11話 書物庫と昔話
レオナルドと離れてかからしばらく、もう何日も彼の姿は見ていない。
そろそろ一週間は経つのね…あれから大きな話し合いはされていないらしく私が呼ばれる気配もない。
同じ城で暮らしていると言うのに、まるで何処かに消えてしまったように思えた。
(思えば、今までずっと私を最優先にしてくれていたのよね……)
本来なら様々な役割を行なっている筈だったのに、私の為に彼の父親やレオナルド自身が時間を作ってくれていたのだ。
(頭では理解して居たけど、いざ体感で感じると寂しいものね)
部屋でも生活も何処か億劫だ、本を見ても代わり映えのない内容に同じ本を読むのは飽きてしまった。
「ミネルヴァ様、お疲れですか?」
「というよりは、少し暇ね…代わり映えしないと言うか」
「今までイベントがたくさん有りましたからね〜」
「あっそうだ書物庫にいきませんか!」
思い出したと言わんばかりに、マリーはぽんっと拳で掌を叩く。
「書物庫?それ入っていいの?」
「第一書物庫なら問題ありません!主に物語や歴史などといった一般でも扱われるものばかりですので、トレント様は利用してましたよ」
化は
(あいつ抜け目無いわね…)
トレント…自主的に知識を集めていたのね、これだけ居るのに利用していないのは若干悔しいわね。
彼の余裕綽々とした顔が浮かび、少しだけムカつく、別にトレントは悪く無いのだけど…一枚劣っているように感じる……いや実際そうだきっと経験値が違う。
「じゃあ行ってみようかしら」
「はい!」
マリーと共に移動して普段は入らない区画へと足を進める、扉を開くと広がる埋め尽くされた本達に圧倒される。城に集められた為か本の装丁が分厚く華美なものが多い、足を踏み入れると年季の入った紙の匂いが鼻をくすぐる。
「すごいわね――」
「海に居たミネルヴァ様には物珍しいかも知れませんね、私達から見てもこんなにも多くの知恵が集まっているのは圧巻としか言えません」
現代社会に慣れすぎて転生前は有り難みが分からなかったけれど……
当たり前に情報がない時代から考えればどんな時でも知恵を得られる本は、知識は宝だ。
それがこんなにも!!
トレントが海では、得難いって言ったのはきっとこれの事ね…。
「何から読もうかしら」
「ここの本は管理されているので持ち出すのは厳粛な申請がいります、書庫内で読むなら何を見ても自由ですよ」
「説明ありがとうマリー!早速見て回るわね」
とわいえ何がいいかしら、いられる時間もあるでしょうし……タイトルを流し読みしながら何が良いかと視線を泳がせる。
このままだと探しているだけで時間が溶けそうだわ、どうしましょう。
「あれ、これって…」
手に取ったのは太陽神話と書かれたいかにもなタイトル、この国の普段なら読まないが…
(レオナルドの事や、あの男の事が分かるのかしら)
夢やジェルメーヌ王妃の死に際に見えた男、結局何も分からなかった。
トレントから聞いたのも断片的なものだし…少し見てみようかしら。
近くの椅子に座り、カタンッと座ると音がなる。
私はゆっくりと本を開いた――
とある曇天の空の下、赤毛の少年が一つの矢を見つけました。それは光り輝きまるで人の世のものでないと一目で分かりました。
「きっととてもすごい方の持ち物に違いない!返して差し上げなくては」
そう彼は街を練り歩きました。
しかし聞けども誰も知らない、見たこともない!と当てになりませんでした。そして皆が代わりに持ち主を探すと言いましたが、賢い少年はそれが嘘だと分かっていました。
きっと彼らは美し矢が欲しいだけなのです。
武器なら鍛冶屋なら何か知っているかも知れないと思い、 鍛冶屋のおじさんに聞きにいきました。
「そんなもの知らないね!でも俺に預けてくれたら持ち主に返してやるぜ」
しかし少年は知らないのにどうやって返すんだと思いました。
「知らないのにどうやって返すのおじさん?」
「さあ?そりゃ俺にも分からないね」
彼は落胆し別の所を歩きました。
商人さんなら何か知っていると思い、彼は駆け出しました。
「なんて美しい矢だ…坊やそれをくれないかい」
「ダメだよ!これは持ち主に返すんだ!!」
「なら金貨をやろう!好きなお菓子がたらふく買えるぞ!!」
「そんなのいらないね!」
彼は走り出し、商人から逃げるために森に逃げ込みました。
しかし少年は疲れてしまいました、探せど持ち主が見つからなかったからです。
「このまま見つからないのかな…」
そんな時、光り輝く麗しい青年が彼のもとに訪れました。青年の手には矢と同じ煌めきを持つ銀の美しい弓が握られており、少年は悟りました彼こそがこの美しい矢の持ち主だと。
「私の矢を拾ってくれてありがとう、君はこれを誰にも渡さなかったのかい?色んな人が欲しがったんじゃ無いかい?」
「そうだけど…返さないとって思って」
「君は素直でいい子だね、その純粋さとお礼に祝福を授けよう」
そう言うと青年は弓を掲げ空高く矢を放った――すると曇り空から青空がのぞき見る見ると晴れていく。
曇り一つない晴天がそこに現れた、不思議な光景に国中は空を見上げ眩い太陽を目にしたのです。
「この国に太陽の眼差しを、君に素敵なプレゼントを一つ君はいずれこの国の“王”となるだろう」
青年はそう言い残すと、光となり宙に舞い消えていく。
少年は彼が空から来た太陽の神に違いないと確信し、日々を過ごした。
アルカディアはその後、緑が豊かになり天候から海の波も穏やかな美しい国として成長していった。
不思議な事に良いことが起こる時はいつも少年の側だった。
時が経ち少年が青年と呼べるようになる頃には、予言通り国の王となった。
彼は王になって始めて作ったのは神殿だった。
太陽の神を進行する場として築き、民に信仰を広めた。
貴方からの恵みに感謝しこれからもアルカディアは神と共に生きますと――
ミネルヴァはそう読み終えると、ふうっと息をつき休憩することにした。
アルカディア王家はつまり神のおかげで存在すると…成る程ね、信心深くもなるわけね。
赤毛は王家の象徴なのね、これが王家の善性や正統性を表す童話なのね。
他にも話はありそうだが童話ばかりだ。
(読んで意味があるか分からないわね、結局神様の事はよく分からなかったし……)
全部読んでみたい気持ちもあるけど、他にもこれから必要な知識の本はあるわよね…これだけで済ませるのは、もったいない気がするわ。
一度片付けに戻りましょう。
ミネルヴァは元の場所に本を戻そうと、本棚の中を歩いているとヒソヒソと話し声が聞こえた。
(私以外にもそりゃ利用者はいるわよね、何を話してるのかしら)
話しているのは二人組なようで、耳を澄ませば内容が聞こえそうだと思う。
行儀は悪いけれど…まぁ情報収集と思って聞きましょう。
「最近回ってきた噂お聞きです?」
「一体何だね、王子と王弟で王位の正統性を争っている事ならもう聞き飽きたぞ」
「まぁまぁそれだけじゃない、レオナルド様どうやら人魚に入れ込んででエーデル嬢を貶めたって噂だ」
とんだ尾ひれがついてるわね…、何のためにエーデルを排除するのよ。バレたら私一溜まりもないじゃないそんな計画。
まぁエーデルは考えなしにレオナルドを殺害しようとしたきもするし…、そんなものなのかしら。
「流石に無いだろ殺害未遂だろ…でもエーデル嬢の後ろ盾はランデール卿だったとは聞くが」
「まぁ確かに…しかしもしそうだったとしたらスキャンダルではありませんか!」
まぁトラブルや他人の不幸話はさぞ楽しいのだろう、誰かが誇張して吹聴してるのかも知れないわ…まぁ噂で終わるならそれでいいけど。
ランデール卿とエーデルに接点があったなんてね、引っかかる情報ではあるわね。
怪訝な声で噂を信じない方の貴族は低い声で話を続ける。
「エーデル嬢の生まれマルシャン侯爵家は代々交易を取り扱ってきた、ランデール卿は昔から他国との貿易を栄えさせたいと熱心でマルシャン家を支持していたからな……結婚すればランデール卿の過干渉を受けると思ったのではないかね?」
「ランデール卿の干渉をレオナルド王子が嫌うのは分かるがね…それより私は隣国のガーランド家の姫と婚約するという噂を聞いたぞ」
(えっ――レオナルドは断るって、私と会えない間にもしかして)
いや彼なら事前に言ってくれるはずだ、なのに何処か不安だ。
信じたい、けれど国の都合の前に私の約束なんて意味があるのかしら……私は離れられず貴族達の話に耳を傾け続けた。




