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『死因:熊。転生先はマンモス時代でした』  作者: 忍絵 奉公


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第28話 水と刃と、土の掟


 畑を作れ――そう言った翌日から、問題は山ほど出た。

「水が足りない!」

 まずそれだった。

 麦もどきの草も、アイヌネギも、ただ土に埋めただけでは育たない。

 雪解け水はあるが、流れて終わりだ。

「川の水を引く」

 タカシは決めた。

「溝を掘る。ここから、こうだ」

 地面に棒で線を引く。

 川から畑まで、ゆるやかな傾斜。

「水が勝手に流れてくる」

「おぉ……」

 村民たちがざわつく。

 理解しているかは怪しい。

 だが、やるしかない。


 掘る。

 ひたすら掘る。

 石のスコップもどき。

 木の棒。

 手。

 効率は悪い。

 だが、人は多い。

 半日で、浅い溝ができた。

「よし……流せ」

 川の端を崩す。

 水が、じわりと流れ込む。

 そして――

 ゆっくりと、畑へ。

「来た……!」

 誰かが叫ぶ。

 水が、土を濡らす。

 それだけなのに。

「おおおおお!!」

 歓声が上がった。

 タカシは、小さく息を吐く。

「一歩だな」


 だが、すぐに次の問題。

「木が足りねえ!」

 畑の囲い。

 水路の補強。

 家の拡張。

 全部、木がいる。

 しかし。

「倒れねえ……」

 屈強な男たちが、太い木に石斧を叩きつける。

 ガン、ガン。

 欠けるのは、斧の方だ。

 木はびくともしない。

「これ、無理だろ……」

 誰かが呟いた。

 タカシも同意だった。

(石斧で8メートル級は無理ゲーだ)

 そこで思い出す。

 あの海蛇。

 巨大な体。

 そして、異様に硬く、鋭かった鱗。

「……使えるな」


 作業場。

 タカシは、海蛇の鱗を二枚取り出した。

 石で削る。

 叩く。

 割ライナい。

 なら、削る。

 少しずつ、ギザギザを刻む。

「……これだ」

 刃になる。

 石より、はるかに鋭い。

 それを二枚。

 向かい合わせにして――

 木の板で挟む。

 蔓で縛る。

 固定。

 完成。

「……のこぎりだ」

 長さ、六十センチ。

 この時代には存在しない形。

『また変なの作った』

 シロが呆れる。

「これは革命だぞ」

『いつも言ってる』

「今回は本当にそうだ」


 試す。

 男二人に持たせる。

「こうやって、引いて押す」

 ギコ。

 ギコ。

 最初はぎこちない。

 だが――

 ギギギギギ……

「削れてる……!」

 木に、筋が入る。

 削れている。

「おおおおお!!」

 歓声。

 そして加速。

 ギコギコギコギコ!!

 削る。

 削る。

 削る。

 やがて――

 ミシ……ミシ……

「離れろ!」

 ドォォォン!!

 巨木が、倒れた。

 一瞬、静まり返る。

 そして――

「倒れたあああああ!!」

 大歓声。

 誰かがタカシの背中を叩く。

 強い。

 痛い。

「すげえ!すげえぞ!!」

 タカシは、苦笑した。

「だから言ったろ。革命だって」


 木材問題、解決。

 水問題、途中だが前進。

 順調に見えた。

 だが。

 次の問題は、もっと厄介だった。


「くせぇ……」

 誰かが言った。

 タカシも思っていた。

 臭い。

 明らかに。

 原因は――

「その辺でしてるな……」

 そう。

 トイレ問題。

 人が増えた。

 密集した。

 結果、そこら中で用を足す。

 当然、臭う。

 虫も来る。

 水路にも流れかけている。

(これ、放置したら終わる)

 病気一直線だ。


「集まれ」

 タカシは、全員を呼んだ。

 ざわざわと人が集まる。

「新しいルールだ」

 静かになる。

「ここでは、どこでも排泄するのは禁止する」

「……は?」

 ざわつく。

「じゃあ、どこで……」

「決める」

 タカシは、街の外れを指した。

「ここに穴を掘る」

「穴?」

「そこでする」

 沈黙。

「……それだけ?」

「それだけじゃない」

 タカシは続ける。

「したら、土をかけろ」

「土?」

「臭いを消す。虫も減る」

 ざわざわ。

 半信半疑。

 当然だ。

 そんな文化はない。

「やらないとどうなるか」

 一拍。

「病気になる。死ぬ」

 空気が変わる。

「働けなくなる。全員困る」

 これは理解できる。

 全員、真剣な顔になった。


 その日のうちに。

 深い穴が掘られた。

 周囲を簡単な柵で囲う。

「ここがトイレだ」

 誰かが笑った。

 だが、すぐに真面目な顔に戻る。


 数日後。

 変化が出た。

「……臭くない」

 誰かが言った。

 明らかに違う。

 空気が軽い。

 水も濁っていない。

『すごい』

 シロが驚く。

『ただの土なのに』

「だからだよ」

 タカシは答えた。

「自然に戻すんだ」


 水が流れ。

 木が倒れ。

 土が整う。

 少しずつ。

 本当に少しずつ。

 この場所は、“生きられる場所”になっていく。


 夕暮れ。

 タカシは、水路の流れを見ていた。

 ゆっくりと、水が畑へ向かう。

 その横で、切り倒された木が運ばれていく。

 遠くでは、トイレの柵が見える。

「……地味だな」

『でも大事』

 ユキが言う。

「だな」

 タカシは頷いた。

 戦うより、よっぽど難しい。

 でも。

 これがなければ、何も始まらない。



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