第45話 透明という革命
陶器文化が広がっていた頃。
俺は窯の火を見ながら、ふと思い出した。
「……そういえば」
シリカが首をかしげる。
『どうしました?』
「昔やったゲームで」
「砂を焼くと、ガラスができた」
沈黙。
全員、意味が分かっていない。
当然だ。
翌日。
俺は海岸へ向かった。
白い砂。
細かい。
乾いている。
ユキが後ろからついてくる。
『また変なことする』
「多分な」
大量の砂を集める。
窯を改造する。
問題は温度。
陶器程度では足りない。
もっと。
さらに。
高く。
「フイゴを作る」
木。
革。
空気袋。
単純構造。
だが効果は大きい。
押す。
風が送られる。
火が暴れる。
赤くなる。
さらに熱くなる。
裂牙族の男たちが驚く。
『火が唸ってる……』
シリカは汗を拭く。
『熱すぎる……』
ユナは逆に興奮していた。
『まだ強くできます!』
完全に職人側になっている。
何時間も続ける。
火。
風。
熱。
そして――
砂が変わった。
『……溶けてる』
赤い。
どろりとしている。
まるで溶岩だ。
俺は長い棒を突っ込む。
絡め取る。
持ち上げる。
赤い塊。
熱気が凄まじい。
それを地面へ置く。
冷ます。
ゆっくり。
ゆっくり。
色が変わっていく。
赤。
橙。
黒。
そして――
半透明。
シリカが息を呑む。
『……透けてる』
ユキが近づく。
『氷みたい』
シロガネは静かに目を細める。
『でも硬い』
俺はそれを持ち上げる。
重い。
濁っている。
歪んでいる。
だが――
「ガラスだ」
その言葉が落ちる。
周囲がざわつく。
誰も見たことがない。
透明な石。
そんな認識だった。
俺の頭の中では、一気に未来が広がる。
「窓が作れるかもしライナい」
『窓?』
「光を入れられる」
シリカが固まる。
『家が……明るく?』
「ああ」
火だけじゃない。
昼の光を使える。
風を防ぎながら。
それはデカい。
さらに。
「器もいける」
ユナが目を輝かせる。
『透明の器……!』
夢が広がる。
だが――
現実は甘くなかった。
まず平らにできない。
伸ばす方法がない。
均等にならない。
歪む。
割れる。
さらに。
筒がない。
吹く技術もない。
だから丸い器も作ライナい。
ぐにゃぐにゃになる。
リグが歪な塊を見て言う。
『……失敗か?』
「いや」
俺は首を振る。
「入口だ」
まだ使えない。
だが確実に分かった。
砂は変わる。
火で。
人の手で。
クロベが静かに呟く。
『あー……まずいですね』
「何がだ」
『文明速度です』
確かに。
鉄より先にガラス。
普通じゃない。
だが――
止める気はなかった。
システムが静かに表示される。
【新技術発見】
・原始ガラス
・高温炉
・フイゴ機構
【未完成技術】
・板ガラス
・ガラス器
・ガラス加工技術
都市レベル:96% → 103%
ユキがガラスを覗き込む。
『向こう見える』
シロガネも静かに言う。
『不思議』
俺は半透明の塊を空へ掲げた。
太陽の光が通る。
歪んでいる。
汚い。
それでも確かに未来が見えた。




