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『死因:熊。転生先はマンモス時代でした』  作者: 忍絵 奉公


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第15話 海と円の設計


 川は、静かに下っていた。

 雪解け水を集めた流れは、昨日までよりも太く、速く、そしてどこか“先”を感じさせる色をしている。

「このまま行けば、どこかに出るはずだ」

 俺が言うと、ユナが頷いた。

「長い川は、必ず終わる」

 その言葉に、村人たちは少し緊張した顔を見せた。

 未知に向かう顔だ。

 今回ついてきたのは、十人ほど。

 若い男が中心だが、女も二人いる。みんな足は速い。

 そして――

『水の匂いが変わる』

 ユキが、鼻を上げた。

『遠くに、大きい水』

 シロも、耳をぴくりと動かす。

『風が違う』

 俺の胸が、少しだけ高鳴った。

(来るな……)


 やがて、森が途切れた。

 視界が、一気に開ける。

 そして――

 青。

 ただ、青。

 地平線まで続く、水の世界。

「……海だ」

 誰かが、息を呑む。

「でか……」

「川じゃない……」

 村人たちは、言葉を失っていた。

 波の音が、規則正しく響く。

 風が、湿っている。

 俺は、ゆっくりと歩いて、水際に立った。

 手ですくう。

 舐める。

「……しょっぱいな」

「しょっぱい!?」

 ユナが驚く。

「これ、全部か?」

「全部だ」

 俺は笑った。

「ここには、塩がある」

 ざわめき。

 塩は、この世界では貴重品だ。

 保存にも、体にも必要。

「ここ、拠点にする価値あるな」

 俺は海岸線を見渡した。

 岩場。砂浜。

 少し内陸には森もある。

 資源は揃っている。


 だが、問題は別にあった。

「……どう作る?」

 ぽつりと呟く。

 目立たないようにするか。

 それとも――

「城みたいにするか」

「城?」

 ユナが首を傾げる。

「囲うんだ。壁で」

「全部?」

「全部」

 村人たちがざわつく。

「そんなの……」

「できるのか……?」

 俺は、腕を組んだ。

(人数は三百人程度……)

 全員動かしても、限界はある。

 拠点を分けるか?

 でも、それだと防衛が薄くなる。

 冬の病。

 未知の獣。

 分散はリスクだ。

(なら、逆だ)

 分けるんじゃない。

 集める。

「……一つにするか」

「え?」

「村を、全部ここに集める」

 静まり返る。

「でっかい拠点にする」

 俺は地面に棒で円を描いた。

 ぐるりと。

「直径……このくらい」

 ざっくり一キロほどの円。

 村人たちが、息を呑む。

「でかすぎる……」

「いや」

 俺は首を振る。

「これでも足りないくらいだ」

 中に家。

 食料庫。

 火の場所。

 動物のスペース。

「全部守るなら、これくらい必要だ」


「……壁は?」

 誰かが聞いた。

「石だ」

 俺は答える。

「石を積む」

「そんなに石……」

 周囲を見渡す。

 川。

 海岸。

 岩場。

「あるだろ」

 資源は、目の前にある。

 問題は――人手と時間だ。


 しばらくの沈黙の後。

 ユナが、口を開いた。

「……やろう」

 俺を見る。

「タカシが言うなら、やる」

 他の村人たちも、顔を見合わせる。

 そして、頷いた。

「やるか……」

「ここを、新しい村にする」

「いや」

 俺は訂正した。

「村じゃない」

 一度、息を吸う。

「街だ」

 その言葉に、誰も意味は分からなかっただろう。

 でも、何か大きいものだということは伝わったらしい。


 その場で、作業を決めた。

「まず、線をはっきりさせる」

 俺は棒で円をなぞる。

「この中が、全部“中”だ」

 村人たちが、歩きながら印をつけていく。


「次に、役割分担だ」

 全員を見る。

「家を作るやつ」

 手が上がる。

「石を集めるやつ」

 別の数人。

「石を積むやつ」

 力自慢が前に出る。

「元の村に戻って、人を呼ぶやつ」

 ユナが頷く。

「私が行く」

「頼む」


 自然と、動きが決まっていく。

 誰かが指示を出すまでもなく、

 “やること”が見えれば、人は動く。

 それを見て、少しだけ安心した。

(いけるな……)


 その時、シロがぽつりと呟いた。

『お前、群れ作るの上手い』

「そうか?」

『みんな、動いてる』

 確かに。

 さっきまで“神様任せ”だった連中が、

 今は自分で動いている。

「方法を見せたからな」

『それ、すごい』

 珍しく、素直だった。


 準備が進む中。

 俺は一歩、海の方へ歩いた。

「どこ行くの?」

 ユナが聞く。

「食料調達」

「海で?」

「たぶんな」

 正直、確証はない。

 でも――

(海なら、何かある)

 魚。貝。海藻。

 この世界でも同じとは限らないが、

 試す価値はある。


 波打ち際に立つ。

 冷たい水が、足に触れる。

 ユキたちも後ろからついてくる。

『水、多い』

「多いな」

『中、何かいる』

 ハヤテが鼻をひくつかせる。

『動いてる匂い』

 やっぱりいるか。


 俺は、槍を握り直した。

「……さて」

 海を見る。

 広い。

 深い。

 未知だ。

 でも――

 怖くはない。

「ここからだな」

 小さく呟いた。

 俺たちの“次”は、ここから始まる。


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