終え、机へ置いた。


「君の席は、最初から欲しかったわけだ」


「ええ。婚約も、席に添える飾りだったのでしょう」


「腹は立つか」


「ええ。でも今は、呆れの方が大きいです」


 私は頁の端を押さえた。


「ここまで書いておいて、隠し切れると思っている」


「隠せてきたんだろう」


 その通りだ。


 王都では、泣く女や愛想のいい女の方が信じられる。地味に帳簿を抱える女は、いつだって融通が利かないと言われる。私もずっと、その空気に押されてきた。


 でも裏帳面は空気を読まない。


 書かれた数字は、こちらの味方だ。


「公開監査を開きましょう」


 私が言うと、カイルはすぐに反対しなかった。


「北辺の名で?」


「はい。王都が来ざるをえない形で。飢饉前監査の名目なら断れません」


 彼は数秒考えてから、鐘を鳴らして近衛を呼んだ。


「公開監査の支度を始めろ。王都にも通知する」


 もう、隠し帳簿をこちらだけで握っていても意味はない。


 日の当たる場所へ出す。


 それが、数字を守る一番早い方法だった。



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