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『死因:熊。転生先はマンモス時代でした』  作者: 忍絵 奉公


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38/69

第38話 黒木の貨


 白き谷の外れ。

 太狼市街のすぐ近くに、それは生えていた。

 真っ黒い木。

 光を吸うような色。

 そして――異様に硬い。

 シロガネが鼻を鳴らす。

『これ、普通じゃない』

 ユキも低く言う。

『重い匂い』

 俺は幹に手を当てる。

 冷たい。

 まるで石だ。

「これにする」

 シリカが首をかしげる。

『これを……?』

「通貨だ」

 周囲が静まる。

 クロベが頷く。

『あー……いいですね』

『数が限られてる』

 俺は木を見上げる。

「八本しかない」

「偽造は無理だ」

 

■黒木貨の加工

 切り出す。

 重い。

 硬い。

 だが割ライナい。

 裂牙族の戦士、二十人を集めた。

「これを削れ」

 最初は苦戦する。

 だがすぐに慣れる。

 削る。

 削る。

 削る。

 やがて形が揃い始める。

 

 俺は見本を置く。

「小貨」

 丸い。

 三センチほど。

「中貨」

 四センチの正方形。

「大貨」

 五×四の長方形。

 シリカが目を丸くする。

『形で分かるんですね』

「ああ」

 クロベが補足する。

『認識コスト削減ですね』

「そういうことだ」


 価値も決める。

「中貨は小貨十枚分」

「大貨は中貨十枚分」

 つまり――

 大貨一枚で、小貨百枚分。

 リグが低く唸る。

『……でかいな』

「だから重い」


 最後に刻む。

 印。

 槍の形。

 簡単だが、統一されている。

 クロベが小さく言う。

『あー……これで信用が乗ります』


■ルール

 全員を集める。

 白き谷。

 リグの村。

 裂牙族。

 全員だ。

 俺は黒木貨を掲げる。

「これが通貨だ」

 ざわつく。

 当然だ。

「これで物を交換する」

 キバオウが腕を組む。

『これに価値があるのか』

「ある」

 短く言う。

「俺が決める」

 沈黙。

 それで十分だった。


「偽造は禁止だ」

「作ったら――村追放」

 空気が凍る。

 リグが笑う。

『分かりやすい』


■配布と運用

「仕事をすれば配る」

「どの仕事でも、小貨七から十」

 シリカが頷く。

『頑張り次第ですね』

「判断は管理長がやる」

 ミルカドが一歩前に出る。

『任せろ』

「管理長は中貨十枚」

「怠慢なら減らす」

 キバオウが鼻を鳴らす。

『いいな』


「物の値段は後で決める」

 まずは――慣れさせる。


 俺は三人に渡す。

 リグ。

 ミルカド。

 キバオウ。

 それぞれに、束で。

「配れ」

『了解だ』

『任せろ』

 『問題ない』

 短い返事。

 だが重い。


 族長たちには、俺が直接渡す。

 手に乗せる。

 重みを感じさせる。

 それが“価値”になる。


■最初の動き

 女たちが布を織る。

 ユナが配る。

 黒木貨が渡る。

 男が魚を持ってくる。

 交換する。

 一瞬だけ、止まる。

 そして――成立する。

 シリカが息を飲む。

『……動いた』

 ユキが小さく言う。

『変な流れ』

 シロガネも。

『でも続く』


 クロベが静かに呟く。

『あー……回り始めましたね』

「何がだ」

『経済です』


 システムが表示する。


【通貨システム:稼働開始】

流通率:低 → 上昇中

信頼度:初期形成

都市レベル:52% → 61%


 俺は黒木貨を一枚、手の中で転がす。

 軽い。

 だが重い。

 これはただの木じゃない。

 “価値”だ。

 そして――

 世界を変えるものだ。



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