第61話 切れない首
ギコギコギコギコ。
タカシとクロベは、必死にノコギリを動かしていた。
だが。
切れない。
刃が入らない。
「なんだ?」
タカシが汗を拭う。
「他の首は切れてるぞ!」
少し離れた場所を見る。
キバオウたちが担当した首。
リグたちが担当した首。
次々と切断され、巨大な頭が地面に転がっている。
九つあった首は、すでに八つまで落ちていた。
しかし。
タカシとクロベの前にある一本だけが違った。
ギコッ。
刃が弾かれる。
ギコッ。
また弾かれる。
「まったく刃が立たない」
タカシが首を見つめる。
クロベは鱗を観察していた。
「これは……元首ですね」
「元首?」
「はい」
クロベが首の根元を指差す。
「他の八本は、元々この一本から枝分かれした首なのかもしれません」
「だから硬いのか?」
「おそらく」
タカシはもう一度ノコギリを当てる。
ギコッ!
刃が滑った。
「駄目だ」
タカシが顔をしかめる。
「これ、起きたら大惨事だぞ」
クロベも頷く。
「はい」
二人は巨大な首を見上げる。
三十メートルの胴体。
その中心にある、最後の一本。
これだけは異常に硬い。
その時。
ズズッ……。
オロチの体が微かに動いた。
「!」
タカシとクロベが同時に後退する。
「まだ生きてる!」
キバオウが叫ぶ。
「全員離れろ!」
八つの頭を切り落とした兵士たちが、一斉に距離を取る。
誰もが息を呑んだ。
もし起きれば。
九つの首のうち、一本だけでも残っている。
しかも。
その一本が一番強い。
タカシが考える。
「どうする……」
リグが周囲を見回した。
「燃やすか?」
タカシが振り返る。
「燃やす?」
「切れねぇなら、焼くしかねぇだろ」
クロベが首を見る。
「燃えるでしょうか」
「……分からん」
タカシは少し考える。
「でも」
ノコギリを見る。
「やるしかない」
タカシは立ち上がった。
「おい!」
全員を見る。
「みんな!」
「薪を集めろ!」
兵士たちが一斉に動き始める。
森から木を運ぶ。
枝。
幹。
枯れ木。
次々と積み上げられていく。
「もっとだ!」
「こっちにも持ってこい!」
大量の薪が集まった。
そして。
切断された八つの首を片付けた後。
最後に残った巨大な首を、何人もの男たちで持ち上げる。
「せーの!」
「うおおおお!」
ズシン!
薪の山の上へ乗せる。
巨大な首が横たわる。
タカシは見上げる。
「これで焼けるのか……」
誰にも分からない。
それでも。
「火をつけろ!」
松明が薪へ投げ込まれる。
ボッ!
炎が広がった。
パチパチパチ。
大量の薪が燃え始める。
やがて炎が首を包み込む。
黒い鱗が赤く染まる。
煙が立ち上る。
タカシはじっと見つめていた。
「頼むぞ……」
その時。
炎の中で。
巨大な瞳が。
ゆっくりと開いた。
ギロッ。
タカシと目が合った。
次の瞬間。
「ゴアアアアアアアアアアッ!」
大地を震わせる咆哮が響いた。
炎が一気に吹き飛んだ。
全員が凍りつく。
元首は。
まだ生きていた。




