第11話 マコちん
第11話 マコちん
「ママ、おはよー。」
ジャズバーの口開けにレズビアンのマコちんが入って来た。
「マコちん、今日は一人?」
「そ、彼女に振られた。
ルイちゃんは可愛かったなぁ。
やっぱり、男がいいんだって。」
マコちんは元,女、だけど性自認は男だ。乳房を切除して男性ホルモンを注射している。切除した乳房の写メを見せてくれる。髭も生えていて中々のイケメンだ。俳優の山田孝之に似ている。
強面に見せている。ずっとレスリングをやっていたとかで、ケンカには自信があるという。男っぽい性格だが,ちょっと背が低い。女なら165cmは小さくはないが、マコチンの理想はガタイのいい、男らしい男なんだそうだから身長は悩ましい部分のようだ。
「180cmは欲しかったなぁ。」
と言っている。
「ルイちゃん、マコちんにベタ惚れだったじゃない。どうしたの?」
「男がいいんだって。どんなに愛しあっても、達成感がないって言われた。
何だよ,俺だって努力してたのに。」
「惚れてしまえは男も女もないのか、とおもったけど、ねえ。」
「ああ、俺は男になりたいのか、女を愛したいのか、わからなくなって来たよ。
自分の身体は中途半端だ。毎月ホルモン注射に通わないと生理が来ちゃうんだよ。髭が生えてるのに生理、だよ。
男にも女にもなり切れてない。
努力しなくても男の身体に生まれた奴はずるいよ!」
ビールを舐めながら、そんな話をするマコちんは,実はほとんどお酒が飲めない。この店はよくある居酒屋のような生ビールとかのメニューはない。
ママのこだわり,というよりビールサーバーの掃除がめんどくさいらしい。清潔に保つには色々なものを欲張らない事、だそうだ。
それでこの店はスコッチのシングルモルト専門店,という事になっている。
ビールは小瓶だけ。あまり飲めないマコちんにはちょうどいい。
「ママ、俺は女が好きなんだ。
女を抱きたいんだ。喜ばせたい。」
そこにヒロシが入って来た。
「おうっ、マコト、今日は一人か。
あの可愛い彼女はどうした。」
「ヒロシさん、俺、またフラれたよ。
俺には足りないものがあるんだって。」
「男と女はデコとボコ、だからなぁ。
マコトだと、ボコとボコだ。足りない所は愛で埋めるんじゃないのか?」
「埋まらなかった、あーあ。」
「おまえは若いから埋めようとするんだな。俺はこの年になってやっと埋めることを考えなくなったよ。
男も年取ると穴埋めだけが目的じゃなくなるんだ。」
「ヒロシさん、何の穴埋めの話?」
ママが笑う。
「年をとるとあっちの方が元気をなくす。朝だって勃たないけど、愛情でカバーできるのさ。無くしちゃいけないのはズバリ、性欲だ。精神的な事も含めて、性欲を無くしちゃいけない。
スケベな気持ちを持ち続けるんだよ。
もちろん品位を無くさずに、だよ。」
「そうか,そうだよね。俺は性欲が強過ぎるってルイは嫌がったけど、品位,なんだね。恥ずかしい事じゃない。」
「で、ヒロシさんは『大宮のスケバン』と充実したセックスライフを送っている訳ね。」
「ところがそうでもないんだよ、ママ。
俺、一緒になろうか、と考えてるんだよ。」
「まあ,素敵。でもこの前、やっと離婚が成立したばかりでしょ。
どういう心境の変化なの?」
ママが驚くのも無理はない。もう結婚は懲り懲りだ、と言ってたはずだ。




