第67話 海へ消えるオロチ
海岸まで来た。
リグたちは、そこで足を止めた。
ザザーン……。
波の音が響く。
オロチの巨大な体が、ゆっくりと海岸へ近づいてくる。
「今だ」
リグが小声で言う。
戦士たちは一斉に海へ入った。
ザブン。
ザブン。
波の音に紛れるように、散開する。
オロチは気付かない。
目は見えない。
頼りになるのは振動と音だけ。
そして。
リグの手には一本の投げ縄。
アグニから受け取ったものだった。
リグが海岸に残る。
オロチが近づいてくる。
ズズン。
ズズン。
リグはじっと待った。
そして。
「今だ!」
ブンッ!
投げ縄が飛ぶ。
巨大な首へ向かっていく。
シュルッ。
縄が首にかかった。
「かかった!」
リグが叫ぶ。
すぐに縄を引く。
その先。
海にはアグニの船が浮かんでいた。
「アグニ!」
「任せろ!」
アグニが帆を張る。
バサッ!
風を受けた帆が膨らむ。
船が動き始める。
ギギギギ……。
縄が張る。
オロチの巨大な体が引っ張られる。
ズズッ。
ズズズズ……。
そして。
ザバァン!
オロチの巨体が海へ入った。
「入った!」
タカシたちが遠くから見守る。
ところが。
「泳いでるぞ!」
誰かが叫んだ。
オロチは沈まなかった。
巨大な体をくねらせ、海の上を進んでいく。
「やっぱり泳げるのか……」
タカシが呟く。
しかし。
明らかに動きがおかしい。
八つの切断された首が、海中で巨大な重りになっている。
ズルズル。
ザバッ。
ズルズル。
体を動かすたびに、切断された首が水をかき乱す。
それでも。
アグニの船は進む。
帆が風を受ける。
船はどんどん沖へ出ていく。
小さくなる。
小さくなる。
タカシは海岸から目を細める。
「……あいつ、どこまでオロチを連れて行くんだ?」
クロベが遠くを見る。
「かなり沖へ行きましたね」
しかし。
船の上のアグニは、別の問題に直面していた。
「まずいな……」
風が強い。
しかも。
陸から海へ向かって吹いている。
追い風。
船を沖へ進めるには最高だ。
だが。
戻る時には。
逆風になる。
「このままじゃ戻れねぇぞ」
アグニが帆を見る。
船はどんどん沖へ流される。
オロチも引っ張られている。
だが。
アグニは気付いた。
「……いや」
これ以上引っ張る必要はない。
もう十分沖へ来た。
ならば。
ここで切ればいい。
「オロチを引き離すか」
アグニは縄を見る。
そして。
ナイフを取り出した。
ザクッ!
縄を切った。
その瞬間。
ビンッ!
張っていた縄が海へ落ちた。
オロチが止まる。
「……?」
突然。
引っ張られる力が消えた。
オロチは首を左右に動かす。
しかし。
分からない。
どちらが陸なのか。
どちらから船が来たのか。
目は見えない。
周囲には波の音。
風の音。
海そのものの振動。
そして。
切断された八つの首が足手まといになっている。
オロチはゆっくりと体を動かす。
右へ。
違う。
左へ。
違う。
また右へ。
ザバァン。
方向が分からない。
その頃。
アグニの船は、風に乗ってさらに沖へ進んでいた。
「……悪いな」
アグニが振り返る。
「もう帰るぞ」
船は小さくなっていく。
そして。
海の真ん中に。
巨大なオロチだけが残された。




