第65話 唐辛子矢
城壁の上。
タカシたちは、まだオロチの様子を見ていた。
その時。
「タカシ」
クロベが声をかけた。
「何だ?」
「完成しました」
そう言って、クロベが何かを持ってきた。
細長い鉄の矢じり。
そして五本の矢。
「鉄の矢じりです」
「おお!」
タカシが手に取ろうとした瞬間。
「弓矢か!」
ライナが横から奪い取った。
「おい!」
ライナは弓を持ち上げる。
「これが弓か!」
「いや、だから返せって」
ライナは聞いていない。
矢を一本取り出す。
そして。
青唐辛子を取り出した。
「……何してる?」
「これを付ける」
矢の先端近くに、唐辛子をしっかりと括り付ける。
タカシが目を丸くする。
「それを撃つのか?」
「もちろん」
ライナは弓を構えた。
オロチはまだ、とぐろを巻いている。
目はほとんど見えていない。
ライナが狙いを定める。
「これ、あいつの鼻に撃ってもいいか?」
「鼻?」
タカシがオロチを見る。
「狙えるのか?」
ライナが笑った。
「愚問だ」
弓を引き絞る。
ギリギリギリ……。
限界まで引く。
「……」
誰も声を出さない。
ライナの目が鋭くなる。
「そこだ」
シュッ!
矢が飛んだ。
一直線。
オロチの巨大な鼻へ向かっていく。
そして。
ズブッ!
「入った!」
唐辛子を括り付けた矢が、オロチの鼻の穴へ突き刺さった。
一瞬。
静寂。
オロチが固まる。
そして。
「グオオオオオオオオオオオオッ!」
大咆哮。
ドォン!
巨大な頭が跳ね上がる。
ズドン!
地面へ叩きつける。
ズドン!
また叩きつける。
木々が次々と倒れる。
ズガァン!
「うわっ!」
「何だあれ!」
「暴れてるぞ!」
オロチが狂ったように暴れ始めた。
頭を振る。
地面を叩く。
木をなぎ倒す。
そして。
ズルズルズル!
怒り狂ったまま、城壁へ向かってくる。
「おい!」
タカシが叫ぶ。
「効きすぎだろ!」
クロベも目を見開く。
「想定以上ですね」
「いや、感心してる場合か!」
オロチが近づいてくる。
ズズン。
ズズン。
ズズン。
城壁が揺れる。
「もう一本撃つか?」
ライナが矢を取ろうとした。
「待て!」
タカシが止める。
「これ以上刺激したら危険だ!」
その時だった。
城壁の向こうから。
ダダダダダッ!
狼たちが戻ってきた。
ユキ。
ハヤテ。
ゴウ。
コマ。
四頭が大量の荷物を咥えている。
大蒜。
青唐辛子。
そして大量の野草。
城壁を飛び越える。
ドサドサドサッ!
地面に落とす。
『持ってきたぞ!』
ユキが胸を張る。
しかし。
目の前には。
狂ったように暴れながら迫ってくるオロチ。
ユキが固まる。
『……』
しばらく黙る。
そして。
『何?』
首を傾げる。
『この状況?』
タカシは答えに困った。
「……唐辛子を撃った」
『何で?』
「試してみた」
『何で!?』
ユキがオロチを見る。
オロチは猛烈な勢いで近づいてくる。
ユキが大蒜を見た。
唐辛子を見る。
そして。
タカシを見る。
『……これ、使う?』
タカシは。
大量の唐辛子と大蒜を見つめた。
「使う」
クロベがニヤリと笑った。
「今度はこちらから、匂いを届けましょう」
タカシの目が変わる。
「よし」
城壁の上。
新たな作戦が始まった。




