14話 冤罪と悪評
ランデール卿や貴族達から降り注がれる私への目線は、かなりキツく皆がマリアの言い分を信じているようだった。
彼女は頬を紅潮させて涙目まで浮かべていた、一方倒れる事もなく立ち尽くす私……初見なら誰もが勘違いする空間が作り出されていた。
「ミネルヴァ姫、レオナルド様に対して恋慕を抱いた上に我々の取引相手となるかも知れぬマリア王女を傷つけるとは!!」
「全く持ってありえませんなっ!!」
「誤解だわ、彼女の方からぶつかったのよ」
ランデールの取り巻きに反論するもジロリと懐疑的な目だけ送られる。
なんでこんな事に――迂闊だったわ、彼女が私を貶めようとする何て考えてなかった。
「しかしマリア殿は泣いておられる…自らぶつかってこの様に怯えるだろうか?」
ランデール卿も彼女の様子から、私を疑う私が何を言えば言うほど言い訳になり彼女の擁護が増えていく。
「ランデール卿待ってください、確かに彼女はミネルヴァにぶつかっていました少なくとも押し倒してなんていません」
レオナルドがそう言うとさらにランデール卿は顔を顰める。
「君が…ミネルヴァ姫の事を好いて庇っているのではないかね?」
「色恋を政治に持ち出すとは……陛下も嘆かれるだろう」
「事実を言ったまでだよ、だいたい貴方は陛下の見舞いに一度も来ていないじゃないか」
「国益を優先しているまでだ」
ピリついた空気が流れる、私を被ったせいで彼を追い詰めている…こんなつもりじゃなかったのに。
「レオナルドお前に聞きたいことがあったのだ――丁度いい」
「なんだい?こんな不毛な言い合いよりマシだと良いけど」
「貴殿のエーデル・マルシャンへの冤罪疑惑についてだ」
思ってもいない言葉に、私とレオナルドは凍り付く。何故なら彼女は王子への殺害を試みた重罪人、それを冤罪?
「はっ?――」
「貴殿は港の設立案や商人の事業を蹴っていたな、エーデルの生まれマルシャン家の商談も尽く通さ無かった――彼女の影響力やマルシャン家を貶めるために人魚姫と共謀して貶めたと疑惑が上がっている」
「そんなわけないだろ!!彼女は俺を海に突き落としたんだぞ!!」
「私が支援していた煙たがっていた婚約者との破談……余りにもお前に都合が良すぎるとは思はないか?」
「俺に事件の疑惑が出るのは貴方に都合がいいですけどね、ランデール卿」
私とレオナルドを同時にあからさまに潰しにかかっている。
会議中すぐに引いたとは思ってたけど……これを狙っていたのね。派閥が割れるような発言ばかりだったのも計算のうち?
レオナルドの悪評ももしかして意図的に彼が広げたんじゃ――ずっと彼を貶める準備をしていたんの、もしかして!
憶測だけど…余りにも出来過ぎている。
いや他人事じゃないわ…彼は開拓に邪魔な私を、アクアリアを排除しようとしている。
このままだと不敬を働いたと追い出されてしまう。
「レオナルド……幾ら言い訳しても私はお前を許そう。お前は私の唯一無二の甥だ、そこの人魚に唆され悪道に走ろうがそれを咎め正すのが叔父としての務め…正しい道の分からぬお前を王にする訳にはいかん」
「しかし、私が王になったとて民衆も多くの貴族は納得しまい……」
ランデール卿の声は低くなり、その様子から言っている事は事実なのだろう。
幾らレオナルドに悪評が付こうと、ランデール卿の支持率が上がるわけではない。
彼の勢力はレオナルドの派閥を抑え込めるほどでは無いのだろう、もしそこまでして王位に就けば内乱が起きる。
でも今になって何故こんな弱気なセリフを――
「お前は完璧な王子であり王になる為に生まれた子だ」
「何が言いたいのですかランデール卿…いえ叔父上」
「レオナルド私に王位を譲りなさい――」
「代わりにお前を第一継承者として確約した上で王になろう、お前が適齢期になればすぐ様王位を退く」
その言葉に驚いた表情をレオナルドは浮かべる、ここに来て和解を申し出たのだ……条件はあるが。
つまり自分は王になるけど、レオナルドは次代の王には据える。
レオナルドが継ぐ前提の継承、もしそうなれば周りを黙らせられるって算段なのね…
「疑惑だけでそんな事受ける訳ないだろ!!だいたいミネルヴァに失礼だ、疑惑だけでこんな事言われるなんて…」
「そうか、まぁいい時間はある心変わりしたなら来なさい――お前まで泥舟に沈まなくてもよい」
そう私をランデールはじっとりとした目で追うと、まるでお前が悪いと言わんばかりだ。
そして彼はマリアの方に歩み寄る。
「お手をどうぞマリア殿、手当てをさせましょう」
「助かりましたわランデール卿っ、しかしこんな話私聞いてしまって……」
彼女は、ランデール卿に手を差し伸べられると立ち上がる。先程までずっと地面に突っ伏していたのに……都合がいい体だこと。
「良いのです、貴方は何れこの国に必要となる御方ですから」
そう彼に手を引かれ去っていく、すれ違いざまマリアは私をこばかにするように去っていった。
扉がバタンと閉まり、レオナルドと私が残された。
「レオナルド…私のせいでごめんなさい、……私をかばう必要ないわ」
「なんで気が付かなかったんだ、早い段階で気が付くべきだった…」
「ええだから、貴方まで私のせいで――」
「違う、君のことじゃない――俺の事だ」
レオナルドは、私のほうに向き直ると私の肩を掴む。何処か苦しげで真剣な眼差しだ、その様子に彼もかなり焦っている事がわかる。
「いいかいミネルヴァ、叔父上は俺を傀儡にするつもりだ」
その顔には苦虫を潰したような、歪みと焦りが滲んでいた。




