25話 失墜と罪
マリアは、焦っていた。
隠れ蓑であったランデールの罪が明らかになり、立場が危うい。
(嘘でしょ…ランデール卿が。不味いわ……この事が出回れは国での私の心象は最悪だわ)
「マリア殿」
「はっはい!?」
「貴方には後ほど話を伺います、兵が付き添いますのでくれぐれも事実で待機するように」
「わっ私は何もしてません!?」
「してるしてない関係なく君は当事者だろう」
レオナルドはマリアの察しの悪さに、あからさまにため息をつく。
「あっ、…そうでしたね」
そう答えるとマリアは、悔しそうにミネルヴァを見ると兵達と共に出ていった。
マリアはいいとして――彼女はどうするのかしら?
何処かに幽閉されていたはずだろうに…、何かを条件にレオナルドに協力したのは確かだろうけど一体何を条件に?
「ジロジロみて何かしら魚女!!」
「いや…なんでレオナルドの味方をしたのかと思って」
「そんなのアルカディア王家の血の正当性を守るため――と言いたい所ですけど違いますわぁ」
「じゃあ何?」
「マルシャン家の叙爵…つまりは爵位の剥奪をしないと約束頂いたの、――私はマルシャン家の悪女として全て私の独断だったと断罪されるわ」
「……えっ」
家族は救われるが結局エーデルは…高台に立つ彼女を想像し私は手を抑える彼女は冷静だった。
自分の未来がわかりきっているのだろう…むしろそれを観る側だった。
「異国に君を含む一族諸共亡命する…それぐらいの温情はあってもいいとは話したんだけどね」
「それではマルシャン家の威光を失いますわ、それこそ一族の恥ですわ!最も私のせいですけどね……」
ちらりとエーデルは私を見る。
「今でもあの女が憎たらしいし間違ってるとは思えないわぁ――でも……お父様達に迷惑をかけたのは事実、それは令嬢として血にかけて報いなければ」
彼女はあの時から何も変わっていないのだろう。
そして私怨がありつつも私に対する罵倒は、きっと国の為で正しいと信じていたのだ。
余りにも私怨で事をなす愚かな女だった、…けれど国を愛し侯爵家に誇りがあったのもまた事実なのだろう。
「貴女を恨むわミネルヴァ・アクアリア――貴女なんか大嫌い!本当に殺してやりたいぐらい嫌い!!……でもレオナルド様を傷つける奴はもっと嫌いよ!!」
彼女は感情を吐き出し私に告げる、泣きそうな顔で。
彼女のレオナルドへの思いは、本物なのだろう――そして時期が来れば彼女の未来など無いのだから…その無力感を私にぶつけているのかもしれない。
「だから…その役割は譲ってあげる、レオナルド様に近づく奴は今度は貴女が排除する事ね、光栄に思いなさい元婚約者である私の後釜よ!!」
「おいおいエーデル何言って…」
「分かったわよ、言われなくても彼は誰にも渡さないわ――貴女にもね」
意地悪な役回り誰だって本来は貰いたがらない、それでもそう答えたのは…レオナルドの為に一生懸命だった事は認めてもいいと思えたからだ。
彼女のした事は許せない。
けれど恋をした一人の令嬢だった事を誰も覚えていないのは悲しく思えた、だからわざと私は突き放すようにそう告げた。
エーデルは少しキョトンとしたあとに、涙を指でふき取る。
「そう……、本当にイヤな女!!」
そう清々しく言い放った彼女の顔は、とてもあどけない少女のようだった。
話し終わったあとエーデルは兵に連れられ、また戻っていった。
ランデールの事は王城に広がり、明日には新しい議会が行われるそうだ。
「意外だった…エーデルがあんなに協力的だとわね」
「……貴方が好きだったのよ、彼女ランデールに怒ってた彼女なりに貴方が大切だったんだわ」
「そっか…意外に俺の事考えてたんだなぁ、マルシャン家の為に協力するって言った時もビックリしたけどね。……もうちょっと向き合えば良かったのかな俺――もう何もかも遅いけど」
「……そうかもね、構ってくれなくて突き落としちゃった気持ち少しわかるかも」
「えっ!?」
ちょっとした意地悪だ、しかしかなり彼には堪えたらしい。オロオロとその表情はかなり焦っている。
「冗談よ」
「笑えないなぁ」
きっとレオナルドがこの事をこの先後悔しない日は無いのだろう。
本当は何もかも捨ててエーデルにやり直して欲しかったはずだ――でも彼女はそれを選ばなかった最後まで“侯爵令嬢”でいる事を望んだ。
「そういえばランデール卿は妾腹と叫ばれていたけどあれって…」
「…ランデール卿の母親はリラの道で働いていた演者だ、貴族でも王族でもないだから彼は庶子だった」
庶子…つまりは一般人との子供。
血の正当性をあんなにも貴族達が訴えたのもその為ね、レオナルドは王族同士の子その血があればこそ交渉できる物も多いだろうが彼には無かった……
「何だか複雑ね…」
「父上はお見合いの際にランデール卿を呼ぶぐらいには信頼を置いていたけどね…」
「何だか貴方のお父様が不憫でならないわ」
「……そうだね」
そう言うとレオナルドは部屋の窓から空を見あげる、月がよく見える。
気分とは異なり空は雲一つなく澄んだ夜だ。
「今回は台無しになっちゃったけど…次また一緒に出かけよう」
「…しばらくはいいわトラブル続き何だもの」
「ははっ、そうだよね」
少し寂しげにレオナルドが顔をそらす。
何だか…ちょっと可哀想だったかもしれない、でもすぐには気分がかわりそうもない。
「でも…問題が全部終わったら、私から――…お誘いしてもよくってよ」
「本当かい!」
レオナルドは私に急接近し、手をとった。
自分の言った言葉が気恥ずかしく、そしてそのキラキラする笑顔が眩しくて目線をそらす。
「……あんまりしつこいとしないわよ」
「あっごめんごめん!嬉しくてさ君からお誘いなんて初めてだから」
「まだしてないわよ!」
「今日はもう御暇させて頂くわ、おやすみレオナルド」
「うん!おやすみ」
何だかいつもどっと疲れている気がするわ、帰りが遅かったからか帰路でメイド達が涙目で駆け寄ってくる。
問い詰められたが今は答える体力がありそうもない…明日の朝…一番にお風呂に入ろう。
そんな事を考え私は部屋へと帰った。




