第69話 怪獣大戦の後で
太狼街。
オロチが海で海竜たちと戦っている一方で、タカシは別のことをしていた。
「これは大事にしろよ」
タカシは、大蒜を手に持っていた。
ほくほく顔で眺める。
そして。
一つずつ分けていく。
「これを土に埋めろ」
「え?」
キバオウの部下が首を傾げる。
「これを?」
「そうだ」
「蛇避けですね」
「違う」
タカシが即答する。
「食べるんだよ」
「……食べる?」
「旨いんだぞ」
タカシは大蒜を大切そうに抱えた。
「しかも一度植えれば、増やせる」
「増える?」
「そうだ」
キバオウの部下は、大蒜をまじまじと見る。
「蛇避けではなく、食べ物……」
「そうだ。ちゃんと育てろよ」
「分かりました」
タカシは満足そうに頷いた。
「後で料理してやる」
そして。
タカシはユナたちを集めた。
「今日は新しい料理を教える」
「料理?」
「そう」
大蒜。
唐辛子。
野草。
塩。
そして。
鶏肉。
「まず、鶏肉の腹を開く」
ユナたちが見守る。
「そこに大蒜を入れる」
ゴロゴロ。
「唐辛子も入れる」
「辛いですよ?」
「だから旨いんだ」
さらに野草。
塩。
そして。
「これを泥で包む」
タカシが泥をこねる。
鶏肉全体を包み込む。
完全に泥の塊になった。
「……料理なの?」
ユナが不思議そうに見る。
「料理だ」
タカシは自信満々。
その泥の塊を火の中へ入れる。
「後は待つ」
パチパチパチ。
火が燃える。
しばらくすると。
泥が固まっていく。
やがて。
まるで巨大な陶器の塊のようになった。
「これを割る」
タカシが木の棒を持つ。
その時だった。
「タカシぃぃぃぃ!」
遠くから叫び声。
全員が振り返る。
誰かが走ってくる。
「アグニだ!」
アグニが全力で走ってくる。
息を切らしている。
「すごい!」
ドタドタドタ!
「怖い!」
ドタドタドタ!
「恐ろしい!」
ドタドタドタ!
ようやくタカシの前まで来る。
「何があった!」
「オロチは!?」
アグニが息を整える。
「分からねぇ!」
「死んだのか?」
「分からねぇ!」
「じゃあ生きてるのか?」
「それも分からねぇ!」
タカシが困惑する。
「どっちなんだよ!」
アグニが両手を広げる。
「海がめちゃくちゃなんだ!」
そして。
興奮しながら一部始終を語り始めた。
「俺が船で帰ろうとしてたらな!」
「海が盛り上がった!」
「ドォン!って海竜が出てきた!」
「そいつがオロチの首に噛みついた!」
「一匹じゃねぇ!」
「五匹くらいいた!」
ユナたちが唖然とする。
「五匹……?」
「十五メートルくらいある!」
「十五メートル……」
タカシが海を見る。
「で?」
「オロチも反撃した!」
「毒牙で噛みついたんだ!」
「海竜が浮かんだ!」
「でも次から次へと別の海竜が来る!」
アグニの身振りがどんどん大きくなる。
「海が真っ黒になるくらいだった!」
「波で船までひっくり返りそうになった!」
「でもよ!」
アグニが息を吸う。
「オロチの死んだ首が、どんどん食われていったんだ!」
タカシが目を見開く。
「それで?」
「首が減るほど、オロチの動きが良くなっていった!」
「最後には海竜と互角だ!」
その場にいた全員が黙った。
タカシはしばらく考える。
「……つまり」
「俺たちが海へ追い出したオロチと」
「十五メートル級の海竜が」
「海の上で戦争してる?」
「そういうことだ!」
アグニが即答する。
「怪獣大戦だ!」
タカシは頭を抱えた。
「とんでもないものを海へ放り込んだな……」
クロベが静かに言った。
「しかし、まだ決着はついていません」
「そうだな」
その時。
タカシの鼻に。
ふわっ。
いい匂いが届いた。
「……あ」
タカシが振り返る。
火の中に入れていた泥の塊。
「そろそろいいな」
タカシが笑った。
「アグニ」
「ん?」
「お前、腹減ってるだろ?」
「……」
アグニの目が変わった。
「めちゃくちゃ減ってる」
「じゃあ食え」
タカシが泥の塊を取り出した。
コンコン。
木の棒で叩く。
パキッ。
固まった泥が割れる。
その瞬間。
大蒜と唐辛子、野草、塩、鶏肉の香りが一気に広がった。
「うわ……」
ユナが目を丸くする。
アグニも鼻をひくつかせる。
「なんだ、この匂い……」
タカシは笑った。
「これが料理だ」
そして。
太狼村に。
新しい食文化が生まれようとしていた。




