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司馬懿ちゃんをオトそうとしたら男装百合ハーレム!?  作者: 寝留ひびき


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第04話「反酒の計」

出来上がってるのに予約投稿忘れてました汗

 赤壁の決戦がジリジリと迫りつつある、ある日の夜更け。

 ボクの知らぬ水面下で進む謀略《ぼうりゃく》の数々。そんな歴史の大きな歯車が軋《きし》む中、自分の天幕《てんまく》で独り頭を抱えているボク……。

「はぁ……まさか、赤壁の謀略《ぼうりゃく》にまで巻き込まれるなんてね」

 祈祷《きとう》だけで済まなかった。身なりを整えながら、私は机の上の壺《つぼ》を眺める。 中に入っているのは、実家の酒屋の技術から何度も失敗してはたどり着いた、この時代ではありえないほどの高濃度蒸留酒《こうのうどじょうりゅうしゅ》だ。アルコール度数は優《ゆう》に五十を超えている。医療用の消毒や傷の洗浄用に持ち込んだものだったが、まさかこんな形で役立てる事になろうとは……。

 ため息の理由は、周瑜《しゅうゆ》からの手紙であった。

『成功のために、酒屋の娘たるそなたの力を貸して欲しい』

 こういう時はあれだ……。素直に従うより先に、まずは相談する事が肝要《かんよう》だ。ボクの裏切りを疑われない為にも。

 そう思ってボクは諸葛亮の天幕へ。

「ほう、周瑜からの手紙ですか。龐統《ほうとう》にはまだ?」

「そうです。今回の総司令感である諸葛亮先生へ一番に見せるのが筋かと思いまして」

 ボクがそう言うと、諸葛亮は笑った。いや、一瞬、いつもの丁寧な笑みの奥に、何か温度の違う色が滲んだ気がした。

 なんだろう、今の違和感は……。

「私に相談いただいて助かりました。是非、この策に乗じてください。私からも貴女へ、判断に困った時の対策を手紙で与えたいと思います」


*


 翌日の夜。周瑜に誘われるがままに、彼女の旧友も居る飲みの場へ。見張りだらけの呉軍の奥まった場所だ。ボクはそこで特製の酒を作り、周瑜の旧友が曹操軍に密かに戻る際に偽りの書を持ち帰らせる――という手筈《てはず》であった。

 周瑜殿も正気だろうか……? 警戒すべき劉備軍の新参を天幕に入れるだなんて。

 そう思いながらボクは特製の果実酒を作る。辛いのから、甘いのまでふんだんに揃える。酌婦《しゃくふ》……つまりは女バーテンダーとも言える。

「おお、周瑜殿が招かれた酌婦は天女のような美人でございますなぁ。周瑜殿とも引けを取らない美しさだ」

「おい蔣幹《しょうかん》、"子鳳《しほう》"には手を出すなよ? 君だって美人ではあるから可能性はあるが、私のお気に入りの酌婦で口説いてる最中だ。彼女には本命が居るようでな。だから、絶対に手を出すなよ?」

「あ、ああ。分かっているさ」

 何度も釘を刺しつつも、周瑜のおだてる口も上手い……。

 なんだよ、美人だからって誰にでもボクが口説かれる可能性あるのかよっ! ボクはそんなに面食いじゃないぞっ!

 内心プリプリ怒りつつも、周瑜の指示された通りに酒を出す。まずは辛いのからだ。

 二人が乾杯をする。

 作戦を思い返す。頼まれた時の周瑜の話ではこうだった。

『君にも協力してほしいのだ。曹操軍の手先の癖に、偶然を装い会いに来た同郷のあの男を完全に油断させるために。君が直接、その美しい酌婦として振る舞ってくれないか? 君のその天より遣《つか》わされたかのような美貌と美酒のコンボなら、蔣幹の警戒心など秒で溶けてなくなるはずだ』

 そんな策略であった。細かい策を教えられていないとて、そんなにすぐに信用していいのだろうかこの美人は。

「おお、なんとっ! こんな酒は飲んだ事がない……!」

「酒屋の娘だから詳しいのだ。ほれ、とっておきの甘いのも出しておくれ」

「分かりました」

 素性を素直に言う訳にもいかなく、ボクは唯々諾々(いいたくだく)と従うしかなかった。

 くそぉっ! 諸葛亮先生も周瑜様もそれを分かっててボクをここに置いているなっ!

 悔しがるボクをよそに、二人はボクの酒に喉を大きく鳴らす。

「なんだこの桃のような果実は……! いや、酒なのか……! このような美酒と美人に出会えようとは! 我々の出会いに乾杯!」

「乾杯! そうであろう! よいであろう! ゆくゆくはこの男装の麗人も口説きオトして我が嫁に加えようと思うから、その祝杯の時には君も呼ぶとしよう、蔣幹《しょうかん》よ!」

 ひぃ~っ!

 なんでこんな中で黙ってないといけないんだよっ! 周瑜も、この策が失敗したら一大事だからって調子に乗ってるなぁ~っ!

 と、困った時の諸葛亮先生からいただいた手紙だ。どれどれ?

『周瑜に気がある素振りをしなさい』

 なんでやねんっ!

「どうかしたか? 子鳳よ」

「い、いえ……。その、周瑜"様"もこのような美人のお友達がいらっしゃるだなんて、隅に置けないなぁと」

「おお、なんだ子鳳よっ! 嫉妬か? 嫉妬であろうなっ!」

「はははっ! かわよい嫉妬でございますなぁ! これはまたこの美酒が飲める日は遠くは無さそうだ!」

 くぅ~。ボクには司馬懿ちゃんというモノがあるのに、好き勝手言いやがって~。だが、諸葛亮先生の策なんだ……。

 つ、次の策を……もう早いけれど……。

『祭壇はただの演技でお飾りだと白状しなさい』

 なんですとーっ!

「ど、どうしたのだ子鳳よ。先ほどから変な様子だぞ」

「うぅぅ……お酒が回って来たのでしょうかねぇ」

 と、自分の果実酒をぐいっと煽る。その飲みっぷりを見て二人は拍手を上げる。

 顔は真っ赤だ。顔に出やすいのだ。しかし、体も頭も強い。どれだけ慎重にボクの体でアルコール実験をしたと思うのだ。ボクの肝臓が人より数倍優れている事くらい知っている。

「それにしても、風向きを変えるだなんて、劉備軍の諸葛亮殿も無茶な話ですよね~。昔の族がまやかしで風を操ったとされる真似事かよって感じです~」

「……此度《こたび》の戦略の話か。そうであるな。無謀な策と思う」

 そこに、蔣幹が乗っかる。

「なんですか、その、風向きが変わるというのは」

 食いついた。ワザと嘘情報を掴ませる。敵に風向き以外を警戒させる。そういう事なんでしょう? 諸葛亮先生。危ない橋を渡らせるなぁ~!

「いやな。火計を取り入れようという話なのだが、この風では曹操軍の船にはなんの痛手にもならぬという事だ。蔣幹もそれくらい分かるであろう?」

「なるほど、火計でございますか……。それは確かに、呉軍に火の手がかかる無謀策でございますなぁ!」

「だからよ、祈祷により風向きが変わるとあえて火計を警戒させて、本命は別にあるという策を、今考えておる」

「ほほう! その策とは!」

「今考えている最中と言ったであろう! おっと、君には軍事的な話をし過ぎたな。子鳳よ、君は黙って酒をついでいなさい」

「分かりました」

 しゅんとする。ボクのせいじゃないのにぃ~っ! しかし、周瑜も焦りつつ乗っかった。より蔣幹を騙しやすくなったと考えたのだろう。


*


 我々三人は解散した。蔣幹には、曹操軍の将を疑いにかける密書をわざと盗ませて。

 しかし解散したのは三人のグループが、というだけであった。二次会でベロンベロンに酔った周瑜が、ボクをつれて、楽女の宴を催したのだ。

 そして、諸葛亮の最後の手紙にはこう書いてあった。

『周瑜を懐柔するために最後までもてなしなさい』

 諸葛亮ぉーッ!

 どこまで先を読んでいるんだ、あの軍師様は……! というか!

 ボクの気持ちは無視かっ! 無視なんだろうっ! くぅっ!

 周瑜はボクの膝の上で気持ち良さそうにしている……。ぐぅ、ごめんね司馬懿ちゃん……ボクは浮気みたいな事をしているよっ! ごめん! って心の中で、叫びながら……!

「鳳蓮よ、我と、音楽による世の平定を、目論《もくろ》むつもりはないか?」

「ありませんよ。残念ながら音楽だけでは、それは成し遂げられない。それに、ボクは心に決めた人がいるんです」

「誰なんだそれは」

 ボクの膝の上に頭を乗せたまま周瑜は不機嫌そうに言う。ボクは色んな事を考え、そして笑顔で誤魔化す。

「秘密です」

 言うと一瞬、惚《ほう》けるような顔をしたと思ったら、今度は不貞腐《ふてくさ》れる彼女。大人びた顔なのに、なんだか子どもみたいだ。

「なあ鳳蓮よ……。最後に、琴《きん》を弾いて歌ってくれないか。君の才覚ならば造作もない事であろう」

「……まあ、これで解散にしてくれるのならば」

 言われて、楽女から楽器を借り受ける。弦楽器の仕組みはどの時代も一緒だ。あとは、弓などで弾《ひ》くのか弾《はじ》くのかだけ。音楽の授業でやったように、耳で聴いて、ピアノでいう白鍵の場所を中心に覚えてゆく。そして、コードの構成音をなぞり、弾く。

 周瑜の頭を膝に乗せたまま、日本での歌のメロディに乗せて。それはアニメのイメージソングのように、周瑜の人生を意識して讃える詩《うた》。三国志の知識しかないけれど、来歴としては大きく間違ってないはずだ。

「うわぁあああ!!!」

「周瑜様っ!?」

 すると彼女はは大泣きしてしまった……! 楽女もいるというのに、恥も外聞《がいぶん》もなく。

「なぜ君が劉備軍なのだ……! 孫呉《そんご》に居ない……! 君が居れば……私は……私は……! こんなにも独りで戦っているのに……うっ、うぅぅ……」

「あっ、周瑜様……! 誰か、吐く為の桶《おけ》をっ!」

 そうやって、背中をさすりながら、水を与える。くっ、悪酔いするまでに飲ませすぎたか……。ボクの方で加減が必要だったか……。


*


 ずっと背中をさすり、また泣く周瑜の頭をさすり、ボクよりも大きな美人をあやし続け。

 空も明み始めた頃。ようやく落ち着いたようだ。彼女も粗相《そそう》をした自覚があるのだろう。恥ずかしそうに、赤く、目を背ける。

「その、済まなかったな。今日の事は……忘れてくれ。策は、どう転んだとしても、劉備軍を悪いようにはしない」

「ええ、ありがとうございます。周瑜様もお一人になりたいでしょうから、ボクは失礼します。手土産に、ボク特製の酒をお持ち帰りください」

「感謝する……。片時も離さず持っていよう」

「もう……。健康な時にチビチビ割って飲んでくださいよ」

 と笑いながら、自分の馬と忍者隊を従え、ボクは劉備軍の陣へと帰るのであった。

 ボクの目にこびりつく周瑜の潤《うる》んだ瞳に、後ろ髪を引かれる想いを携《たずさ》えながら。

メインヒロインかってくらいの思わぬ出来です……。


周瑜は後でも最高の活躍をするので、楽しみに待っていてください。

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