↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『死因:熊。転生先はマンモス時代でした』  作者: 忍絵 奉公


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
76/80

第76話 太狼国、千人の軍を破る


 燃え上がる輜重。

 逃げ惑う黒山軍。

 そして、闇の中へ消えていく一頭の馬。

 その馬に乗っているのは。

 先ほどまで本営にいた、小さな男だった。

「あいつ!」

 タカシが叫んだ。

「逃げるぞ!」

 しかし、馬は速い。

 人間が走って追いつける速度ではない。

 この時代。

 太狼国には馬がいない。

 追撃部隊を出したところで、闇の中を逃げる馬に追いつくことは不可能だった。

 だが。

 タカシは、ある存在を思い出した。

「ユキ!」

『ん?』

 近くにいたユキが振り返る。

「追え!」

『追いついていいのか?』

「いや!」

 タカシは指を立てた。

「戦うな!」

『え?』

「場所だけ確認しろ!」

『場所?』

「あいつが、どこへ帰るのか調べるんだ」

 ユキの目が輝いた。

『なるほど!』

「絶対に見つかるなよ!」

『任せろ!』

 ユキは地面を蹴った。

 ダン!

 そして。

 ものすごい速度で走り出す。

 タタタタタタタタ!

 暗闇の中。

 白い狼の姿が消えていった。

 タカシはその背中を見送る。

「頼んだぞ」

 そして。

 戦場を振り返った。

 まだ。

 黒山軍の兵士たちがいる。

 逃げている者。

 武器を捨てている者。

 地面に倒れている者。

 怪我をして動けない者。

「クロベ!」

「はい!」

 クロベがすぐに近づいてきた。

「捕虜を確保する!」

「はい」

「逃げられない奴は縛れ!」

 クロベは一瞬考えた。

 そして。

「予備兵団!」

 大きな声を上げた。

「ロープを!」

「大量に持って来い!」

「ありったけだ!」

「はい!」

 予備兵団が動き始める。

 太狼国には。

 正式な戦士だけではない。

 女。

 高齢者。

 直接戦うことはできない者たち。

 しかし。

 石を投げることもできる。

 物を運ぶこともできる。

 怪我人を運ぶこともできる。

 そして。

 捕虜を縛ることもできる。

「急げ!」

 縄が次々と運ばれてくる。

 クロベも。

 自らロープを抱えた。

「行きます!」

 タカシが少し驚く。

「クロベも行くのか?」

「当然です」

 クロベは笑った。

「これは戦後処理ですから」

 そして。

 戦場へ走っていった。

「動くな!」

「武器を置け!」

「逃げるな!」

 予備兵団が。

 黒山軍の兵士を確保していく。

「俺は戦わない!」

「もう武器は捨てた!」

「殺さないでくれ!」

 黒山軍の兵士たちは。

 恐怖していた。

 目の前には。

 鉄の武器を持つ戦士。

 後ろには。

 狼。

 逃げれば噛まれる。

 戦えば負ける。

 そして。

 食料は燃えてしまった。

 戦い続ける理由など。

 どこにもなかった。

「手を後ろへ!」

「縛るぞ!」

「抵抗するな!」

 ロープが。

 次々と兵士たちの手を縛っていく。

 クロベ自身も。

 一人の兵士の前へ立った。

「立てますか?」

「……」

 黒山軍の兵士は。

 クロベを見た。

「俺を」

「殺さないのか?」

 クロベは首を傾げた。

「なぜです?」

「なぜって……」

「武器を捨てているでしょう?」

 クロベが言った。

「なら、殺す必要はありません」

「……」

「ただし」

 クロベは。

 ロープを持ち上げる。

「逃げないように縛ります」

 兵士は。

 ゆっくりと両手を差し出した。

「分かった」

 クロベは。

 その手を縛った。

 タカシは。

 その光景を見ていた。

 そして。

 戦場の中央へ進む。

 周囲には。

 太狼軍の戦士たちが集まっていた。

 リグ。

 キバオウ。

 ライラ。

 そして。

 数多くの戦士たち。

 皆。

 興奮していた。

 なぜなら。

 勝ったからだ。

 千人。

 千人もの敵軍を。

 太狼国は打ち破った。

 タカシが。

 大きく息を吸った。

 そして。

 叫んだ。

「勝ったぞ!」

 一瞬。

 戦場が静かになる。

 そして。

「おおおおおおおおおおおおおお!」

 響いた。

 あの声だった。

 神社で。

 神主が神輿を迎える時の。

 あの不思議な唸り声。

「おおおおおおおおおおお!」

 戦士たちが声を出す。

 低く。

 長く。

 不気味に。

「おおおおおおおおおおおお!」

 それは。

 勝利の歓声だった。

 しかし。

 普通の歓声とは違う。

 まるで。

 何百人もの獣が。

 夜の森で唸っているようだった。

 黒山軍の捕虜たちは。

 その声を聞いて。

 震え上がった。

「な……なんだ?」

「人間の声か?」

「化け物の軍隊だ……」

 千人の軍勢を破った。

 鉄の武器。

 狼の軍団。

 そして。

 夜の闇に響く。

 正体不明の唸り声。

 黒山軍の兵士たちには。

 太狼軍が。

 人間の軍隊には見えなかった。

 しばらくして。

 戦場の整理が始まった。

 クロベが。

 何人もの部下を使い。

 人数を調べていく。

「確認しろ!」

「死者!」

「負傷者!」

「捕虜!」

「味方の怪我人もだ!」

 夜が明ける頃。

 ようやく。

 おおよその数字が出た。

 クロベが。

 タカシの前に来る。

「報告します」

「ああ」

「敵軍の死者」

 クロベは。

 一度。

 手元の板を見る。

「百五十八名」

 タカシは黙った。

 千人規模の戦い。

 死者が出ないはずがない。

「重傷者は?」

「百二十二名」

「捕虜は?」

「重傷者とは別に」

 クロベが答える。

「三百二十二名」

「……三百二十二人」

 タカシは頭をかいた。

「多いな」

「はい」

 これだけの人数。

 食べさせるだけでも大変だ。

 しかも。

 住む場所も必要になる。

 監視も必要だ。

「逃げた奴は?」

「かなりいます」

 クロベが言う。

「夜間ですから」

「追撃は?」

「狼たちが足止めしましたが」

「全員を捕まえることはできません」

「まあ、そうだよな」

 タカシは頷いた。

 そして。

「味方は?」

 クロベの表情が。

 少し明るくなった。

「死者」

「ゼロです」

 タカシが目を見開いた。

「本当に?」

「はい」

 鉄の武器。

 鉄の防具。

 そして。

 圧倒的な奇襲。

 結果。

 太狼軍には。

 死者が出なかった。

「重傷者は?」

「いません」

「軽傷者」

「百八名です」

「内容は?」

「切り傷」

「打撲」

「擦り傷」

「転倒などです」

 タカシは。

 思わず笑ってしまった。

「……圧勝じゃないか」

「はい」

 クロベも笑った。

「圧勝です」

 その言葉を聞いた。

 近くの戦士たちが。

 再び声を上げる。

「勝った!」

「太狼国の勝利だ!」

「おおおおおおおお!」

 再び。

 不気味な唸り声が。

 戦場を包んだ。

 リグが。

 槍を空へ突き上げる。

「太狼国!」

「最強!」

「おおおおおお!」

 キバオウも。

「これが!」

「俺たちの軍だ!」

 ライラは。

 二本の刀を掲げた。

「鉄!」

「最高!」

「おおおおおお!」

 タカシは。

 みんなを見ていた。

 少し前まで。

 太狼国は。

 小さな村だった。

 人口は数百人。

 石の武器。

 獣の皮。

 小さな家。

 それだけだった。

 しかし。

 今。

 鉄がある。

 城壁がある。

 軍隊がある。

 通貨がある。

 酒がある。

 布がある。

 陶器がある。

 船がある。

 そして。

 千人の軍隊を破った。

「……すごいな」

 タカシが。

 小さく呟いた。

 隣にいたクロベが聞いた。

「何がです?」

「いや」

 タカシは。

 戦士たちを見る。

「俺たち」

「ここまで来たんだな」

 クロベは。

 少しだけ笑った。

「まだまだですよ」

「ん?」

「これからです」

 クロベは。

 捕虜たちを見る。

「三百人以上の捕虜」

「逃げた敵兵」

「そして」

 クロベは。

 ユキが消えていった方向を見る。

「逃げた、あの小さな男」

 タカシも。

 そちらを見る。

「ユキは大丈夫かな」

「大丈夫でしょう」

「そうだな」

 タカシは。

 空を見上げた。

 夜が終わろうとしていた。

 東の空が。

 少しだけ明るくなっている。

 そして。

 新しい太陽が。

 ゆっくりと。

 姿を現そうとしていた。

 太狼国にとって。

 初めての。

 本格的な対外戦争。

 その戦いは。

 圧倒的な勝利で終わった。

 だが。

 戦争は。

 まだ終わっていない。

 なぜなら。

 逃げた男がいる。

 その男の帰る場所。

 そこには。

 さらに大きな勢力があるかもしれない。

 そして。

 ユキは今。

 その秘密を追っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。