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第17話 メドウズ

第17話 メドウズ

 ジャズバーにマコチンがメドウズとやって来た。 

「ママ、俺の奥さんだよ。メドウズ。」

 マコトは突然、奥さんだという黒人を連れて店に入って来た。

「彼女はアメリカ人?」

「メドウズはハーフだよ。

母は日本人。父はアメリカ人かな?」

「こんにちは。私は日本人です。

国籍は日本。日本で育ちました。

母はシングルマザーで,父の顔は知らないので。」

 マコちんと出会うまで、レズビアンの自覚はなかったと言う、メドウズ。

「色々めんどくさいな。俺がメドウズを愛してるって事だけでいいのにな。」

 ハーフの黒人女性と、性自認は男だと言っても戸籍上はまだ女、のマコちんと。屈折したレズビアンカップルだ。

「メドウズって男の子につける名前らしいんだ。彼女の母親には何か考えがあったんだろうな。」

マコちんの言葉に

「母は男の子が欲しかったみたい。

母の好きなロックスターがいて、その人のミドルネームを付けたんだって。」

「メドウズは背が高いのね。」

マコちんが

「180cmあるんだよ。俺がなりたかったよ。」


 そこへ久しぶりにヒロシが顔を出した。

「いらっしゃい、ヒロシさん。

テレビのニュースで見たわよ。

あのスーパーモデルの山口リサは再婚していた、とか毎日のようにやってたわね。大騒ぎだった。

 山口リサは遺産を全部、動物愛護団体に寄付したって?」

 マスコミが騒いだからここでも知らない者はいない。

「ああ、もううんざりだったよ。

悲しむ暇もないな。この頃やっと静かになってきたよ。

 マコト、彼女出来たんだ?

紹介しろよ。」

「ヒロシさんさすがだな。彼女に見えるかい?

 みんな最初は俺の彼女だ、ってわかってくれないのに。

 メドウズだよ。俺の嫁さんだ。」

魅力的な黒人女性が微笑んでいる。

「初めまして。岩成田メドウズと申します。」

 ヒロシは名字を聞いてもしや、と思った。

「メドウズ、君はハーフだね。母親が日本人なんじゃないか?

 俺の知り合いかもしれない。

櫻子っていう名前じゃないか?」

「母を知ってるんですか?

そう、岩成田櫻子と言います。」

 ヒロシは

「ああ、昔よく知ってたよ。

幼馴染みたいなものだが、彼女が大学に入った頃から会ってないなぁ。

 黒人との子供を生んだ、とは聞いていたけど。もうずいぶん会っていないがお元気かな?」

「はい、元気で軽井沢の方で一人で暮らしてます。自然の中で暮らしたいって私が小さい頃軽井沢に移り住んだんです。」

 櫻子は世間に隠れるように、岩成田家の軽井沢の別荘で暮らしていた。

 メドウズもそこで育った。大学に入って東京に出て来た。東京で一人暮らしをして,卒業しても戻らなかった。 

 音楽関係の仕事をした。

バンドのローディをやった。背が高いせいかよく男と間違われた。楽器を運んだり、据え付け、調整などを男に交じって頑張っていた。ドラムに興味を持って、調整テクニシャンを目指したりしていたが、ある時、少し歌ったブルースが仲間内で評判になり、バンドのボーカルに誘われた。

「メドウズはロックバンドのボーカルなんだよ。」

 マコちんが言った。

「へえ、どんな音楽?

ここはジャズバーだけど。

ブルースとかもいいわね。」

「1980年代のハードロックが好きなんです。レッドツェッペリンとか。ピンク・フロイドとか。

サザンロックも好きです。ドゥービーブラザーズとか。

 私の歌うスタイルはジャニスジョプリンに影響受けてます。」

 ロックの話を始めたら止まらなくなったようだ。


 メドウズは、昔、自分を見失ってしまいそうだった。自分は一体何者なのか?

男なのか女なのか、黒人なのか日本人なのか。

 その葛藤は今でも引きずっている。

簡単には説明できない。誰にもわかってもらえないだろう。

 生物学的には女。だが、背が高いし、全体に男っぽい、と言われる。

 恋愛対象は,決まっていない。

女の子と付き合ったこともあるが何かしっくり来なかった。かと言って男と付き合うのも何か違う。

(自分はどんな気持ちで生きているんだろう。)

 そう考えると男の気持ちで生きているような気がする。男になって女を愛したいんだろうか?何か違う。でも女として男に甘える気にはならない。女が男に甘えるのが決まりではない。でも、時として男に甘えたい気持ちがある。弱いところを曝け出して男に庇護されたい。 

 そして逆に女を愛したい気持ちもある。男になって女を守り愛したい。甘えられたい気持ちもある。

 みんなそうなのだろうか?

男とか女とかじゃなくて、人として愛し愛されればいいではないか。

 精神的にはみんなアンドロギュノスなのだ。両方の気持ちを持っている。


第18話 マコト

 以前、マコトはヒロシと同じ葬儀社で調理補助として、働いていた。

 男になりたいと言って、乳房を切除して男性ホルモンを注射していることは、職場で隠さなかった。同僚はみんな知っている。髭のある外見で誤解されないように男性トイレを使っていたが、まだ、性器は女性のままだった。

 一つしかない個室を使っていると,後から入って来た奴らが

「マコト、クソしてるのか?

男は個室で小便なんかしねえぞ!」

「俺もうんこ出るぅ!早くしてくれよ。」

 用もないのにドアを激しく叩いて嫌がらせをしてくる。

 出稼ぎの外国人も多く、割と寛大な職場だったが、レズビアンには興味津々で色々とからかってくる。

 友好的で理解を示すフリをしていても、偏見は根強いのだった。

「マコちん、大丈夫か?

私の国では性転換は珍しくないよ。」

タイ人のソムチャイが慰めてくれる。

 それでも唯一の味方だったヒロシがリサの介護のため葬儀社を辞め、ソムチャイもビザが切れて帰国してしまうと職場は厳しいものになった。

 暗黙の差別にマコトは耐えられなくなって、とうとう辞めてしまった。

 知り合いを頼って新宿のレズビアンバーで働くようになった。


 新宿の店は、地下にライブハウスがあって、ローディが楽器を運んでいた。

 一階の路面店はカフェだが、マコトの働くレズビアンバーは二階にあった。

 背の高い黒人がドラムを少しずつ運んでいる。シンバルとかスネアとか、デカいバスドラとか、大変そうだった。

 二階に上がる階段を塞いでいる。

「ごめんなさい。邪魔ですよね。

すぐ片付けますから。」

 意外、普通に日本語で声をかけられた。しっかりと目を見て話す。

「手伝うよ。どれ運ぶ?」

「ありがとうございます。大丈夫。」

 バンド仲間が来て何人かで運び終わった。マコトは二階の自分の店に上がって行った。ただそれだけなのにマコトの心に残ったあの美しい瞳。漆黒の瞳。

(触りたかったな、あの綺麗な黒い肌。

でも、あの人は男なのか女なのか?

男だよな。背が高かった。)


 レズビアンバーと限定しているが,別にマコトは、こだわらない。店には色々な人が来る。

 店のママは女らしい男、だ。女装が大好きだそうで中々の美人だ。店のオーナーがママのパートナーで男装の麗人だった。宝塚歌劇団が大好きなんだそうだ。

 美しい男、いや女。このカップルはレズビアンではなくてヘテロになるのか。

 外見は逆転しているが正式に結婚していて、子供がいる。法律はどちらが父か、母か、なんてわからないだろう。

 結婚制度の意外な盲点だ。

子供が欲しい人は多い。マコトのような人間は男として女性と結婚するために戸籍を女から男に変えるには手術が必要だ。男性器を人口的に作る必要がある。

そして女としての生殖能力もなくさなけれはならない。卵巣を摘出するのだ。

 完全に女で無くなる。精巣も持たないから男にはなれない。

 一生自分の子供は作れない。以前マコちんが付き合っていたルイちゃんには2才の子供がいた。マコトはその子を猫っ可愛がりした。

「パパ」と呼んでくれてマコちんに懐いたが、現行法ではルイちゃんと結婚する事も出来ない。その子供を養子にする事も出来ない。家族になるにはマコトがルイちゃんの養子になってその子と兄弟になるしか方法は無かった。

 結局、性の問題でルイちゃんとは別れてしまったが、もう二度とあんな思いはしたくなかった。

 子供を欲しいと思うのは自分勝手なエゴなのか。女のままで普通に男と一緒になればいい。そういう意見が大半だ。

 それでもマコトは生まれた時の性別に違和感を感じ続けた。







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