10話 いっときの収束
「ちょっとレオナルド良かったの――」
相手にしないと言わんばかりのあんな断り方…心象が悪い。
確かに不謹慎だったかも知れないが大国の娘だ、これからどんな影響があるか……それに彼女はレオナルドの本当の“姫”。
「良いんだよ、君との話の途中だったしね」
「そんな事言ったって…」
「それに君に伝えたい事があるんだ、俺はこの後公務に戻らないといけないし……これから時間が取れるかも未定だ」
「……それはそうね」
彼は国王の代わりに色々と駆けずり回らなければならない、少なくともランデール卿とは睨み合い牽制し合う筈だ。
私の相手など出来るはずもない――
「ランデール卿には気をつけてくれ、――君との話はまるで理解ある風に話していたけど……」
「アクアリアとの外交を彼は最後まで反対していたんだ」
「そうだったのね」
通りで…アクアリアのリスクが含まれていない訳ね。
同盟した以上改心した可能性もあるけれど…不安要素ではあるわね。
「だから叔父上の口車にはくれぐれものらないでくれ」
「流石に分かってるわよ!」
ジトーっと目を伏せ、レオナルドは不安げで何処か信用していなさそうに私を見る。
「何よっ信用してないわけ」
「だって君……、大変な目に合う時はたいてい個室で危険人物と対面じゃないか」
その言葉に今まで起きた、エーデルとの水掛け事件やジェルメーヌ王妃の殺害未遂等のエピソードが、脳裏に駆け抜ける。
「そっそれは偶々、そうなっちゃったのよ!!」
「君しっかりしてるのに、偶に抜けてるからさ」
「そういう所も好きだけど……、直ぐに頼ってくれない所はもう少しどうにかして欲しいな――心配なんだ」
そう私を見つめるレオナルドの瞳は揺れていて、本当に恐れているようだった。
今までも…労をかけてきたのだろう。
しかし…いつもならヘラヘラと笑う彼が、こんなにも素顔を見せている事に違和感を覚える。
私に隠す余裕がないのか、隠すつもりが無いのかどちらか分からないが私の言うことは一つだ。
「まずは私の事より自分の事を考えなさい――そんな顔で心配されたらこっちだって不安になるわ!」
ビシッと私は人差し指で彼を指さす。
「まぁ一応忠告は受け取っておいてあげるわ」
ミネルヴァは何処か声高らかに上から物を言う、その言い方は傲慢そのものだが…レオナルドには「私の事は良いから、自分の事を大事にしてね」と綺麗に頭の中で翻訳された。
気難しい彼女なりの優しさをレオナルドは感じていた。
「ありがとう…」
「べ、別にそんな顔似合わないって思っただけよ」
思い悩んで苦しむ顔より、太陽のように明るいほうがずっと彼には似合っている。
「話してたら元気が出たよ、じゃあ行ってくるよ!使用人に甘い物は手配させておく」
(少し戻ったみたいね…)
「そう、じゃあまた」
「うんまた後で――」
軽く手を振るとレオナルドは大げさに手を振り、前を向くと私の下から去っていく。
何処か寂しさを覚えつつも、彼が明るくなった事に少しの安堵も覚えていた。
その場から立ち去ろうと私は歩き出すと通路でキョロキョロと見回すお馴染みの3メイドのマリー、ハンナ、ナターシャがいた。
私に気が付くと、一斉に駆け寄ってくる。
「ミネルヴァ様!お迎えに上がったのに居なくてビックリしました」
「舞踏会みたいに誘拐されたんじゃって焦っていたんですよ〜!!」
「それは、悪かったわね…」
すれ違いになってしまったのね…私もレオナルドと話し込んでしまっていたし仕方がないわ。
申し訳ないわ――
「ささ!帰りますよ〜とっておきのお茶を淹れてゆっくりティータイムにいたしましょう!!」
「そういえばレオナルドからお菓子の差し入れが入るわ、量が多かったら皆で食べましょう」
「良いんですか〜!!」
ハンナはポニーテールを揺らし、少女のようなあどけなさで跳ねるように喜ぶ。
こういった時代の砂糖が高価なのは、魔法のある世界でも変わらないらしい。
「こらハンナ!断らないと」
「ええ〜だってー!!」
貴重な機会を逃したくないハンナと、身分不相応だと糾弾するマリー…何だか似たようなもの集まりで見ていた気がするけど可愛らしさが雲泥の差だ。
(お菓子を食べるか食べないかぐらい平和だったらいいのに)
「気にしないでマリー、私が皆で食べたいの」
「ミッミネルヴァ様がそう言うのなら……」
「そんな事言って〜マリーも食べたかったんでしょ〜ナターシャちゃんにはお見通しだぞ!!」
「そんな事ないです!!」
「じゃあ、マリーの分は三人で山分けかしら」
そう言うとマリーの顔は見る見るとかわり、明らかにショックを受けている。
食べたい事が丸わかりで、その様子が可笑しくて笑ってしまう。
「ミッミネルヴァ様!!そんな――」
「冗談よ、さっ帰りましょう」
軽快な足取りで私達は、部屋へと戻る。
一体何のお菓子が届けられるか、4人で予想しながら楽しく帰る。
久々に童心に帰ったような心地でとても気持ちは晴れやかだ――
ミネルヴァの背中をじっとりと見つめる、マリアは遠くの廊下からひっそり見ていた。
「やっとレオナルドさんから、離れたじゃない…まぁいいわ今を楽しみなさいミネルヴァ・アクアリア」
「貴女にとっておきの舞台を用意してあげるから」




