17話 海辺の教会
レオナルドと訪れたのは、簡素な装飾ながら伝統を感じる趣のある教会だった。
海辺に立っているにもかかわらずかなり綺麗な外観から手入れを欠かして居ないだろうことが分かる。
もしくはレオナルドもしくは王室がちゃんとした寄付を行っているのだろう。
「レオナルド様、ようこそお越しくださいました」
白い修道服に身を包んだ穏やかそうな老女が、ニコニコと出迎える。
「異国の姫様もようこそ、さぁお入りなって」
私達には個室にもてなされるとソファに座り対面で話す。
「レオナルド様、久しぶりにお会いしましたが益々精悍になられましたね」
「そんなことないよ!お父様やそれこそロザリア貴女ほど箔がないからね」
「とんでもない褒め上手ですねレオナルド様!いつでも貴方の評判はここに届いております、その頭に王冠を戴く日が楽しみですよ生きている間に拝みたいものです」
年齢もあってか、少し憂いと寂しさを感じさせる面持ちで彼女は言葉を紡いだ。
何処に行っても本当に人気者ね…
「それで聞きたい事とは?、貴方が急ぎでと言うことは…重大なことなのでしょう」
「…君はさる姫君をこの教会を置いていたね、彼女の正体は分かっている――彼女の素行について知りたい」
「……」
少し悩んだように沈黙すると、老女は困った顔で言うか言うまいか悩んでいるようだった。
先にしびれを切らしたのはレオナルドだった――
「君が証言した事は余程のことがない限り言わないさ、ただ…最悪彼女と結婚をしなければならない」
「っ……それはいけません、あのようなものが国母ではなりませぬっ」
「一体何があったのか教えてほしい」
観念したと言わんばかりに彼女は目を瞑り、眉間を寄せさらに色濃くシワを作り出した。
「マリア様は、ニコニコと愛らしく可憐な御方でした…世間知らずの娘に奉仕の精神を学ばせてほしいと頼まれたのです」
「あちらの国王からは、自国ではあの可愛らしい容姿から大層民衆には目立つそうで……、配慮されない事は不可能に近く市民と同じ立場はなれる筈もない。と言われました」
彼女はゆっくりと言葉を紡ぎ出す、しかし反応はどんどんと沈んでいく何か良くないものを思い出しているのか顔は曇っていく。
「彼女の身分は濁した上で、勉強に参られた令嬢だと皆に伝えました……愛想も良く立ち振舞が丁寧でしたので、何も問題はないその筈でした」
「時間が経つほどに彼女の素行の悪さが出るようになりました」
「その素行の悪さとはなんだい?」
「最初は洗濯や洗い物を他のものに押し付けるという簡易的なものでした…、皆もあかぎれ一つない綺麗な手を見て経験がなく毛縁するのだろうと配慮していました。しかしそのうちに主張の弱い者を集め徒党を組み、気に入らない修道女を追い詰めるようになりました」
「正義感の強い子は彼女を叱責しました――すると…彼女はイジメを始めたのです。……それはそれは巧妙で私も最初気づきませんでした」
「彼女は自作自演をし、嘘の証言をでっち上げました“「彼女が私に仕事をくれないばかりか、私に水をかけたのよこんなにもびしょ濡れで…雑巾の水でとても臭うの私耐えられない」”とワンワンと泣くものですから私も騙されてしまいました」
それって……
やっていない事をあたかもやったように演出し、自作自演で被害者ぶる。
思い当たりしかない状況に思わず手で口を隠す、そうでもしないと声が漏れそうだった。
「私は愚かな事に信じてしまいました、……挙句に叱りつけた子を叱責しました。彼女は――悲痛な顔でこの部屋から出ていき二度と会うことはありませんでした、彼女の居場所を私は奪ってしまいました」
「貴女が悪いわけではない…落ち込まないで」
レオナルドの慰めの言葉に彼女は首を振る、どうやら自分が許せないようだ。
「……それだけではありません、それからも似たような事が何度も続きました。懺悔室で涙するひとりの修道女の告白により、マリア姫の言う事を聞いてイジメをしたと聞き…その事を私は知ったのです」
「私が愚かでした、姫ほど教養のあり愛想のよい方が、そんな事するとは思わなかったのです!!」
泣きそうになりながら、何処か懺悔をするようにレオナルドの前で手を組み彼女は祈る様に言葉を綴る。
「太陽の思し召し持つ尊き者よどうか、どうか……私をしかるべき罰を、あなた様にこの話をした時から覚悟しています、いかなる罵倒も処遇もお受けいたします――だからどうか…どうかこの教会の柔道女達をお守りください、彼女達は敬虔でそして無知な乙女達なのです」
「俺は…神じゃありません、許すことはそれこそ太陽神しか居ない。だから俺から贈る言葉はただ一つ、――話してくれてありがとうロザリア」
「……ありがとうございます、いかなる協力も惜しみません」
彼女は何処か吹っ切れたように顔をあげた。
私はその様子を眺め考えを纏めていた、……彼女は人の冤罪を作り出す常習犯なのだろう。
前世でもしていたのか定かではないが、手慣れた感じから元からそういう気質なのか…あるいは、異世界に来てそうなったのかは分からない。
彼女のイジメる手段は、周りを固め誰かをのけ者にする計画を立てる。
そして孤立した所を狙い冤罪を仕立て上げる、勿論彼女の周りはその冤罪をあたかも事実の様に言いふらし、居ないはずの犯人を作り上げる…そこからが本番だ。
直接は手を下さず、あくまで自分は被害者として気に入らない人物は他のものに粛清をさせる。
修道女であるロザリアもそれに利用されたのね。
手を汚さないで周りにさせた挙句、例えバレても粛清した別の人物が罰せれれる、よく出来た考えね……理解しくもないけど。
そして今回彼女がターゲットにしたのが私で…味方につけたのは間違いなくランデール卿。
一番本当に権力を持っちゃいけないやつね…彼女には今それを容易にする立場と金がある。
「そろそろ次の所に行かないと…」
「さようですかレオナルド様、お見送りをします」
私達は外に出て馬車に乗り込もうとした時、ロザリアから「もし麗しい姫様」と呼び止められて彼女に歩み寄る。
「貴女がレオナルド様が選んだ人なのですね――見れば分かります」
「そっそれはまだ……決まったわけじゃ」
「いいえそうではありません、婚約はさておきレオナルド様は隣に居たい女性を貴女に決めたのですよ…」
「ですから何があってもレオナルド様の隣にいて上げてください、彼は太陽の様にいつも輝いて居られましたが…同時に夜空の星々とは違いいつも一人でした。
だからどうか側にいて差し上げてください」
「分かったわ――何があってもそばにいる」
意志のこもったつよい目に満足したロザリアは、にっこりと笑顔を浮かべて再び祈った。
「お二人の未来に幸がありますように」
私は遅れて馬車に乗り込み、レオナルドの前へと座る。再びカタコトと音が鳴る窓を覗き込むと彼女は、かなり遠くなっても建物に入ることなく見送っていた。
マリアの陰湿な本性の事を話した事もあってか、雑談は始まらず沈黙が続いた。
「レオナルドは何かされてないの…」
「うん?」
「聞きに来たってことは少なくとも何かあったんじゃないの――」
考えをまとめていてふと気になったのだ――何故レオナルドはこんな事を聞きに来たのか?
彼女に何かされたのではないのだろうか、そんな考えがずっと消えない。
「大丈夫だよミネルヴァ、例え何かあったとしても…いやそんな事はさせない」
「俺はミネルヴァ、君を追い込み傷つけた彼奴等を決して許さない」
そういう彼は拳を膝に握りしめギチギチと音がなるほどだった――そっと私は彼の掌を握る。
「傷がついてしまうは、私だって許せないわ貴方をこんなふうに追い込んだ叔父さんの事は……だから二人で頑張りましょう」
「そうだね」
レオナルドの手から力が抜ける、その事に少しホッとする。
私達は次の目的地へと向かった――




