20話 悪夢のような水槽
パチっと目が覚めると、そこは水の中だったゴボゴボと気泡が生まれる。
しかし用意されていたものが真水で海とは違う感覚に私は、混乱した。
(気を失って…あれからどうなったの?)
全く覚えがない、完全に気を失ってしまったようだ。首の後ろにはまだ痛みが残っている…私たちの構造は上半身はほぼ人間と同様、脳が揺れればそりゃ気絶するわよね。
何だかまだクラクラするわ。
「お目覚めかね?」
その声はマリアではなく渋く低い男の声――声の先に居たのはランデール卿だった。
「ランデール!!」
ゴポゴポと水音を立てながらミネルヴァは声をあげる、彼は余裕そうな笑みで彼女を見つめた。
「おやおや、焦っては君の美しさが台無しだ――君には高く売れてもらわないと困るんだ」
「高く…?」
「まぁどうせ見納めだ、全て話してあげよう」
ランデールは道化めいた仕草でわざとらしく、杖を振り上げる。その顔は歪んだ邪悪な笑みを浮かべていて、嫌な予感が思考を覆う。
「この建物は、演劇という名目で他国の観光客が訪れる…しかしここには私が作り出した秘密の催しがある――闇オークションだ」
「まぁいわば秘密の競り場、客はこぞってアルカディアの珍品に皆が金を払う。君はそこで出る新商品…人魚として売られるんだ」
私を密売の商品に使うって事!?
まさか港の拡大したいのって――競りの為の顧客を集める為…?
いやそれだけではリスクが高すぎるような、一体何を考えているの。
「私一人売り飛ばしたってどうにもならないでしょ!?」
「そうでもないわよ〜」
裏からマリアがコツコツとヒールを鳴らしながらやってくる舞台裏を利用してか、空洞が生み出す独特な木の上での足音が耳に残った。
「ガーランドの大国をささえてるのは国民だけじゃない、最下層にいる奴隷達…西ではねそういった上下社会が盛んなの!」
「奴隷を持っているのは家のステータスになるのよ、ガーランドはいつだって奴隷に飢えているの特にあなた見たいな人外は変態達に大需要よん…人魚姫は合わせても6人しかいないのが残念だけど」
「まさか…アルカディアで人魚達を奴隷として売り出すつもりなのあなた達!?」
「正解、人魚姫!!」
余りに非道な考えだ、港の拡大は色んな考えが含まれていたのだ。
オークションの客を呼びやすくするため、それから商品を容易に仕入れ運ぶため、それから私達人魚を一大商品として扱うため。
最初から彼は私達人魚を海から排除するつもりだったのだ――
「勿論、こちらにもガーランドから奴隷を輸入しアルカディアという国を新たに作り上げ…私はこの国を産業大国にする!!」
「豊かな資源を使い最先端の技術の粋を集めるのだ、そんな計画の前に信仰や文化などどうでもいい」
「人魚達がそんなの事に同意するわけないじゃない!!」
「お前を理由におびき出せば人魚ぐらい捕まえられる…、最悪何匹かの雄雌さえ入れば子供を作らせれば良いからな!」
「外道め……、誰がお前のような王を愛すというの――」
ミネルヴァは睨みつけ呪うように言葉を吐く、命を冒涜し何も思われない。マリアもランデールも狂っている、肥大化した私欲と権威がここまで人を狂わせるのか…それとも彼らが異常なのか分からない。
危機による不安よりも彼らに対する怒りが私の中では勝っていた――
しかしランデール卿は気にする素振りなく悠々と笑みを浮かべていた。
「愚鈍な民は愛さなくても、私のビジネスを求めるものは大勢さ、お前達はまだ若いから分からないのだ商品の君に分かる必要もないがね」
「おっと…マリア、君は聡明だったね」
「当然ですランデール叔父様!」
「少し気が早いのではないかね」
「大丈夫ですわ、すぐ家族になれますから」
自身満々の笑顔のマリアに、水の中にも関わらず顔周りが熱くなり血が昇るのを感じる。
許せない――私が人魚だからってのもあるかもしれない、それ以上にレオナルドの今までしてきた努力を何とも思っていないのだ。
自分の幸せのためしか彼女は動いていていない。
「レオナルドが……こんな事許すと思ってるの」
「許さなくともいい――レオナルドは君の行方が分からなくなりマリア殿と結婚するしか無くなる。そうなれば私が王になろうとなるまいと、アルカディアの未来は決まっている」
「それに……君たちはお忍びで出かけていたんだろう?君の行方が知れないのもレオナルドの責任にして国際問題にするさ。こんな危機的状況でそんな話が出れば王位は私のものだ――」
苛立ちからドンっと水槽の壁を叩く、しかし分厚くて出れそうにもない。彼らはそれを滑稽と言わんばかりに嘲笑の笑い声をあげる。
外道が過ぎる。いったい何を食べたらこんな性格になるって言うの?
「安心してくれたまえ、レオナルドは何れ王にするさ……まぁ私が生きている限り“傀儡”としてだがね、レオナルドの人気を無下にするには余りにも惜しいからね」
「さて今宵の司会を私はしてくる事にしよう」
そう言うとランデール卿は杖を片手に舞台裏から出ていく。
残されたのは私とマリアだけになった。
「さーてそろそろショーの時間よモブ人魚ちゃん!!貴女がどーんな変態に買われるか見ていてあげる」
「サイッコーのバッドエンドを拝ませてね♪」
そう天使の様な愛らしい笑顔で、マリアは浮かべるのだった――
一方レオナルドはミネルヴァをずっと待っていた。
公演が始まるというのに一向に帰らないミネルヴァ…何かあったのではないか?
「探しにいこうかな…流石に」
扉を出て近くの警備員に話しかける。
「やぁちょっといいかな?連れがいないんだ緑の瞳で黒い髪何だけど、一応フロントにも掛け合ってくれないかな」
「その方ならあちらに…ってレオナルド様!?はっはい今直ぐに!!」
(…杞憂に終われば良いけど、なんだかまた何かに巻き込まれてる気がする)
少しの間の待ち時間が長く感じる、会えるなら早く会いたい…こんな嫌な予感気のせいだと振り払ってしまいたい。
「はいはいレオナルド様何ようで〜」
「俺の連れが居ない見たんだ?」
「その方なら帰られましたよ?気分ではないと」
嘘だ――そんな訳がない、俺は会場から出るなと言った。彼女が理由なく俺の言ったことを破るわけがない、ただでさえ今は政治関係でピリついて居るというのに。
「そんな訳がない、彼はあちらの方に行ったと発言している」
「なら行ってみれば良いではないですか〜」
「同行を願おうか」
レオナルドは不機嫌にフロントマンにそう言った。
「はい勿論〜」
訪れた部屋には、誰も居なかった。警備の彼はおかしいなと言わんばかりに首を傾げている。
「ほら、言ったではありませんか」
何かないかと部屋を見渡すと、絨毯にシミをつくっていた…何を零したんだ?
絨毯のシミはやけに広がっていて、何かに水をぶちまけたようだった。飛沫が飛びちっている――その水滴のようものは壁まで続いていて、壁側で途切れている。
しかしおかしな事に壁の境に水滴は続いており、まるでその先に道があると言わんばかりだった。
近くの花瓶の水は空になっており、ミネルヴァが魔法を使った痕跡が伺えた。
「いや…居たはずだ」
「ですから帰りましたって!!」
「叔父上にいくら払われた――」
「そんなもの貰って無いですよ!?いくらレオナルド様と言えど……」
レオナルドは振り向くと、フロントマンの顔を掴む思わず彼はヒッと声を出す。
その顔は無機質たが苛立ちを感じるには十分だった。
「俺の顔を見ろ」
フロントマンは、ゆっくりと反らした視線をレオナルドに向ける――そこには光り輝く瞳があった、太陽のような眩いそれに目を奪われる。
「“本当の事を言え、ミネルヴァは何処だ”」
「…この下のオークション会場でございます」
「案内しろ」
「……はい」
「おいおいそれ言って良いのかよ!?」
警備員は焦りだしフロントマンに掴みかかる、態度の急変に驚き目を白黒させている。
「レオナルド様がそう望んで居られるんだ!?叶えて差し上げなくては――」
「急に何で……」
「“君も言う事聞いてね”」
そうレオナルドは、警備員の眼前に顔を迫らせるとにっこり笑う。
「君は何も見てない俺の事もフロントマンの事も――客人が誰一人何処にも行かないようにホール全体の鍵を閉めて回るんだ、分かったね」
「はい――」
レオナルドがそう言うと彼は、すぐ様駆け出し命令に従ったようだ。
「さて…早くミネルヴァの所に行かないとね」
レオナルドはフロントマンの案内についていき、非合法なオークション会場へと向かった――




