7話 王子の誕生祭
日が経つのは早いもので、色々考えている間にパーティー当日となった。
私はメイドたちが用意した、とっておきのドレスに身を包む。
深い緑に故郷への配慮なのか、真珠や海を思わせる宝石でドレスは装飾されていた。
綺麗な服や宝石は心躍るものだ。
「素敵ね…」
「とってもお似合いです、レオナルド様と隣にいて映えるかと!」
「ちょっと…なんで彼が出るのかしら」
メイド達はキャーキャーと、それは〜、えー言えないですよ〜等とはしゃいでいた。
マチルダが前に出てコホンっと咳をすると、一斉に姿勢を正すどんな時でも彼女には頭が上がらないようだ。
「今宵の主役はレオナルド様…そして継いで異国の交友を示すミネルヴァ様でございます」
「来賓する各諸国の貴族の方々に、我が王国の権威を示す為にも両人並んで映えた方が良いのです」
(思ったより真面目な理由ね…)
あの若いメイド三人衆からは想像もできない言葉だが、後ろ彼女たちを見るとそれだけじゃないですよ〜と少し不満そうだ……
一体私と彼の何を考えているのかしら、…想像はつくけど考えたくないわね。
「お時間になったら馬車で向かいますよ」
「ええ、分かったわ」
何も考えないで今日を過ごしたわけじゃない。
エーデルとレオナルドのやり取りから、二人が仲睦まじくするのは無理と分かった…
つまり……
“彼を殺すしかない”
だとしたら暗殺の好機は、人に紛れたり自由に動きまわれるパーティーが望ましい。
それまでひっそりと待つことにした。
(賭けにはなってしまうけどこれが一番いいタイミング)
杖がなくとも多少の歩行はできるほど私は陸に適応していた、元々歩いていたという前世の力なのか思ったよりも生活ができるようになった。
何とかして二人きりになる機会を設ける。
「私の持って来た髪飾りつけてもいいかしら?」
「勿論です」
腰に巻いて持ってきた小さな布袋を開く、そこには髪飾りと人魚の国の練薬を入れた貝殻等最低限の美容品しか入れていないように見える。
実はこの髪飾りは刃が仕込まれている。
仕掛けを作動すると刃が出て護身用になるものだ、刃には私の国の毒が塗られている。
王子の命を奪うための――
その髪飾りをつけ鏡をのぞく問題ない事を確認して、私達は馬車へと向かった。
付きましたよと扉を開けると懐かしい潮の香りが鼻腔をくすぐる。
大きく豪華な客船が私達を出迎えた。
大きな帆や活気ある水夫たちの光景にくぎ付けになっていると、赤い髪が視界に割り込む。
「やぁ!!」
「ちょっとなんでいるのよ!?」
「お父様に君の相手をするよう仰せ使ってね」
来賓の相手に一々王子を出すとは、陛下も中々に手厚い扱いだ。
「……エーデル嬢の事はいいんですか?」
「あー、まぁ陛下の命令が優先だからね」
何かやましい事はありそうだけれど二人のことだし詮索は辞めましょう。
それにどうせ今日で終わりなんだから――
「そのドレス似合ってるよ、黒い髪に真珠もよく映える」
「お世辞は結構よ」
「本当だよ!!その髪飾りも素敵だ」
髪飾りを指摘されドキッと胸がざわつく。
彼の言葉を軽く受け流すこの会話も何処か重く感じていた。
「そうだ人魚たちが今日は運航の護衛についてくれるとの事だけど…見えたりするのかな?」
「基本的には海面にはでず支援しているはずです、運が良ければ見えるかもしれません」
「そっか残念だな〜」
父が外交として出した一つに、海の航海での支援が含まれている。
危険な海域を進む際の安全なルートや魔物たちからの警備などだ。
無事終わるといいけど…
「じゃあ行こうか」
「ええ」
私達は船に乗り込む。予め配置された使用人たちが、会釈をし私達を向かい入れる。
既に多くの料理が並び、続々と人が入り始める。
皆が煌びやかに着飾り、それぞれが美しくパーティーを彩っていく。
(流石は王子の生誕祭…この派手さに妹が目を奪われるのも納得ね)
私はレオナルドに連れられ目立つ船首へと向かっていく、ここで開幕の挨拶をするのだろう。
出航の時間が近づくにつれ騒がしさを増していく。
その中にはエーデルの姿もあった、目が合うと忌々しそうにこちらを見つめる。
ダンスホールの事を思い出し寒気がする…ここに居るのが妹でなくて良かった……
あの子があんな目に遭わされるかと思うと耐えられない。
「さてそろそろ時間だね」
彼は二つのグラスを取ると一つを私に渡した。
船に乗るための道は回収されていく、いよいよパーティーが始まるのだ。
ミネルヴァは少し端のほうに行き彼が挨拶するのを見守る。
「皆様今日という日にお集まり頂き光栄です、俺の生誕祭を祝に来て下さり誠に感謝致します」
「ここで一つ、皆様にご報告があります」
彼は私の方に来ると手を引いて視線の集まる場所へと連れて行く。
「この祝祭のもう一人の主役、彼女はミネルヴァ・アクアリア――人魚の姫君です」
ざわざわと周りが喋りミネルヴァを興味深そうに見る、もの珍しいのだろう。
「あれが例の…」、「噂は本当だったのね」と貴族達はざわざわと小声で噂をする。
「我が王国は海底に住まう幻の人魚族と同盟を交わしました、我が国は彼女を介し益々豊かになるでしょう」
「それでは皆様、我が国の未来に乾杯!!」
レオナルドはグラスを掲げた、皆もそれに合わせグラスを掲げる。
「「「乾杯」」」
その言葉は、パーティーの始まりを告げる言葉となった。
すぐ様会場は賑わい始める。
料理を堪能するものや、曲芸に見入るもの、音楽に耳を傾けるもの各々形でパーティーを楽しんでいる。
レオナルドは会場に向かうとあっという間に人に囲まれる、彼に取り入れたい貴族や商人は多いのだろう。
手に持つ飲み物を少し口にする。
(ワインってこんな味なのね、あまり好きではないわね)
「こんにちは海の姫君」
体格の良い若い男性が私に話に来た、高そうな指輪やブローチを身に着けている。
きっと羽振りが良く身分が高い人物なのだろう…
「是非、お話をお聞きしたいがよろしいか」
「一体何をお伺いしたいのですか?」
「王子とはどのようなご関係で?」
一体何を思ったのかしら…レオナルドには婚約者がいるのに邪推がお好きね…
「どういう関係も何も、同盟した国王の子同士交流しているだけですわ」
「特別な関係ではございません」
私達は言わばビジネスだけの関係だ…レオナルドが私に親切なのも国を慮っての事だろう。
何処か寂しさをミネルヴァは感じる。
「なら良かった、あちらにゆっくりと出来る場所があってそちらで話しませんか?」
良かった?どういう意味からしら……
どうしましょう…身分は良さそうだし断りにくいわね。
私が行動するのは夜だ、まだ日も高いし何かできるわけでもない――
(少しならいいかしら……)
「ミネルヴァちょっといいかな」
振り返ると、レオナルドが直ぐ側にいた。思ったよりも至近距離でびっくりする。
「どうしたの」
「会わせたい人がいてね」
いつも通り笑っているが何処か違う雰囲気にミネルヴァは首を傾げる。
「君は…ノイマン伯爵家の子息だったかな?彼女に急ぎの用でも」
「いっいえ、レオナルド様…珍しい来賓の、お話を聞きたかっただけですよ」
「そうかい悪いね」
レオナルドはミネルヴァの肩を抱き彼に背を向けて歩き出す。
彼は一度だけ振り返る。
ノイマン家の子息へ向けたその視線は――刺すように鋭かった。
ミネルヴァはレオナルドに連れられ人混みを通っていく。
「そういえば、会わせたい人って」
「あぁ、それ嘘だよ」
「はぁ!?」
苛立ちを覚え私は彼の目を見る、バツの悪そうな顔を彼は浮かべる。
「彼は好色家で有名なんだ、何も知らない君を個室に連れ込もうとしてたんだよ」
「それは気が付かなかったわ…」
そういった目で男が見てくるのを考えていなかった…
人間以外でもいいのかしら……寧ろそれがいいの?
感覚がさっぱり分からないわね。
「君はもう少し…」
何かを言いかけてレオナルドは言葉を詰まらせる。
ミネルヴァは聞いてなかったのかクルッと振り返り
「なにか言った?」
と尋ねる。
「……いいや何でもないよ」
と口を彼は濁してしまった。
隙を伺いながらパーティーをすごす、周りには常に人がいる状況で、全く暗殺など出来そうもない。
しかし幸いレオナルドは私から離れず、むしろ常に行動してくれている。
彼の挨拶や交流に同伴している内に――あっという間に夕暮れ時となる。
海を見ると揺れる水面は光を反射しキラキラと輝いていた。
(夜になれば妹が、王子を見てしまうその前に――)
「ミネルヴァ、パーティーは夜から本番だ」
「ええそうね」
「その前に少し二人で休憩しないかい?」
「、っ」
急なチャンスの到来に胸の音が跳ね上がる。
二度とこんな機会はないだろう、一瞬言葉を詰まられせてしまう。
しかし答えは決まっている――
「そうしましょう、私も慣れない歩行に疲れてしまったわ」
「じゃあ行こうか」
私達は船内へと向かった。
船内は少し暗くなってきておりますランプが吊るされていた。
ゆらゆらと揺れる火がまるで私の気持ちのようだった。
扉を開くとベットと椅子が用意された簡易的な部屋だ。王子を迎えるには、些か簡素に見えるが海の中では仕方のない事なのだろう。
(でも今思ったけどこの密室で王子が死んだら、私ってバレるわね……)
(予定通りじゃないとやっぱりだめね)
私は椅子に腰掛ける。
「はぁ~疲れた」
彼はベットの上にドカッ座り疲れを訴える。無理もない、パーティーが始まって以来ずっと喋り放しだったのだ。
「王子様って大変ね」
「これも公務だからね、陛下が居ない分しっかりしないといけない」
「たまに全てを投げ出したくなるよ…」
その言葉は、暗く彼の表情も陰っていた。彼は王位後継者であり、背負うものは私と比べものにならないのだろう。
「君は辛くはないの?……こんな味方のいない異国で」
「私には…妹がおります、その子の為にもより良い未来が気づきたいのです」
「その為ならどんな事だってやります」
私は妹の未来を守る、その意思だけは変わらない。
レオナルドに正直に言えば情はある、けれど…彼が引き起こす恋はあまりにも残酷だ。
私はそれが許せない――
「かっこいいね、俺には出来ないや」
彼はそう立ち上がると私の方へと近づく、私と目を合わせた――その顔はとても悲しそうだった。
「ごめんね」
その言葉の真意を考える暇なく、変化が訪れた。
彼の雰囲気が変わって見えた――
「“輝ける者(ポイボス)”」
彼の瞳が…いや彼が輝いた、その光は眩いが不思議と目には痛くなく入り込んでくる。
彼の顔が近づく。
唇が触れそうなほど近く、吐息の音がする――
バチンッ――
私はその顔を全力でビンタした。




