第47話 鉄の斧、鉄の畑、鉄の槍
鉄のハンマーが完成してからというもの。
白き谷は異様な熱気に包まれていた。
誰もが理解していた。
これはただの新しい道具ではない。
世界を変える力だと。
最初に完成したのは斧だった。
何度も叩き。
何度も焼き。
ようやく形になる。
見た目は粗末。
だが性能は別格だった。
木こりのガドが試し切りをする。
太い木。
石斧なら半日仕事。
振り下ろす。
ガキン!
深く食い込む。
もう一撃。
三撃。
五撃。
メキメキメキ……
ドオオオン!!
大木が倒れた。
全員が固まる。
『……は?』
『早すぎる』
『なんだこれ』
木こり達が奪い合いになった。
そこからは異常だった。
木が切れる。
とにかく切れる。
住居が増える。
柵が増える。
倉庫が増える。
窯も増える。
今まで一週間かかった作業が一日で終わる。
タカシは笑った。
「生産力ってこういうことか」
次に作ったのは鍬。
畑担当が半信半疑で使う。
地面へ突き立てる。
ザクッ。
深く入る。
『え?』
また刺す。
ザクッ。
『ええ!?』
石器とは比較にならない。
固い地面が掘れる。
根も切れる。
結果。
畑面積が三倍になった。
綿花畑も増えた。
保存食用の作物も増えた。
シリカが報告する。
『今年は食料が余るかもしれません』
村人達が歓声を上げる。
飢えない。
それは原始人にとって夢だった。
クロベが木板を持ってくる。
『集計終わりました』
「どうだ?」
『人口五百四十七人』
タカシが頷く。
『あと一年で六百超えます』
恐ろしい勢いだった。
そして。
裂牙族が待ち望んでいたもの。
鉄槍。
リグが完成品を持つ。
『軽い』
振る。
鋭い。
強い。
黒曜石とは違う。
欠けない。
折れにくい。
試しに熊の骨へ突き立てる。
ズドッ!
深く刺さった。
裂牙族がどよめく。
『強い……』
『強すぎる』
リグが笑った。
『周囲の部族全部倒せるぞ』
「やめろ」
『冗談だ』
全然冗談に見えない。
百五十七人。
その中から優秀な者三十人。
鉄槍優先配備。
裂牙族の精鋭が誕生した。
キバオウが嬉しそうだった。
『これが軍だ』
その夜。
クロベが焚火の前で呟く。
『あー……』
「なんだ」
『発展速度がおかしいです』
全員が笑う。
『笑い事じゃないんですよ』
クロベは真顔だった。
『普通なら数百年かかる発展を数年でやってます』
シリカも苦笑する。
『確かに……』
タカシは空を見る。
星。
風。
そして村。
明かりが増えている。
人が増えている。
文明が育っている。
しかし。
その時だった。
見張り台から声が響く。
『報告ーーー!!』
皆が振り返る。
『北東方向!』
『巨大な煙です!!』
静寂。
タカシの顔が変わった。
北東。
その方向には――
黒い山がある。




