4話 企みと迫りくる悲劇
コツコツとレオナルドは国王の謁見の間へと訪れる。
その顔から、笑みが消えていた。
「陛下がお呼びとの事で参りました」
「レオナルド、人魚はどうだ“使えそうか”」
低く感情の読めない声にレオナルドは応える。
「歩行はまだ困難です、ですが思ったよりも飲み込みが早い」
「支えがなくても歩ける日も遠くないでしょう」
「これからの予定に合わせて彼女の歓迎会を行い、貴族や重鎮達に知らしめます」
そうレオナルドが言い終えると、落ち窪んだ瞳で彼をジロリと見る。
「そうか…目的を忘れてはあるまいな」
「……人魚から、彼女達に伝わる海の魔法と王家の秘密を聞き出すことです」
レオナルドはその言葉に一瞬眉をひくつかせる。
「未だに神秘を保つあの国ならば何か知っているはずだ必ず方法を掴むのだ」
「…お前の力ならできるだろう?」
「――、承知しました陛下」
そう王の間をあとにする。
手を顔で覆い、そのまま滑らせる。口元を過ぎる頃には笑顔が張り付いた。
いつもと同じようにしていれば問題はない、――ノイズのように彼女の笑顔がよぎる。
――「ねぇ、ほら歩けたわよ!!」
無邪気に笑うミネルヴァの声と姿が思い出される。
「君が悪い子ならよかったのに……」
その顔には先ほど作った笑顔がはがれ落ちていた。
一方ミネルヴァは久々のふかふかのベッドを堪能していた。
「こればっかりは地上のほうがいいわね」
ベッドに手を置きながら羽毛の柔らかさを味わう。
コンコンッとノックのあと、返事をすると昨日世話をしてくれたメイド達が訪れる。
昨日と同様に身支度を整えてくれる。
ドレスに身を包み仕度を終えるとメイド長が近寄ってくる。
「レオナルド様から贈り物でございます」
「贈り物?」
細長く、少し重さのある箱だ。
(一体次は何を用意したんだ…)
恐る恐る開けてみると、それは杖だった、木製の杖には細やかな彫刻が施され真珠の装飾がされていた。
「歩きやすいようにとの事です」
こんな所まで気が回るのね…油断ならない男だわ。
「ありがたく受け取らせていただきます」
「勿論我々も歩行のお手伝いさせて頂きますのでなんなりとお申し付けください」
どうやら私の世話を命じられているのだろう。
(一応探りを入れましょうか…)
「貴方達は昨日もいたようだけど…専属なのかしら?貴方達の事を聞いてもいいかしら」
「もちろんですミネルヴァ様」
そうメイド長は粛々と話し出す。
「私は身の回りのお世話の統括を務めます、マチルダ」
「こちらの三人は私の補佐でございます。右から、マリー、ハンナ、ナターシャです」
それぞれ三編み、ポニーテール、ツインテールと特徴的な髪型の三人だ。
「「「よろしくお願いします」」」
元気な若い彼女達の声が重なった。
「私は本来は城のメイド達全ての統括を任されています」
「お一人で歩けるようになる頃には彼女達に仕事を全て引き継ぎます」
簡潔に自分の立場をマチルダは話した。
世話をしてくれるのはいいけど監視は厄介ね…一人になれる時間がない。
そんな話をしているとカチャリと扉が開くとレオナルドが入ってくる。
「失礼するよ」
「レオナルド様、いくら貴方といえどレディの部屋に不躾に入るのはいけません」
マチルダは自分にも他人にも厳しいのね…懐柔や油断を誘うのは無理そうね。
今はレオナルドの注意をしてくれてありがたいけど。
(毎回…あんな事されたら心臓が持たないわ)
そう昨日の至近距離での出来事がよぎる。
「悪いねマチルダ、連絡も兼ねてきたんだ」
「連絡?」
なぜだか嫌な予感をミネルヴァは覚えた。
「君の歓迎パーティーだ。二週間後、船で海上パーティーをする事になったよ」
――二週間後!?
(妹の成人の日じゃない!!)
「なぜその日で、海なのでしょうか…」
「そりゃ僕の誕生日だからさ!」
「僕に会いにいろんな人が集まる、君の紹介にも打ってつけなのさ」
あっ――大事な事を忘れていた。
妹の事…、いや人魚姫の視点でずっと考えていて思いもよらなかった。
このままでは悲劇が始まってしまう!!
「どうしたんだい?」
「お披露目があるんでしたら少しでも早く上達しなければと思って」
どうやって――いや王子の事は置いておかないと。
そもそもアクアリアのメンツがこのままでは立ちそうもない。
(王女として、外交の面子を保たないと)
「そうだね、俺も手伝うからね」
「貴方を頼っていては上達しないので結構です」
ミネルヴァはムッとしレオナルドの優しさを突っぱねる。
「真面目だね〜俺は公務があるからね失礼するよ」
「「「畏まりましたレオナルド様」」」
メイド達は元気に彼を見送った。
ミネルヴァは動揺していた。
思ったよりも早く運命が妹に牙を向くのを感じたからだ。
妹を守らないと。
考えろっ
考えろ!!
どうやって悲劇を回避するかを――、レオナルドを殺す方法を考えないと!!
(でも優しい彼を…?)
その感情の名前は――罪悪感。
(今更、どうしてっ)
海にいる時には考えていなかった思考に自分でも戸惑いを隠せない、私は汗ばむ手でスカートをギュッと掴んだ。




