第51話 大移動
翌朝。
二日酔いのリグが地面に転がっていた。
「うぅ……頭が割れる……」
アグニも同じだった。
ライナだけは平然としている。
どれだけ飲んだのか分からないのに、まるで普段通りだ。
タカシは呆れた。
「お前、本当に強いな」
ライナは豪快に笑う。
「酒も戦いも負けん」
「昨日負けただろ」
「それは忘れた」
都合のいい女だった。
周囲が笑う。
そして本題に入る。
白き谷とライナの村。
正式な同盟締結である。
両村の代表が集まり、焚火を囲む。
クロベが記録係として木板に刻んでいく。
「本日より、白き谷とライナの村は互いを攻撃しない」
「互いに助け合う」
「交易を行う」
「敵が現れた場合は共同で戦う」
ライナは頷いた。
「異論はない」
キバオウも頷く。
こうして同盟は成立した。
その時だった。
タカシが何気なく言った。
「なぁライナ」
「なんだ」
「お前、村ごと引っ越してこないか?」
全員が固まった。
「は?」
ライナが目を瞬かせる。
タカシは続ける。
「距離があるだろ」
「まあな」
「何かあった時に不便だ」
「確かに」
「ここなら鉄もある」
「うむ」
「酒もある」
ライナの目が少し動いた。
「食料もある」
「うむ」
「通貨もある」
「ほう」
「だから来い」
あまりにも雑だった。
クロベが吹き出した。
シリカが額を押さえる。
キバオウは大笑いしている。
ライナは腕を組んだ。
考える。
考える。
考える。
村。
部族。
伝統。
先祖。
色々なものが頭をよぎる。
しかし。
昨日見た光景も思い出す。
鉄。
酒。
布。
城壁。
食料。
豊かな生活。
そして未来。
長い沈黙の後。
ライナは立ち上がった。
「いいだろう」
全員が固まる。
「え?」
シリカが思わず声を漏らした。
ライナは真顔だった。
「身支度してくる」
「いや、ちょっと待て」
「待たん」
そう言うと立ち去っていった。
タカシも呆然と見送る。
「決断早すぎないか?」
クロベが苦笑する。
「あの人らしいですね」
その日のうちにライナは帰還した。
そして。
伝令を飛ばしまくった。
女戦士たちが各地を駆け回る。
村人を集める。
荷物をまとめさせる。
家畜を集める。
保存食を運ぶ。
大騒ぎだった。
三日後。
村の中央広場。
八百人近い住民が集まった。
ライナが高台へ上がる。
そして叫んだ。
「聞け!」
一瞬で静まる。
「我らは移動する!」
ざわめき。
「白き谷へ向かう!」
さらにざわめく。
「反対する者はいるか!」
誰も手を挙げない。
ライナは満足そうに頷いた。
「よし!」
そして槍を天へ掲げる。
「出発だ!」
「おおおおおおお!」
歓声が上がる。
こうして史上最大の移動が始まった。
女戦士たちが周囲を固める。
男たちが荷物を運ぶ。
子供たちが走る。
長い長い行列だった。
まるで民族大移動。
森を越え。
川を越え。
丘を越え。
数日後。
ついに白き谷が見えてきた。
巨大な石壁。
広い畑。
立ち上る煙。
多くの家。
初めて来る者たちは息を呑んだ。
「でかい……」
「本当に村か?」
「城みたいだ」
驚きの声が広がる。
そして門が開く。
白き谷の住民たちが迎えに出てきた。
ライナは胸を張る。
「今日からここが我らの家だ!」
歓声が上がった。
こうして人口は一気に増える。
白き谷は新たな段階へ進んだ。
もはや単なる村ではない。
都市だった。




