6話 王位の在処
「方針もそうだが王位はどうするのだ――」
貴族一人の言葉にその言葉に周りが固まる。
レオナルドは思っても見なかったのか、驚いた様子で口を開いた。
「今は王位じゃなくて方針の話を――」
「王子緊急事態だからです、もしもの事があり王が亡くなった場合アルカディアは指針を失います――決めるのは大事なのです」
痩せた貴族の言葉にレオナルドは口を閉ざす…
ミネルヴァはキョロキョロとその様子を見て嫌な予感がした。
「そんなのレオナルド王子に決まっている王位継承者第一の唯一の子息ですぞ!!」
恰幅の良い貴族は声を張り上げる、それを皮切りに皆が言い合いをしだす。
その怒気を孕んだ声たちはまるで殴り合うかの如く貴族達の中で飛び交った。
「レオナルド様は若すぎる…第二継承者王弟ランデール様のほうが良いのでは?」
「何だと!!レオナルド様は正統な王家の血何だぞ、ジェルメーヌ王妃は北の覇権を握る大国の娘――ランデール卿よりもずっと高貴な血だ」
「そのジェルメーヌ王妃は問題を起こした挙句に、不審死を遂げたではないか!!呪われてるのではないのかね?」
「何を言うかレオナルド様は太陽神に愛された予言の子ですぞ!!」
「それが何だというのだ…」
「それにそもそも王位継承者第一位のレオナルド様が継ぐのが真っ当でございます!!」
正しくこれは王位継承の争い、国で最も揉める部分ね……一人息子のレオナルドでこんな揉め事になるとはね。
というか王弟…ランデール卿は国王補佐って所かしら。
私からこの事に関して、今言える事はないわね。
そんな中レオナルドと真正面に対峙するランデール卿は手をあげた。
「話は少しそれるが、私はこの国の市場を拡大しより豊かに物を扱う商人の国にしたいと思っている」
「この国の海は広大だ、大きな港を用意すれば他国の船が多く駐められる…そうなればアルカディアは重要な国として様々な各諸国から必要とされる」
「私は新しく開拓しアルカディアを進歩させたい――」
続け様に語るランデール卿の言葉に私は、その考えに理解は示しつつも疑問を持った。
確かに国の発展としては素晴らしい回答だ、しかしそこまでの開発を行なってこの美しいアルカディアの景色は保てるだろうか?
「ランデール卿、アルカディアは太陽の神を信奉しこの美しいアルカディアの景色、暮らしを守ってきました…」
「自然と共に生きるはこの国の代々続く習わしであり国性です、その港の用意は…どのように行うつもりですか?」
「勿論木々や未開拓の海を大幅に切り開く」
レオナルドは立ち上がりその顔には怒りが含まれていた――
「神が愛したあの景色を脅かすと言うのですか!!そもそも海が汚れる、我々の生活圏を自ら脅かすのですよ」
信じられないと言わんばかりに、レオナルドはランデール卿の顔を見る。
それは怒りというよりは、もはや理解できない物を見ているようだ。
「交易をすれば莫大な利益が出る、そんな事は些細な事だ…そもそも汚れると言ってもいっときの事だ」
「陛下は…いえお父様は、そんな形の発展を望んでいない!!信心深いあの人は、神の教えを破らなかった――貴方の考えは、自分の兄の尊重してきた考えを台無しにしている」
先代の考えを継ぐ…それはよくある構図だレオナルドの主張は真っ当だが、ランデールの考えもまた正しい。
二つの意見が今ぶつかり合っている。
まずいわ、このままだと……
「……アルカディアは新たな未来に進むべきだ、古い考えを捨て私はアルカディアを“神の国”から“人の国”にするのだ」
「しかしお前が王になればそれは聞き入れない、故に私は王に成らねばならない」
「ランデール卿、俺はアルカディアの作り出した文化と在り方を守らなければならない――お前に席は譲らない」
ミネルヴァは新たな問題に頭痛を覚える。
一体何度目かしら…回を増す事に出している気がするわ。
完全な分断…これは派閥が分かれた激しい争いになるわ。まだ国王が死した訳じゃないから戦争にはならないわね……ランデール卿とやらが暴挙に出る可能性はあるけど。
だったら――
「お一つよろしいですか」
唯一女性であるミネルヴァの高い声に一同は驚くように目線を向けた、気に食わないのか初老の男性が文句を探すように舐め回すように視線を送る。
「他国の方が意見とは何かね、対し事じゃ無いなら黙って頂けますかな!」
「見目は麗しいが人程の知性はお持ちかね?まぁ喋れはするようだがね……」
分かりやすい嫌味ね、全く……
しかしこんな事は気にしても仕方がない、私は役目を果たさねば。
「王位継承の正統性…部外者の私には勿論測れません」
「なら何ようかね!!勿体ぶって時間を取るな!!」
「わが祖国アクアリアとの交易と外交はどのように引き継ぐおつもりですかお二方」
「今そのような話は関係――」
「関係ないですって?誰に口を聞いているの」
貴族の言葉をミネルヴァは遮り、より強い眼光で睨み返す。すると彼女の威圧に耐えかねてか彼は、後退りする。
「私は、ミネルヴァ・アクアリア――国王の代理として立っています国の顔として参った私が関係ないですって?」
「この国貴族は私の祖国をそこまで軽視なさってるかしら――この国を継ぐべき方々に先立って我が国との行く末を聞いているのに?」
「そっそれは…すっ少しばかし勘違いしてしまいまして……」
国王の代理、その言葉が強く響いたのか私を舐めていたのか知らないが押し黙り先程の威勢はすっかりと成りを潜めてしまった。
「小娘として見るなら結構――貴方の態度については後ほど深く考えさせて頂きますわ」
ちょっとした脅しだが効果は覿面なようだ、しかしこれで二人の意見が聞ける。
部外者が口を挟んだことで、二分化待ったなしの言い争いは一持久戦となった。
先に口を開いたのはレオナルドだった。
「父から君や人魚との外交や取引は、俺が請け負っていた物は多い、勿論今まで通りつつがなく行える…もっと大々的な交流だって予定しているよ海の発展に協力するつもりさ」
レオナルドの答えは現状維持かつより深い交友ね、まぁ予想通りというか予定通りの内容ね。
問題はもう一方――
「私は人魚の特異生を生かした働き口などはどうかと考えています、ミネルヴァ姫貴方のように先立って輝く女性がいるのは実に素晴らしい――よりアルカディアで人魚の居場所をと考えています」
「つまり人魚達をアルカディアで働かせたいと?」
「とんでもない!!相互理解を深め人魚という重要性を知らしめるのですよ」
「それはどのような職業を想定していますの?」
「美しい見た目を生かした演者やパフォーマンス、海の観光業ができるならその案内ですよ…人魚達は人の世界で居場所を得て我々は人魚により理解と利益を得る!勿論報酬や外交は欠かしません」
おおっと感嘆の声が上がる事業として外交を組み込む、人では成ねない事を委託する考えに貴族達は賞賛の声を上げる。
そしてなりより利益の生まれる形に、理解を示していた。
しかしレオナルドもそれには、賛同できないのか頭を横に振り何処か項垂れていた。
聞いているだけなら聞こえはいい言葉ね、けれど…内容は私からすればあまり聞き心地は良くない。
(この人…さっきの問題にはまるで触れないのね)
「他に何かあるかな?」
「いえ、もう結構よ」
ミネルヴァの呆れた様子に気がついたのか周囲はひそひそと言い合いをしながら二人の会話に注目した。
手応えのなさを感じてかランデール卿は、何処かぎこちない仕草でミネルヴァを見つめた。
はぁっと私はわざとらしく、ため息をついた。
ここで私の落胆を貴族達に知らしめるためだ、ここでいい顔してたら合意と捉えかねない。
「正直ランデール卿、貴方の方針にはがっかりです――」
そう言うと称賛していた貴族達は目を丸くした、何故ならこんなにもいい考えは無いだろうと、思っていたからだった。
そして私は瞳をゆっくり閉じ、言葉を頭で纏めるとゆっくりと目を開き言葉を紡ぐ為口を大きく開いた――




