第49話 女王、文明に敗北する
数日後。
ライナは護衛として女戦士二十名を連れて白き谷へやって来た。
巨大な門。
石積みの城壁。
見張り台。
畑。
倉庫。
窯。
行き交う人々。
その全てを見てライナは眉をひそめる。
「なんだこれは」
タカシが笑う。
「村だ」
「村じゃない」
即答だった。
「私の村より大きいぞ」
確かにその通りだった。
人口は五百人を超え、周辺の部族を合わせればもっといる。
もはや集落というより小都市だった。
クロベが得意げに説明する。
「現在、人口五百四十七人です」
「ごひゃく?」
ライナが固まった。
女戦士たちもざわつく。
八百人の村とはいえ、居住地が分散しているため、ここまで密集した人口は見たことがない。
さらに歩く。
布工房。
陶器工房。
鍛冶場。
酒造小屋。
ライナの頭が混乱していた。
「なんでこんなに仕事が分かれている」
「専門職だ」
「せんもん?」
「得意な奴が得意なことをやる」
ライナは難しい顔になった。
男も女も関係なく働いている。
それも衝撃だった。
女戦士の一人が呟く。
「男が命令してるのに女が怒らない…」
タカシが苦笑した。
価値観の違いは大きい。
そして夕方。
歓迎の宴が開かれた。
大広場に長机が並ぶ。
焚火がいくつも灯される。
裂牙族。
リグ村。
元捕虜の村。
全員が集まっていた。
ライナは警戒していた。
「宴会か」
「ああ」
「食べ物くらいは負けんぞ」
女王としての意地だった。
タカシは笑うだけだった。
しばらくして料理が運ばれてくる。
まずは焼き魚。
干し魚を戻して焼いたもの。
さらに燻製肉。
三葉虫の塩茹で。
貝の汁物。
そして海藻の和え物。
ライナは目を丸くした。
「なんだこの量」
「食え」
まず焼き魚を口へ運ぶ。
ぱくり。
次の瞬間。
固まった。
「……」
女戦士たちも食べる。
そして固まる。
静かだった。
やがてライナが言った。
「旨い」
ぽつり。
「旨い!」
今度は叫んだ。
周囲が笑う。
さらに貝汁を飲む。
海の旨味。
塩気。
温かさ。
また固まる。
「なんだこれは」
飲む。
また飲む。
止まらない。
女戦士たちも夢中だった。
さらに三葉虫。
ぱくり。
「旨い!」
また叫ぶ。
リグが酒を持ってきた。
「まだあるぞ」
木製の器に注ぐ。
透明感のある酒。
少しだけ泡立つ。
ライナが匂いを嗅ぐ。
「なんだこれは」
「酒だ」
「知ってる」
「飲め」
ぐいっと飲む。
一瞬静止。
そして。
「なんだこれはぁぁぁ!!」
広場中に響いた。
女戦士たちも飲む。
次々と叫ぶ。
「旨い!」
「甘い!」
「変な味だ!」
「もっと!」
完全に陥落した。
リグが大笑いしている。
「最初はみんなそうなる」
ライナは二杯目を飲む。
三杯目を飲む。
四杯目を飲む。
顔が真っ赤だった。
「おいタカシ」
「なんだ」
「お前ら毎日これ食ってるのか」
「まあ」
ライナが頭を抱えた。
「勝てるわけがない」
真顔だった。
食文化の差。
生活水準の差。
文明の差。
ここへ来てようやく理解したのだ。
戦争で勝てる勝てない以前の話だった。
そして夜が更ける。
酒が回ったライナが隣に座る。
肩が触れる。
近い。
「なぁタカシ」
「なんだ」
「私はお前の村が気に入った」
タカシは笑う。
「そうか」
「それと」
ライナが少しだけ顔を赤くした。
「酒も気に入った」
周囲が爆笑した。
ライナも笑った。
その日。
白き谷と女王の村の距離は一気に縮まった。




