6話 救いか災いか
「レオナルド様!何故ここに」
「マリーから君に追い返されたと聞いてね…やってきたんだ」
「そんな事はどうでもいいじゃない、ご覧になって!!」
エーデルは手を広げ私を指さす、その姿は舞台の役者のように大げさだ。
レオナルドに足を見られる。
気持ち悪い…そう思うわよね。
物語の人魚姫が人の足を手に入れたのは、“好きになってもらえないからだ”どんなに美しいと言われても私は彼らから見れば異形だ――
「どう思う!!この姿?ほら醜――」
「――美しいよ」
彼は彼女の言葉を遮る。
彼女は気が抜けたような声で「えっ」と掠れた声を喉から漏れる。
エーデルの顔が凍りついた。
「煌めく緑がかった鱗も
雄大に泳ぐことが想像できる鰭も――美しいよ」
ミネルヴァを映した彼の赤い瞳は、宝物を見つけたかのように目を細める。
しかしエーデルに視線を移すと、温度のない視線を向ける。
「彼女を貶める為にしたのか?」
「わっわたくしは国の為を思ってっ――!!」
「国の為…?陛下の意向を無視することが
君の“愛国心”かい」
そうエーデルに詰め寄るが、彼女はキッとレオナルドを睨み返す。
「認めませんわ……こんな女魚が我が国に何を齎すというの!!」
「仕方ない――」
呆れたような表情を彼が浮かべると、鋭い目をする。するとキラリと一瞬彼が輝いたように見えた。
「エーデル」
「――俺のために、部屋に戻るんだ」
「――っ、畏まりましたわ」
先程の感情的な様子が嘘のように彼女はダンスホールから出ていく。
(助かったの?)
(でもなんでこんなにも不安なの…?)
言うことを聞くにしては、あまりにも何だか唐突に見えた。
レオナルドが近づくとミネルヴァは顔をあげて感謝を伝えようと口を開く。
「レオナルドありが――」
言い終える前に彼の腕に引き寄せられた。
ギュッと彼の腕の中で彼の熱が伝わってくる。
人魚の身体だからか、彼の体温は思ったよりも暑く感じられた。
そう離れ彼は私の顔に触れる。
至近距離で目が合った、吐息が感じられる距離感。
(離れなきゃ――)
そう思うも衝撃からか身体は動かない。
ここなしか彼の目が光っているように見え、見入るように見つめてしまう。
「怪我はない?」
彼の声にハッとする。
「えぇ、水をかけられただけだから…、というか近いわ!!」
そう彼の胸に手を押し当て、仰け反る。
「良かった、君のお父様に申し訳が立たないからね」
(まぁそうよね私に好意があるわけじゃ……、私…何を考えているの?)
(こいつは妹を悲劇に導く存在なのよ!!絆されちゃだめ)
「それ……治るというか、戻るのかい?」
「タオルで拭けば治ると思うわ、海から出た時そうだったから」
そう海から上がった日のことを思い出す。
「なら…誰にも見られないか」
「そうね気味が悪いでしょうし、出来れば隠したいわ」
「えっ」
エーデルのような人がいるという事は、他にもいると思うのは自然だと思うのだけど…何か彼には違う意図があったようだ。
(……何か変な事言ったかしら?)
「それより拭くものを」
キョロキョロとレオナルドは見渡すが拭けそうな物はなく困り果てる。
「――不服だけど部屋まで運んでくださらない?」
「もちろん喜んで」
レオナルドはマントでミネルヴァの足元を覆い部屋へと急いで向かう、自室にたどり着くとそこには誰もいなかった。
「タオルは確か…マチルダがそこに入れていたと思うわ」
そういうとレオナルドはタオルを持ってきて渡してくれる、本当に至れり尽くせりで自分が嫌になる。
「流石に見ているわけには行かないからね」
そうレオナルドは背を向ける。
「ねぇ――」
「今日はありがとう、貴方がいなきゃ私どうなっていたか…」
立ち去ろうとするレオナルドにその言葉を告げる。
それは先程言おうとして言えなかった言葉だ。
「どんな時でも、俺が君を助けるよ」
そういつも通り彼は笑顔で、本当なのか分からない言葉を吐いて部屋を出ていった。
部屋を出たレオナルドは少し思いふける。
「あの時…俺は何を思っていた?」
それは…
君を、誰にも見せたくなかったんだ。
「…使うつもりはなかったんだけど」
レオナルドは自分の手のひらを忌まわしそうに見つめる。
(普段ならもっと穏便に済ませられたはずだ……)
(怒りが込み上げて出来なかった)
ギュッと力強く拳を作り出すと前を向き、何かを心に決めたように廊下を進んだ。
「次のチャンスは…船の上」
それぞれの思惑が交差するその舞台は、海の上へと向かっていた。
修正
タイトル編集しました、誤字を修正しました




