26話 マリアの幸せ計画
自室に帰ったマリアは人目がないことをいいことに、身につけたブローチを床に投げつける。繊細な装飾は衝撃に絶えられず砕け散った――
「なんでこんな目に!!」
「ランデールも使えないし…これじゃあ」
マリアの思考は“呪い”という言葉が、でかでかと現れ理解のできない恐怖が襲っていた。
「どうにかして尋問を乗り越えないと…、いえ証拠は何もない筈大丈夫」
「でも…ここから先どうすれば、……全部あの女のせいよ」
恨めしいと言わんばかりに声を震わせ、思い出すミネルヴァの顔に悔しさと怒りばかりこみ上げる。
(王子の危機を救う算段が台無しじゃない!!――人魚に唆され、婚約者と私怨で婚約破棄したダメ王子って噂が広がるはずだった。そしてそんな甥にかわり支持されるランデール卿…理不尽にもあの人魚のせいで王になれないレオナルドさんは、イメージ払拭と国の為に私を選ばざるおえない…そういうストーリーだった)
(一度は断られたけど…そこまで追い込まれれば私のモノになると思ったのに!!――結局失敗した)
「いいえ、まだ終わってない……レオナルドさんとあのモブ女の婚約はまだ発表されていない」
人間と人ならざる者、結婚するにしたって両国の壁は厚いに決まっている。
しかもレオナルドさんは、アルカディアの唯一の王子――その血に人ならざる者を混ぜるなんて正気の沙汰じゃない。
「どんなに思い合っていても非公式の関係、政治的に立場や優先度は私のほうが上!!……新しくマリアを選ばないといけない理由を作ればいい」
「考えるのよマリア、なにかある筈よ、だってこの世界は“マリア”が幸せになる様に出来てる世界じゃない!!」
頭を抱え彼女は使える物が何かないかと記憶を辿る、しかしこの国に住んでいた訳でも無いため何が有効か全く分かりはしない。
「あっ――」
何か思いついたと言わんばかりにマリアは声をあげる。
「その手があった…こっちの方が確実じゃない!」
「未来の旦那様にこんな事するのは悲しいけど…仕方ないわよね!最初っから選んでくれたらマリアだってしなくてよかった訳だし」
ルンルンと彼女は先程の苦しげな表情から一変し踊るようなリズムで独り言を続けた。
「マリアが幸せのためにとことん周りは利用しないとね!」
そう言い切った後、タイミングよくノックが鳴る。
一人の兵士が彼女の部屋へと入ってくる、彼は身分差を気にしてか落ち着かない様子だ。
「レオナルド様が、話を伺いたいと――」
「分かりました…どちらに行けば」
「……こちらになります」
(これが終わったら早速準備しないとね!)
そう兵士と共にマリアは自室から去った、新たな企みを胸に心躍らせて彼女はほくそ笑むのだった。
ミネルヴァは時間が経ち落ち着きと平和を取り戻していた、レオナルドは今後の事で忙しい様子だった。
結局あの後ランデール卿は、私欲で王位を簒奪しようとした事が認められ立場を失った。
これで王位はレオナルドもので確実なものとなるだろう。
特に私をオークションで売ろうとしていた事はかなりの問題となり、会議で苦言を指してきた多くの重鎮貴族達から謝罪の場をお設けられた。
腕の怪我は時間が立ち動かしても痛まない程度に回復し、一応落ち着きのある生活を取り戻した。
(謝るために時間を取られて、それはそれで疲れたんだけど…私の所に行ったという実績は彼らにとって面子を保つのに重要なのでしょうね)
けれど問題もまだ残っている――、あの後レオナルドから聞いたが尋問と会場の調査を行ったそうだ。
けれどマリアがあのオークション会場と深く関わっていた証拠は得られなかった。
あくまでもランデール卿がマリアを利用しようとしていて巻き込まれた“被害者”、として彼女の立場は収まったそうだ。
私の証拠のみでは、ガーランド家の後ろ盾にあるマリアをどうしようもできない。
マリアを押し倒した件については、今回の大騒動で有耶無耶になってくれて安心した……
(でも依然として…マリアとのお見合いが終わったり不成立として終わっては居ないのよね……)
廊下を歩きながらそんな事を考えていると、ポンッと肩を叩かれる。
こんなに無作法にする人物は一人しかいない――
「いい加減、距離感ぐらいしっかりと…って」
「よっ久しぶりだな!!」
予想していた赤毛ではない、青緑の髪が目に入る。
ニカッと笑うその顔は忘れもしない――
「トレント!!」




