第48話 女王の村
北東の空へ上がる煙。
それを見たタカシは調査隊を編成した。
同行するのはリグ、シリカ、キバオウ、裂牙族の精鋭十名。
そしてユキとシロガネ。
総勢十五名だった。
白き谷を出発して三日。
ようやく煙の正体を発見する。
森の奥。
巨大な木柵に囲まれた村だった。
だが様子がおかしい。
見張り台に立つ者。
槍を持つ者。
門を守る者。
全員が女だった。
タカシは手を上げた。
「伏せろ」
一同が身を伏せる。
しばらく観察する。
するとさらに妙な光景が見えた。
畑仕事。
木の伐採。
荷運び。
重労働をしているのは男たちだった。
しかも女たちに指示されている。
リグが目を丸くする。
「なんだありゃ」
キバオウも困惑していた。
「女が上か」
タカシも初めて見る文化だった。
「とりあえず接触してみる」
白布を掲げて前へ進む。
門が開いた。
中から現れたのは背の高い美女だった。
身長はタカシとほぼ同じ。
肩幅も広い。
腕には太い筋肉。
背中には巨大な棍棒。
まるで女戦士だ。
女はタカシを見るなり鼻で笑った。
「男が何の用だ」
「話し合いに来た」
「男と話す価値はない」
周囲の女戦士たちが笑った。
どうやら本気らしい。
タカシも少しイラっとした。
「なら力で示すか」
その言葉に空気が変わった。
女がニヤリと笑う。
「面白い」
広場が空けられた。
一騎打ち。
それで決着をつけるらしい。
女は胸を張った。
「私はライナ。この村の女王だ」
タカシも槍を構える。
「白き谷の統領タカシだ」
戦いが始まった。
次の瞬間。
タカシは驚いた。
速い。
とんでもなく速い。
巨大な棍棒を持っているのに敏捷性が高い。
横薙ぎ。
突進。
振り下ろし。
どれも鋭い。
シリカが叫ぶ。
「タカシ!」
危ない。
本当に強い。
さらに力もある。
棍棒が地面に当たるたび土が吹き飛ぶ。
リグが呟いた。
「化け物かよ」
だがタカシも負けない。
熊と戦った。
マンモス時代を生き抜いた。
何より鉄槍がある。
石器ではない。
文明の力だ。
ライナの棍棒が振り下ろされる。
タカシは踏み込んだ。
鉄槍を突き出す。
ガキィィン!
棍棒に鉄の穂先が食い込む。
木製だった。
さらに押し込む。
バキッ!
棍棒の先端が砕けた。
ライナの目が見開かれる。
「なっ!?」
タカシは追撃した。
槍先が首元で止まる。
勝負あり。
静寂。
誰も声を出せなかった。
女王が負けたのだ。
ライナはしばらく呆然としていた。
やがて大きく笑った。
「ははははは!」
豪快だった。
そして。
突然タカシの肩を掴んだ。
「気に入った!」
「は?」
「私の男になれ!」
今度はタカシが固まる。
後ろでリグが大爆笑した。
シリカの顔が怖い。
キバオウは吹き出している。
タカシは頭をかいた。
「なら条件がある」
「言え」
「お前が俺の女になるならな」
今度はライナが固まった。
周囲も固まった。
女王が男に従う。
そんな前例はないのだろう。
ライナは腕を組んだ。
悩む。
悩む。
悩む。
村を見る。
戦士たちを見る。
そしてタカシを見る。
強い。
初めて負けた相手。
認めたくないが認めるしかない。
しばらくしてライナはため息をついた。
「今すぐは決められん」
「だろうな」
「だが話は聞こう」
タカシは笑った。
「それでいい」
こうして戦いは終わった。
女王ライナの部族。
人口およそ八百人。
白き谷よりも大きい勢力だった。
敵になるには危険すぎる。
味方になれば心強すぎる。
タカシは確信した。
これは征服する相手ではない。
取り込む相手だ。
そしてその夜。
女王ライナとの会談が始まるのだった。




