12話 独り歩きする噂
マリア・ガーランドとの婚約…それが事実なら、いや私の行動は何も変わらない。
「ガーランド家との婚約!!…つまりは隣国との同盟ですかな」
「エーデル嬢との一件よりよっぽど信憑性があるがね、まぁもしこれを断るような事があれば貴殿の言う事が一理あるかもしれんな」
「大国との姫との婚約断る理由がないですからね、アクアリアとは同盟しているが所詮は人外…結婚などとんでもない」
そう思うのも無理はないわ、転生前の世界なら肌の色や目の色で一つで難色を示すのに……形が違うならなおさらね。
「しかし変な噂なら一つ知っていますぞ」
「それは一体なんですかな?」
「レオナルド様は魔性の力を持っていて…人の心を操るとかどうとかそんな眉唾な話は伺いましたが」
「そんな魔法みたいな」
「しかし魔法は存在している、レオナルド様がもしそのような力を持つなら恐ろしい――」
「もしそれが本当なら、人か怪しいレオナルド様が王となるのは良いのでしょうか?」
「さあな、今の神殿の神官や信徒達はレオナルド様を心酔しすぎている…宗教は金や団結力にはなるのは良いとして国を発展するとは言い難い、人魚との交易よりも自国を発展させる事を考えるならランデール卿につくのが無難だろうな」
「やはりそうですか!いやぁ〜内乱にならないと良いですがねぇ」
貴族達はランデール派が多いのかしら、事業をやってる身からすれば新しい仕事の可能性がある方がいいわよね。
というかどう離れようかしら…聞いていたと思われるのあまり良くないわ。
このまま何処かに行ってくれないかしら…
「あら、こんな所で奇遇ですね!」
そう話しかけられ声の方向に向くと、薔薇色の髪を揺らしながらこちらに向かってくるのはマリアだった。
ニコニコと彼女は親しげによってくる。
(エーデルの時のように険悪になるかと思ったけど…思ったより柔らかそうな人ね)
「以前は全然お話が出来なかったので、あの時はちゃんと出来なくてごめんなさい…」
「いえ私から話しても良いものか分からなかったので、改めてお声がけありがとうございます」
「人魚さんだとお聞きしてお話を伺いたかったんです、書物がないか探したんですかここにも無いようだったので……」
「まぁ言えることなら勿論ですわ」
交流をさける理由は無いわね、もしかしたらアクアリアの他の交流先になるかもしれないし。
人魚姫の物語的に彼女は、かなりの善人なはずだもの仲良くして損はないわ。
「まぁ嬉しい!せっかくなら一緒にお茶をしましょうのミネルヴァさん」
「ええ喜んで」
くるりと周り彼女は手招きをする、華奢な体が軽やかで仕草まで可愛らしい。
ちょうどここから離れる口実が出来てよかったわ…、というか声が聞こえないわね、私たちの会話の隙に何処かに行ったのね。
まぁ婚約の真偽も気になる所だしちょうどよかったわそう思いついていく。
歩いていくとレオナルドと普段使う場所とは違う、貴族達が使う談話室に訪れる。
メイド達にマリアはお茶を頼むと席に座った。
「お座りになられて、いっぱいお話ししましょ!」
対面に座るとすぐ様紅茶とお茶菓子がやってくる。
大国の姫ともあって、彼女の待遇には気を払っているのだろう事がわかる。
外の国の者同士がこうも容易く話せるとはね……流石だわ。
「人魚って海の中で暮らしていると聞きますが、陸での暮らしは問題ないですか?」
「一応陸でも呼吸できますけど…水のない環境では長期の活動は難しいです」
「まぁミネルヴァさん体調は大丈夫ですかっ!」
「えぇ対策してるから問題ないですわ」
「アクアリアは何故、人と交流しようと思ったのですか?」
小首を傾げマリアは、不思議そうにこちらを見つめる。
「そうですわね…一番は変化の無さです、時代は移ろうものですが海の暮らしは殆ど変わりません。ですので我々は変化を求めたのです」
まぁ全てを話すわけにもいかない…当たり障りのない事を言っておこう。
「変化……」
「何か不思議な事でも?」
「いいえ、まぁ予定外のものって少し気になるではありませんか」
「予定外…?」
何なのかしらこの違和感。
何か探っているような気がするけれど、国の事を詮索しているにしては何だか変な気が…気のせいかしら?
「だってそうでしょ?嫁ぐと思っていたアルカディアが海の神秘である人魚の王国と同盟を結んでいるなんて…お父様に何と報告すれば」
「報告の際に何か問題でも?」
「……」
私の問にマリアは答えずニコニコと笑顔だけ浮かべる、しかし何処か張り付いた笑顔に何か不穏な気配を感じた。
「あっそういえば――ミネルヴァさんは今何歳ですか?」
「私は、今年で16ですが……」
彼女の顔は柔らかな花のようだが、視線は何処か突き刺すように強まっていくのを感じる。
物語で知る王女はこんな印象は抱いたこと無いけれど…
「貴方は何番目の人魚姫なんですか――」
何番目の人魚姫どうしてこの質問がでるの?
…何故彼女は、私に姉妹がいる事を知っている?
どうして予定外何て言葉を使ったの――何もかもおかしいわ、そして何かがズレている。
「私は…ミネルヴァ・アクアリア5番目の姫ですわ」
その言葉を皮切りに彼女の笑顔の仮面がずり落ちる。
その顔には笑顔が浮かんではいるが、確かに怒りが滲みその顔を歪める。
強い憤りを、強い怒りを、私に向けている――その顔からその瞳から嫌という程に感じ取れる。
「そう、貴方がイレギュラーなのねやっぱり」
「人魚姫ならともかく何故“姉”がこんな所に居るの!!」
間違いない彼女は――私と同じ物語を知る転生者だ。




