15話 落陽が迫る
「傀儡って…どういう事!?」
「いいかいあの人は、俺にある実権を奪い俺の権威を手中に収めたいんだ――」
「実権を奪うって…王になれば奪えるでしょ?確かに無理やりなら争うでしょうけど貴方を後見人に据えれば争いがおきない、てっ事じゃないの?」
「建前ならそうだろうね……」
首を横に振りレオナルドは、困ったように椅子に座り込む。
「国の実権を奪った所で、俺に流れる血や既にあるパイプライン全て乗っ取れる訳じゃない特に神殿への神官達の関与などもってのほかだ」
「でも…俺の後見人になる事でそれが可能となる、あの人は俺の補佐として王となるべき俺の周り全てに関与するのが目的だ」
ゾッとする。
レオナルドの権威を完全に排除するには無理がある…もしくは勿体ないから、レオナルドを傀儡にする事で乗っ取ろうって言う事――
「そして問題を起こした甥を健気に補佐する、志高き叔父としてねあくまで俺の失態として片付けるはずだ。俺に王位を譲れば、叔父の意見を俺の“言葉”として言わせるはずだ…まぁこれは憶測だけどね」
「でも――、王となった貴方をそんなふうに出来るとは思えないわ」
「一度彼に王位が渡れば、自分優位に国を変えるはずだあり得ないとは言えないんだ…それに手中に入ればいつだって俺を暗殺できるだろうしね」
確かに…そもそもレオナルドをこんな状況に追い込んで、信用するに値しないわ。
レオナルドの能力を使えばとは思うけれど……
いやリスクが高すぎるわ、エーデルやジェルメーヌのようにならないとは言えない以上そんな事は出来ないだろうし。
何よりも彼は、自分の力をそんな風には使いたくないだろう。
最低な事を考えてしまったわ。
「さてどうしたものかな……」
「どうするも何も私は何もできないわよ、私にはきっと悪女って悪評がついて回るわ」
「うーんじゃあ噂が広がる前に一緒にデートしよう」
「そんな呑気に……」
「勿論遊びだけじゃないよ、市場調査と福祉が重荷目的さ…それに注意を俺達に向けておきたいからね」
「?…それってどういう事」
「秘密!」
レオナルドは年相応の悪戯な笑顔を浮かべる、何処かその様子に和んでしまう。
状況は変わっていないが少し明るくなれた気がした。
何か作戦があるのだろが、今は聞くのは辞めておこう。
一方その頃ランデールは書類を見ながら、港の計画を見ていた。
莫大な資金や資材、そして職人が必要な事が描かれていた。
「にしても職人の手配などアルカディアでも出来そうですなのに…何故ガーランドから調達したいんです?」
マリアはおもむろに飲み物を飲みながら、ランデールに問いかける。
「この国の人間は信心深くてね、必要以上に海を汚す可能性がある事に協力する職人は殆ど居ないだろう…労働源が無いんだ」
「奴隷にやらせればいいじゃないですか、あっ…いないんでしたねこの国…」
いけない事を言ったと言わんばかりに、マリアは口元を抑える。
「そうだ、まぁ港が出来れば便利さに目覚めた人間たちは堕落し抜け出せなくなる。そうなれば港を中心とした生活をして国民性も一気に変わるだろう――そうなれば神殿の神官たちの権威も削げる」
「後はあれさえ見つかれば……」
「あれ?」
「いやこちらの話だ、まぁレオナルドが気づいている訳がないからな平気だとも」
笑うランデールにマリアは笑顔のまま話を聞くと立ち上がる。
「私は取り敢えずレオナルドさんと結婚出来れば何でもいいです、貴方は怖いけれど…私の権力と地位は無視できないもの」
「勿論、私はガーランドと交易がしたいからね」
「では今日はこのぐらいで――」
マリアはそうランデールの私室から立ち去る、順調な光景にほくそ笑む。
(あの女と親しげにしてた時はどうしようかと思ったけど――これっていいピンチよね?叔父に権力を取られそうな可哀想な王子様…
そこに現れた大国の娘、婚約するだけで大国ガーランドが後ろ盾になる。そうなれば貴方を助ける都合のいいお姫様でしょ〜!!)
そんな事を考えているとマリアは、道すがら早速レオナルドを見つける。
ミネルヴァの姿はなく分かれた事がわかる、早速と言わんばかりに彼女はレオナルドの元に近づく。
「レオナルド様!ごきげんようこんな所にいらしたの?」
「あぁマリア殿、何用ですか」
「お話があります!!」
レオナルドは怪訝な顔でマリアの言葉に耳を傾ける、大国の娘の言葉とあって無視する事もできない。
「叔父上に王位を狙われて心中お察しします…私助けになりたくて」
「気晴らし目的の会話なら結構ですよ、では――」
(はっ?)
「ちょ、ちょっと待ってください!?」
呆気なく立ち去ろうとして、マリアは慌てて服の袖を掴む。流石に女性の手を振り払えないと思ったのかレオナルドは面倒くさそうにその場で歩みをとめる。
「ただの慰めではありません!ちゃんとしています」
「…なんだい?」
「私と婚約しましょう、そうすれば私の祖国ガーランドが貴方の後ろ盾になります!私と婚約すれば噂なんて消し飛びますわ…噂の大部分は人魚姫と共謀した事でしょう?」
「だがら君を選べと言いたいのかな」
「そうじゃなくて、……どっちの方がレオナルド様が幸せになれるか明白でしょ?私は貴方の助けになりたいの」
その提案は、ミネルヴァを見捨てて自分と幸せになろう。そんな単純明快で下劣な手段だった。
「悪いが他国の姫…いや王女を頼るほど落ちぶれてはいない、この国の事はこの国の者が解決する」
「君の手を借りてしか王になれないなら俺はそれまでの男だったって事だよ。ならば俺に民草を導く資格はない」
強く真剣な眼差しをマリアには贈られた、マリアの提示した言葉と提案への全ての拒絶。
そしてマリアとの婚約を受けないという硬い意志だった――
「どうして!!身分を失えば貴方の権威が失われるのよ今の生活だって出来なくなる」
「まだ決まったことじゃない――それに俺が何もしてないとでも?」
「あんなに噂が出回っているのに!!まだ大丈夫だとでも??…そんな事ないわ、貴方は貴族達に隅に追いやられてランデール卿の肥やしにされるのよ」
「それは君と結婚しても同じだろマリア・ガーランド」
「なん、のっ話です……」
「俺が何も知らないとでも、君のガーランドの国王はアルカディアを自分の国の交易の経由地点にしたいそうだね…でもその為には港の規模が小さい」
「不思議だね君をかばう俺の叔父ランデール卿と、君の国の目的は一致している」
マリアは冷や汗をにじませる手をギュッと握り、表情を崩すまいと気を張ってか引きつった笑顔が張り付いていた。
レオナルドは輝く瞳はより鋭く光のように彼女を突き刺した。
「それは偶然です!!」
「……まぁだからって君が叔父上と共謀してるとは言わないさ、叔父上と同じになるからね」
レオナルドは冷たい顔を浮かべたまま、マリアを見つめる。
「叔父上も君も自分達が中心だと思ってるようだけど、民がいて始めて王が生まれ国が作られるその構図は決して変わらない」
「いいかい?どんなに正統性があったて権力を握ろうと、最後は民が“王”を選ぶんだ――その事を忘れないようにね」
そう言うとレオナルドはマリアの横を横切り振り返る
こともなく、立ち去る残されたのはマリアだけだった。
彼女の脳裏には、普段は優しく穏やかで花々が微笑みかけるようなそんな…温かな王子――それがが冷たくてまるでどうでも言わんと言わんばかりに見下す視線を自分に向けていた。
ゾクゾクと背筋をなぞる様な感覚と共に彼女は、そんな彼に魅了されていた。
(振られた――私が圧倒されたそんなの…)
「ますます欲しいじゃないレオナルド・アルカディア」
そう誰もいない廊下で、恍惚とした顔で言葉を残すのだった。




