第60話 九つ首を断て
九つの首が地面に横たわっている。
ズズン……。
巨大な体が地面に沈み、周囲の木々まで揺れていた。
しかし、タカシはまだ動かなかった。
「待て」
全員が止まる。
タカシの隣で、クロベが小さな袋を取り出した。
「これを使います」
中に入っていたのは、以前見つけた薬草だった。
クロベが乾燥させた薬草を束ね、火をつける。
白い煙が立ち上った。
「これは?」
「痛みを感じにくくする薬草です」
タカシが振り返る。
「痛覚を?」
「ええ。以前、狩りで傷を負った者に使ったところ、痛みを訴えなくなりました」
クロベは燃え上がる薬草をオロチの鼻先へ運ぶ。
煙が漂っていく。
しばらくすると。
オロチの九つの首が微かに動いた。
シュルルル。
長い舌が出る。
煙を吸い込む。
すると。
ダラァ……。
大量のよだれが口から流れ落ちた。
クロベが頷く。
「効いています」
タカシはオロチを見つめた。
「これで、もし酒で完全に眠っていなくても、痛みへの反応が鈍くなる」
「その間に首を落とす」
「そうです」
タカシは腰に手をやった。
そこにあったのは、以前作ったノコギリ。
さらに今回。
鉄を使って新たに三本のノコギリを作った。
まだ鉄は貴重だ。
それでも使う価値がある。
「鉄のノコギリは三本」
タカシが並んだ仲間を見る。
「俺の一本を含めて四本だ」
ライナが頷く。
「九つの首を四組で切る」
「そうだ」
リグがノコギリを握る。
「一匹……じゃないな」
「一本の首につき二人」
タカシが答えた。
「九つの首だから十八人」
精鋭たちが前に出る。
全員が緊張していた。
目の前にあるのは、ただの蛇ではない。
三十メートル。
太さ一メートル。
九つの首。
これほど巨大な生物を、人間が倒そうとしている。
タカシはノコギリを握り直した。
「首の付け根を狙う」
「一気に切ろうとするな」
「交代しながら、とにかく止めずに切る」
全員が頷いた。
シロガネとユキは少し離れた場所から見ている。
『タカシ』
ユキが声をかける。
「どうした?」
『気を付けて』
シロガネもオロチを睨んでいる。
『こいつは、まだ完全には死んでない』
タカシは頷いた。
「分かってる」
そして。
ノコギリを高く掲げる。
「よし!」
全員が構えた。
「行くぞ!」
十八人が一斉に走り出す。
オロチの巨大な首へ向かって。
タカシたちが最初の首に飛びつく。
ギコッ。
ギコッ。
ギコッ。
鉄の刃が鱗を削る。
硬い。
とにかく硬い。
「くそっ!」
リグが歯を食いしばる。
「皮が硬すぎる!」
「そのまま続けろ!」
タカシもノコギリを動かす。
ギコギコギコギコ!
少しずつ。
本当に少しずつ。
刃が食い込んでいく。
別の首でも同じように始まっていた。
ギコギコギコ。
ギコギコギコ。
九つの首。
十八人。
四本の鉄ノコギリ。
巨大な怪物との、史上初の首切り作戦が始まった。
だが。
その時。
一番端にいた首の瞼が。
ほんの少しだけ。
開いた。
黄色い瞳が。
ギロリ。
と動いた。




