第72話 狼の援軍
会議が終わろうとしていた時だった。
ハヤテ、ゴウ、コマの三匹が、どこか得意そうな顔をしていた。
いや。
狼なので、本当に顔に出ているのかは分からない。
しかし、尻尾が激しく左右に振られている。
明らかに何かある。
「……お前ら」
タカシは三匹を見た。
「まだ何か隠してるだろ?」
三匹が顔を見合わせた。
『言う?』
『言うか』
『もう言っていいだろ』
そしてハヤテが、胸を張るように前へ出た。
『実はな』
「うん」
『援軍も連れてきた』
「……は?」
タカシが固まった。
『狼の援軍』
「狼の?」
『そう』
ハヤテは城壁の外、森の方向を見た。
『森に隠れてる』
「何頭?」
『結構いる』
ゴウが答える。
『各群れ三十頭くらい』
タカシは眉をひそめた。
「各群れ?」
コマが尻尾を振った。
『三つの群れ』
「三十頭が三つ?」
『そう』
タカシは数える。
三十。
三十。
三十。
「九十頭?」
『たぶんそれくらい』
タカシは思わず口を開けた。
「……お前ら」
三匹はさらに得意そうに言った。
『いつでも使えるぞ』
「どうやって?」
『合図したら出てくる』
ハヤテが答えた。
『森に隠れて待ってる』
「ずっと?」
『うん』
タカシはしばらく黙っていた。
そして。
「なんでそんなことになってるんだ?」
ゴウが答える。
『頼んだから』
「誰に?」
『狼に』
「それは分かる」
タカシは頭を押さえた。
「どうやって頼んだ?」
三匹が、また顔を見合わせる。
そして。
『終わったら食べ物をあげる約束した』
「……」
『だからよろしくね』
タカシは数秒間、黙っていた。
会議に参加していた人間たちは、何が話されているのか分からない。
ただ。
タカシが狼たちと話している。
それだけだった。
クロベが不思議そうに尋ねる。
「タカシ様」
「どうした?」
「何かあったのですか?」
タカシはゆっくりと顔を上げた。
そして。
笑った。
「でかした!」
『だろ!』
三匹の尻尾が一斉に振られた。
「一気に決着をつけられるぞ」
クロベたちが首を傾げる。
「決着?」
「ああ」
タカシは地面に枝を使って、大きな図を書き始めた。
「作戦を変更する」
会議にいた全員が集まった。
タカシは地面に城壁を書いた。
そして。
敵軍を書いた。
前方。
後方。
輜重。
さらに、森を書き加える。
「まず」
タカシは森を指差した。
「深夜になるまで待つ」
クロベが頷いた。
「はい」
「そして合図と同時に」
タカシは森を叩いた。
「狼たちが動く」
「狼?」
キバオウが首を傾げた。
タカシは狼たちを見る。
「九十頭ほどいる」
「……九十?」
リグが固まった。
「狼が?」
「ああ」
「援軍だ」
「援軍?」
会議室の中が一瞬、静かになった。
そして。
「狼が援軍?」
アグニが吹き出した。
「はははは!」
「何がおかしい?」
「いや」
アグニは笑いながら答えた。
「普通、援軍って人間じゃないだろ!」
「普通じゃないからな」
タカシは笑った。
「この村は」
ハヤテが誇らしそうに胸を張った。
『そうだ!』
当然、人間たちには何を言っているのか分からない。
タカシは作戦の説明を続けた。
「狼たちは、敵軍の前方を牽制する」
「襲うのですか?」
クロベが尋ねた。
「必要なら襲う」
「だが目的は違う」
タカシは答えた。
「敵の注意を前方へ向けることだ」
クロベが地面の図を見る。
「なるほど」
「九十頭の狼が、夜中に突然現れる」
タカシは続けた。
「しかも、どこから来るか分からない」
リグが笑った。
「確かに怖ぇな」
「狼が走る」
「吠える」
「敵が前方に集まる」
タカシは敵軍の前方に印をつけた。
「その間」
今度は後方を指差す。
「キバオウの精鋭百人が動く」
「輜重ですね」
クロベが言った。
「ああ」
「後方から回り込む」
「そして」
タカシは薪を燃やす真似をした。
「荷車を燃やす」
キバオウの目が光った。
「五台全部ですか?」
「全部だ」
「盛大に燃やせ」
「分かりました」
「敵軍の食料を、全部失わせる」
クロベはさらに考え始めていた。
「狼が前方」
「キバオウ様の百人が後方」
「敵は……」
タカシが言葉を続ける。
「火を見る」
全員がタカシを見る。
「輜重が燃えれば、夜空が明るくなる」
「そして」
タカシは城壁を指差した。
「その火が見えた瞬間」
ライナが言った。
「城門を開く?」
「そうだ」
タカシは頷いた。
「城から二百人を出す」
「二百?」
リグが尋ねた。
「ああ」
「残りは?」
「城壁の守備だ」
敵が何をするか分からない。
城を空にするわけにはいかない。
「城から二百人」
「後方にキバオウの百人」
「合計三百人」
タカシは敵軍の図を指差した。
「挟み撃ちだ」
会議室の空気が変わった。
先ほどまで。
敵は千人だった。
太狼村は三百人。
しかし。
今は違う。
敵の前方には九十頭の狼。
後方には百人の精鋭。
そして。
城から二百人。
夜。
暗闇。
突然現れる狼。
後方で燃え上がる輜重。
さらに。
敵の正面から飛び出してくる二百人の戦士。
クロベが、ゆっくりと頷いた。
「……なるほど」
「どうだ?」
タカシが尋ねる




