第46話 鉄の涙
ガラスを作った翌日。
俺は川を見ていた。
流れ。
石。
砂。
そして――黒。
「砂鉄……あるよな」
記憶を掘る。
昔見た映像。
砂金採り。
川底。
重いものだけが残る。
木を削る。
浅い皿。
パン。
簡単なものだ。
だが使える。
川へ入る。
冷たい。
土砂を入れる。
水の中で、くるくる回す。
軽い砂が流れる。
残る。
黒い粒。
そして――
小さな金。
シリカが驚く。
『きらきらしてる……』
ユキが鼻を鳴らす。
『食べライナい』
「まあな」
金と砂鉄を分ける。
水で流す。
角度を変える。
重さで分かれる。
地味だ。
だが確実。
半日後。
ようやくコップ一杯。
黒い砂鉄。
そして少量の金。
リグが笑う。
『たったこれか』
「鉄は重いんだよ」
それを五日。
延々と続けた。
腕が痛い。
腰も終わる。
だが集まる。
桶一杯。
砂鉄。
そしてコップ一杯の金。
金は家に置いた。
今は価値がない。
装飾文化がまだ薄い。
問題は――鉄。
刀鍛冶の知識なんてない。
だが断片は覚えている。
芯鉄。
外側の硬い鉄。
折る。
叩く。
重ねる。
それだけ。
「まずは道具だな」
叩けなければ始まらない。
だから――
ハンマーを作る。
石炉。
炭。
フイゴ。
全力。
火が唸る。
赤。
橙。
白。
熱気が暴れる。
ユナが汗だくでフイゴを押す。
『まだですか!?』
「もっと!」
裂牙族の男たちも交代で押す。
空気。
火。
温度。
上がっていく。
やがて。
砂鉄が変わる。
赤く。
どろりと。
溶ける。
シリカが息を呑む。
『……鉄が液体に』
「来た……!」
俺は炉を見る。
坂を作ってある。
流れる。
真っ赤な鉄。
熱の川。
ゆっくりと下へ。
そして――
その先。
石で作った型。
簡易鋳型。
そこへ流れ込む。
ジュウウウウ……!
蒸気。
火花。
熱風。
全員が黙る。
見ている。
誰も瞬きしない。
冷える。
ゆっくり。
長く。
そして――
黒くなる。
俺は石で叩く。
割ライナい。
重い。
金属音。
『カンッ』
空気が震える。
リグが目を見開く。
『……石じゃねぇ』
「鉄だ」
その一言で空気が変わる。
取り出す。
歪な塊。
粗い。
汚い。
だが確実に――金属。
それを叩く。
石台へ。
何度も。
何度も。
火花。
音。
形が変わる。
そして――
完成した。
小さな鉄の塊。
柄をつける。
原始的。
無骨。
だが。
「ハンマーだ」
沈黙。
次の瞬間。
裂牙族が吠えた。
『おおおおおお!!』
石より重い。
壊ライナい。
硬い。
それだけで革命だった。
クロベが後ろで頭を抱える。
『あー……まずい』
「何がだ」
『ついに鉄器文明入りました』
システムが表示される。
【文明段階変化】
石器時代 → 青銅・鉄器移行期
【新技術】
・砂鉄採取
・製鉄
・鋳造
・鉄製ハンマー
都市レベル:103% → 117%
ユキが鉄を見つめる。
『黒い石?』
シロガネは静かに言う。
『違う』
『もっと危ない』
俺は鉄のハンマーを握る。
重い。
冷たい。
だが確かな力があった。
この瞬間。
白き谷は――
完全に別の時代へ足を踏み入れた。




