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第12話 古い製粉小屋の鍵束

ロルフが持ってきた古い鍵束の中に、見覚えのある印があった。


 北辺侯爵家の旧製粉小屋に使われていた鍵だ。使われなくなって十年以上経つと聞いていたが、飢饉帳の控えには毎年わずかな維持費が載っている。閉じた小屋に費用が出るのはおかしい。


「開けに行きましょう」


 私が言うと、グレタが鼻で笑った。


「あそこは鼠しか住んでないよ」


「鼠のために維持費は払いません」


 雪混じりの風の中、私たちは丘の上の古い製粉小屋へ向かった。鍵は錆びていたが、回った。扉の先は空ではない。布がかけられた木箱と、乾燥した穀袋が並んでいる。


「隠し在庫」


 グレタが低く吐き捨てる。


 袋数は百十七。帳簿にない量だ。しかも袋口には、失われたはずの旧救恤印が押されていた。


 私は木箱の中を確かめ、さらに息を飲む。


 そこには蝋型と印面の試作、そして王都穀倉局宛の下書き書簡が入っていた。


『北辺不足分は旧印対応済。春の監査前に帳簿修正のこと』


 署名はない。けれど癖のある右上がりの筆圧は見覚えがある。ユリウスのものだ。


 カイルが手紙を読み、静かに言った。


「これで足りるか」


「まだです。下書きだけでは逃げられる」


「君は厳しいな」


「相手がぬるい時だけ優しくします」


 自分で言って、少し驚く。以前の私は、ここまで即答できなかった。


 帰り道、カイルが古い鍵束を私へ渡した。


「持っておけ」


「侯爵家のものでは」


「今いちばん正しく使えるのは君だ」


 鉄の冷たさが掌に残る。


 王都で奪われた鍵束を思い出した。あの時は、譲らないと宣言するだけで精一杯だった。


 でも今は違う。


 私は渡された鍵を握り直し、はっきり答えた。


「預かります。今度は、なくしません」



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