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『死因:熊。転生先はマンモス時代でした』  作者: 忍絵 奉公


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第53話 神の怒りではない


 黒い山が燃え始めてから数日。

 空がおかしくなった。

 朝。

 畑へ出た住民が空を見上げる。

「なんだ?」

 灰だった。

 黒い粉。

 細かな粒。

 雪のように降ってくる。

 手に乗せる。

 黒い。

 軽い。

 そして汚れる。

 村中が騒ぎ始めた。

「神の怒りだ!」

「祟りだ!」

「黒い山の神が怒った!」

 あっという間だった。

 噂は伝染する。

 千三百人もいればなおさらだ。

 女たちは子供を抱きしめる。

 老人は震える。

 中には泣き出す者までいた。

 そして広場。

 そこには数百人が集まっていた。

「終わりだ!」

「我らは滅びる!」

「神を怒らせた!」

 完全にパニックだった。

 タカシは頭を抱えた。

「違う違う違う!」

 誰も聞いていない。

「神じゃない!」

「神だ!」

「違う!」

「神だ!」

 話にならない。

 クロベが苦笑する。

「完全に集団心理ですね」

「笑い事じゃねぇ!」

 タカシは急いで広場中央へ向かった。

 そして大声で叫ぶ。

「静かにしろ!」

 声が響く。

 全員が振り返った。

 統領である。

 ようやく静かになった。

「まず聞け」

 全員が見ている。

「死んだ奴はいるか?」

 誰もいない。

「怪我人は?」

 誰もいない。

「家は壊れたか?」

 誰もいない。

「畑は?」

 まだ無事だ。

 ざわざわし始める。

 タカシは続ける。

「つまり今は何も起きてない」

 皆が顔を見合わせた。

 確かにそうだった。

 怖い。

 だが実害はない。

「じゃあ神の怒りって何だ?」

 誰も答えられない。

 タカシは灰を拾った。

「これは山から飛んできた灰だ」

 もちろん火山という言葉は知らない。

 だから簡単に説明する。

「山の中には火がある」

 ざわつく。

「その火が暴れてるだけだ」

 さらにざわつく。

 だが少しずつ落ち着いてきた。

 そこへライナが前へ出た。

「静かにしろ!」

 声が大きい。

 一発で静かになった。

「タカシは知恵者だ」

 全員が聞いている。

「神だろうが山だろうが関係ない」

 ライナは槍を地面に突き立てた。

「敵なら戦う」

「戦えないなら備える」

「騒いでも腹は膨れん!」

 住民たちが笑った。

 さすが戦士の女王だった。

 リグも続く。

「そうだそうだ!」

「飯食え!」

 アグニも酒樽を抱えてやってくる。

「酒飲め!」

「それは違う!」

 タカシが突っ込む。

 広場が笑いに包まれた。

 パニックは少しずつ収まっていった。

 その後。

 タカシは対策会議を開く。

 クロベ。

 キバオウ。

 ライナ。

 リグ。

 シリカ。

 主要人物が集まる。

「最悪の場合を考える」

 全員が真顔になる。

「灰がもっと増えるかもしれない」

「うむ」

「畑が駄目になるかもしれない」

「ありえる」

「冬が来る前に食料を増やす」

 シリカが頷く。

「保存食ですね」

「ああ」

 リグも頷く。

「魚をもっと干す」

 アグニも答える。

「酒も増やす」

「それは後だ」

 また突っ込まれた。

 だが空気は良くなった。

 恐怖は残る。

 しかし人々は動き始めた。

 文明とはそういうものだった。

 神に祈るだけではない。

 考える。

 備える。

 乗り越える。

 それが人間だ。

 そしてその夜。

 見張り台から再び報告が届く。

「報告!」

 タカシが振り返る。

「どうした!」

 見張りは青ざめていた。

「黒い山の煙が!」

「さらに大きくなっています!」

 全員の顔色が変わる。

 まだ終わっていなかった。

 むしろ。

 始まったばかりだった。



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