8話 割れる王国
グレートホール(大広間)から出た私は、ふうっと息を付くと疲れを感じながらフラフラと自室へと歩いた。
取り敢えず議会は一旦纏まりを得た為、あの後細かい報告を済ませたのち一旦解散となった。
今後の話は、おまかな事ではなくアルカディア内で完結する細々とした事であると説明され、体のいい厄介払いをされた。正直に言うとランデール卿や貴族達にはった見栄のせいで、私はとっくに疲労困憊だった…
内心は休める事にガッツポーズを決めていた。
(疲れた!!…こう言うのってもっと段階があるでしょ普通!!)
文句を思ったところで、状況は変わらない。
疲れを感じてか無性に脳は糖分を欲してか、スイーツ達が頭によぎる。
「はぁ…甘いものが食べたい」
「用意させようか?」
びっくりしたと同時にもう聞き慣れた甘い声に視線だけ送る。
「ちょっと近いわよ!!」
「ごめんごめん」
「全く……本当に悪いと思ってるのかしら」
彼と話しているとなんだか手玉に取られているような気分になるのよね…、彼の気持ちを疑っては無いのだが。
そもそも姉妹ばかりで男性との付き合いは幼い頃のトレントぐらいだ、私に耐性がないのかもしれない。
「さっきはありがとう、俺を助けてくれたんだろ?」
「別に…あなたが王様になれないと、あなたのお父様の誠意がなくなってしまうからよ」
どこか突き放すような言葉だが、ミネルヴァは落ち着かない様子で図星なのが丸わかりだ。その様子にレオンルドはクスッと困り顔だが、どこか楽しげな顔を浮かべる。
ジェルメーヌ王妃の一件で人魚の国アクアリアへの謝罪として、アルカディア王家は現国王の退位とその引き継ぎを息子にする事で責任を取ろうとした。
ランデール卿に王位が渡ればその話はなかった事になる、それは我が王国としても困る。
あの一件に一切関わっていないレオナルドの叔父ランデールには、謝罪や要求はしにくい…関わる上でも正直面倒だ。
スニオン帝国の話を父が断った以上、“今更交流やめました”なんて言ったら笑われしまう。
それはそれとして……彼のことが心配だったけど。
「これからどうするの?」
「まさか今、王位に問題が出るとは思ってなかったからね…」
「正直、どっちが優勢なわけ?」
「血筋や正当性なら勿論俺だよ。それに陛下…現国王はかなり信心深くってね礼拝を欠かした事もない、神殿の聖職者たちは俺を支援してくれるが……」
「商人や貿易好きな貴族は叔父上を支持するだろうね」
宗教と商人…また噛み合わなそうなところが、ぶつかってるわね…
いえば精神論vs物質主義…噛み合うわけもない話が交わるのかすら怪しい。強いて言うならレオナルド優位な宗教感が強く神を信奉しているものが多いことが救い所かしら。
「なんとも言えないわね」
「この揉め事の最中に陛下が回復する事が正直一番丸い、…あんまり期待できないけど」
「そんなに悪いの?」
「……意識が戻らないそうだ、このまま目を覚さない可能性もあるそうだ」
悲痛な顔を浮かべるレオナルド、ようやくお父さんと歩み寄れるようになったのに――あんまりだ。
(神は本当に彼を祝福しているのだろうか…、それとも、私が未来を変えたせい?)
胸の前で不安からぎゅっと手を私は握る、私のせいだったらどうしよう……彼が今の所問題が起きているのはいつも私関連のものばかりだ。
確率は収束するというが運命もそうなのだろうか?
コッコッとどこかから音がなる、それは靴の音だ――その音の軽さから持ち主の華奢さ伺えた。
その音は私の考え等、どうでもいいと言うように近づいてくる、振り返った先に咲き誇る花のように繊細で柔らかな姫が現れた。
誰もが目で追いたくなるような花のように華やかで繊細の風貌、その容姿の愛らしさはアンリエッタを彷彿とさせるが不思議と幼さは感じられなかった。
「レオナルド王子、緊急な会合があったとお聞きしておりますわ…私、心配で」
潤んだ瞳がキラキラと輝き光に照らされた朝露のようだ、彼女は私に目が入っていないのかレオナルドをまっすぐ見つめている。
挨拶もないのは気になるけれど…レオナルドの緊急辞退を知るなら仕方ないのかしら?
「マリア殿…ご心配ありがとうございます」
「ミネルヴァ彼女はマリア・ガーランド殿、隣国の姫君だ」
隣国の姫。
じゃあ彼女がレオナルドの“運命の人”――
柔らかな微笑みを浮かべる彼女は、どこか不敵に佇んで私には見えた。
これから一体どうなるって言うの……
人魚姫の物語の分岐点とも言える彼女の登場に私は息を呑んだ。




