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第12話 凪の情報

第12話 凪の情報

 有楽町の日比谷側、老舗のパブで凪と待ち合わせしている。

「朝早くてごめんなさい。ここで正しい英国式の朝食をいただきたかったの。

卵はどうする?ヒロシの好きなのは5分間茹でたものよね。トーストは、2枚でいいの?よく焼いて熱いうちにバターを塗るのよね。ここのオレンジジュースは生のオレンジを絞ってくれるのよ。

 珈琲より紅茶がいいかしら。お好みはダージリンよね。ミルクで。」

 凪は昔のヒロシの好みを忘れていなかった。甲斐甲斐しく世話を焼くのは何のためだ? 朝早くからヒロシを呼びつけて、昔の男に自分の所有権をアピールしたいのか。凪ほどの女が,男に所有権など主張するのか?

(俺の所有権などとっくの昔に期限切れだ。)

 ヒロシは長年和食に携わってきた。英国式の朝食など、なんだか食った気がしない、と言っていたはずだが何の罰ゲームだ?

「旦那は公職を退いても、なんだか政財界の誰某とパワーブレックファストだとかで朝から会議。そんな時はいつものインペリアルホテルに泊まるから、朝食は私一人なのよ。ヒロシは早起きだからちょうどいいと思ったの。

 老人は朝は得意でしょ。」

「老人とは酷いいいぐさだな。

俺の従兄弟は俺たちがここで会ってるのを知ってるのか?おまえのご亭主は?

俺たちが出来ていたのも知らないはずだが。」

「もう昔のことでしょ。彼は何でも知ってるわ。私が全部話したから。

 一時期、離婚したくて全てを話したのに、逆に執着が激しくなって大変だったことがある。その時から私たち夫婦に隠し事はないわ。愛情もないけど。」

 何にせよもう過去の事だ。みんな年をとった。ヒロシの従兄弟である凪の夫も今更嫉妬でもないだろう。

「噂が広がってる。ヒロシが山口リサと付き合ってるって。二人とももう70才は過ぎてるよね。年取っても恋をするのは素敵よ。でも悪い噂が聞こえてくるの。」

 凪が心配しているのは、それがただの恋の噂ではなかったからだ。

 山口リサは有名なカメラマンと結婚していた。彼のおかげで一世を風靡した。

体の線が崩れるから、と子供は作らなかった。それが年をとってからこんなにも孤独地獄に落ちるとは、若い時は考えられなかった。

 若い頃の数々の恋。男遍歴。ヒロシもその一人だった。やがて耐えられなくなったカメラマンは、離婚を切り出した。

 元々彼にとっては売名だけの結婚だった。その後は,夫の後ろ盾を無くしたリサの人生が一変する。あの華やかな世界から現実に引き戻される。

 もう若くはない。モデルを続けるには年をとり過ぎた。そして高過ぎるプライド。安いギャラでは動かない。

 初めはモデルを辞めても芸能界が居場所を提供してくれた。世界的なモデルだったのだ。その頃はファッション業界にとっても黎明期だったことに加え、カメラマンの夫の絶好のタイミングでの後押しがあったから売れた。その後ろ盾を無くして一人。芸能界は彼女を消費し尽くした。

 テレビのバラエティ番組では馬鹿なことをやらせて笑いをとる。

屈辱以外感じられなかった。それでも耐えていると大衆は飽きてくる。もっともっと馬鹿にならなければ、ここでは生き残れない。

 ドラマ出演の話が来ても、演技など出来ない。演技を学んだ事はない。

 大根役者、と笑われる仕事しか来なくなる。

 彼女自身、若い頃は遊ぶのに忙しくて碌に学校にも行かなかった。中学生の頃から夜の街で遊び呆けていたのだ。

 痩せているのが流行りだった。ツイッギーという小枝のような女の子がもてはやされていて、ミニスカートから細い足を見せるのが流行りだった。夜遊びに知性も教養もいらなかった。

「彼女のプライドはもうズタズタだったみたい。そしてついにヌードになるしかない所まで追い詰められた。彼女は長年モデルとして、洋服を綺麗に見せる努力をしてきたの。身体そのものを見せる事は想定外だった。胸は出来るだけ小さい方が洋服を引き立てられる、そんな時代だったから、ヌードに必要なセクシーさを彼女は持ってなかった。

 ふくよかな女性らしい身体はモデルには向いていない、と言われる時代だったのよ。太らない体質なのに更に無理なダイエットを続けていた。1ミリでもサイズが変わるとモデルの仕事は来なくなる。それが身についてたのね。

 もう、ヘアヌード写真集を出そうなんていうオファーも来なくなった。」

 リサ自身、自分の納得出来ない事は絶対に譲らない、自分が耐えられない仕事に譲歩する事はなかった。その頑固さは芸能界では次第に疎まれていく。使い勝手の悪いタレントはいらないのだった。


 昔のコネで、なんとか六本木に高級輸入雑貨の店を開いた。

「日本人には初めてのような高級品を扱う店よ。バブル景気に乗って高級品が飛ぶように売れたのよ。

 この辺りの事はヒロシもよく知ってるでしょう。」

 凪は顔が広いから色々な噂が入ってくる。ゴシップなんかに興味は無いが、事が自分の知っているヒロシに及んで,俄然気になったらしい。

「凪、俺、リサにプロポーズしようかと思ってるんだ。」

「やっぱり噂は本当だったの?」

凪の周りで飛び交っている噂とは、元有名モデルの資産目当てでバツイチ同級生が結婚を申し込んだ、というものだった。


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