21話 欲望のオークション
「皆様今宵のオークションに参加頂きありがとうございます!今回集まるのも名品や珍品ばかり……そして今日は特別な目玉商品を用意しております」
ランデール卿は大げさに道化のように舞台の上で手を広げ、大げさな身振り手振りで話をする。
「本来は、最後に持ってくるのが舞台の華ですが…今宵は例外として一番最初にお見せしましょう!!!」
キリキリと舞台の真ん中に巨大な四角形の布の被された物が運ばれてくる。皆は何が来るのかとザワザワと声をあげる、楽しみと言わんばかりだ。
「本来陸では見られない海の神秘――そしてその種族の王家の血を受け継ぐ海の秘宝と言っても過言ではない存在!!」
ランデールはそこまで言うと布を掴み勢いよく布を翻しながら、そのモノの正体を露わにする。
布の隙間から鱗が見えた途端どよめき、その全貌に皆は感嘆の声を漏らす。
煌めく緑の鱗に、艶めき水に揺蕩う美しい黒髪――ハッとする緑は輝かしい宝石のように彼女の顔を彩っている。
「人魚姫――二度とお目にかかれない最高の商品です!!」
ランデール卿はそこまで言い切ると、周りからは様々な声が上がる。
「なんと妖艶で美しい!?」
「伝説の生き物じゃないか!!」
「是非うちで飼いたい…」
「いや私は愛人に――」
様々な欲望の眼をミネルヴァに向ける、その不快さから彼女は顔を顰める。
しかしそんな事は彼らにはどうでもいい、待てをされてもなお抑えられない食欲で涎を垂らす犬のように、見え透いた欲望を向けている。
「今日は会えていくらから提示するのはよしましょう――、ただ安い値で買おうとは思わないでくださいね。今回のルールはエンドレスつまり上限無しです!!」
「さぁ開幕だ!!」
カンっと槌の音が会場に鳴り響くと我先にと皆が立ち上がる。
「金貨三百枚!」
「金貨千枚だ!!」
「金貨千五百枚」
どんどんと金額が吊り上がっていく――その様子にミネルヴァはこの危機的状況をどうしようかと悩んだ。
こんな分厚いガラス…私の魔法じゃどうしようもならないましてやこれは海水ですらない。
ペンダントが取られなくてよかったけれど……レオナルドに気がついて貰うにはどうしたらいい?
(彼らは…最初に私の競り始めて早くも蹴りをつけようとしている、レオナルドの存在を知っているから時間をかけたくないのね――なら私がすべき事は、時間を少しでも延ばすことこうなったらやるだけやるしかない!!)
「――♪」
その独特な音に皆はその熱気を忘れる、美しい水の中で紡がれる独特な響きに耳を傾ける。
それはミネルヴァの歌声だ――ランデール卿さえもその音色に理解が及ばず思考が止まる。
海神が愛した音色がこの会場を支配していた、ゆったりと揺蕩う様に妖艶なその音に皆が時間を忘れ聴き入る。
それはミネルヴァを嫌うマリアさえそうだった、抗えない圧倒的美に思考はいっとき完全に停止した。
マリアは、はっとしたが既に会場はミネルヴァの虜になっていた。誰も彼女の歌を遮れない、水に揺蕩う美しい人魚の歌劇を見届けたくて仕方がないと言わんばかりだった。
(どこまでも気に食わない女……歌を邪魔してやろうかしら?いや…このままやらせて更に高い値で売りつければいいわ――自分から商品価値を高めるなんて馬鹿な女!!)
歌が終わると周りは拍手喝采に包まれる、それは美への圧倒的な賛美と敬意が含まれていた。
ならばこそ声を上げるものもいた――
「金貨五千枚よ!!男どもの愛玩にするなんて勿体ないわ――彼女には圧倒的芸術観点からの価値があるわ!」
「金貨七千枚だ…私なら彼女のために音楽堂を建てれる、美的な資産を訴えるなら私に譲れ!!」
「金貨一万枚!!是非我が宮廷の専属の歌姫になって頂きたい!!こんなにも美しい声は初めてだ」
盛り上がる競りとは裏腹にミネルヴァは渋い顔をしていた。
(思ったより盛り上がりすぎたわね…マリアが言っていたより条件が良さそうな人ばかりだけど)
ギャーギャーと言い合い騒ぐ観客にランデール卿も収集がつかないようだった、吊り上がっていく値段に止めるわけにもいかずに彼も決めれず、マリアはその様子に酷く苛立ちを強めていた。
(金貨一万、もう下手な貴族の総資産をとっくに超えている金額……一大企業レベルじゃない!!それだけの価値をあの女に見いだしていると言うの?)
(なんで?なんで??――危機的状況でしょ、惨めでしょ?無様でしょ?
なのに、なのに、なのに、どうして“マリア”よりあの女の方が輝いて見えるの!?)
マリアはステージの上で照らされるミネルヴァを睨む、追い詰めた筈だなのに彼女はそんな時でさえ自分を惨めにさせる。
信じられない――奴隷に成り下がるはずだった女が、今や芸術的なシンボルとして皆がこぞって価値をつけている。
貶めようとした人物が、より評価される――これに勝る屈辱はない。
「少しの我慢よマリア…、アイツが売れてしまえばレオナルドさんは私を頼るしかなくなるんだから!!」
「最後に私が…マリアが選ばれればそれでいい――」
舞台裏でブツブツとマリアは呟く、しかしそんな思考も長くは続かなかった。
「金貨一万枚?――彼女の価値には桁が一つ足りないんじゃないかい?」
「もっとも俺なら、桁がもう二つ増えるけどね金貨二百万でコールしようかランデール卿」
お前達の金は端金だと言わんばかりに、嘲笑う様な大金の提示に皆はその人物の正体を探る。
ミネルヴァは扉の奥から現れた姿に、笑顔を浮かべる。そしてその言葉にランデールは苦く焦った歪んだ顔を浮かべた、それもそのはず今彼が一番会いたくない人物が目の前に立っていた。
「レオナルド!!」
そうランデール卿は憎たらしいと言わんばかりに、鮮やかな赤毛の王子に言葉を吐き捨てた。




