2話 新たなお国事情
ミネルヴァは廊下を歩きながら昼食をとる部屋へと向かっていた。
今日は天気が良く風もさほどない為レオナルドにテラスで食べようと提案されたのだ。
(何だかんだあったけど、無事に過ごせて良かったわ)
(今日の話は私が帰国するかどうかの報告らしいとレオナルドに言われているけど。どう考えても帰る未来が見えて憂鬱だわ――)
「ミネルヴァ様、落ち込んでいそうですが大丈夫ですか?」
マリーが心配そうに声をかけてくる。
「ええ…まぁ、私の国とスニオン帝国で話があったと言うからね――政治で良いことだけ起こる方が珍しいわ」
「あわっ…やはり立場がある方は大変ですね」
「まぁ知らなくて良いなら、知らないほうが楽よ…」
そんな事を話している内に目的の場所へと、辿り着いてしまう。外に出ると既に食事の用意がされておりレオナルドが待っていた。
色とりどりの花々が咲き誇り、テラスに配置された花瓶には季節の花がテーブルを彩っていた。
「待ってたよ」
「綺麗な花ね、海には無いからつい見惚れてしまうわ」
「そうかいそれは良かった、海は逆に何を飾るんだい?」
率直な疑問からレオナルドは尋ねた、ミネルヴァは少し考え海での生活を思い出す。
「サンゴやイソギンチャク…あとはたまに取れるアゲートかしら、あとは宝石ね…でも食卓にはめったに飾らないわ、壁の装飾として大きな結晶があったりはしたけれど」
「加工技術は陸には勿論劣るから、装飾のレパートリーは多いとは言えないわ」
海では安定した道具を作ることがまず難しい、そもそも潮や水の影響を受けないものでないといけない。使うものを探すのがまず難しい。
その点で言えば両手両足をもつ、魚人のトレントたちの方がよっぽど文明的と言える。
「海には俺の知らない綺麗なものがたくさんあるんだろうね」
「見てみたい?」
「そりゃ君の故郷だもの、知りたいに決まっている」
その言葉に何だか嬉しくなる、私の事を考えてくれていると――素直に口には出来ないけれど。
和やかでとても平和な会話に心が何処か落ち着く。
日常的な会話に食事、何事も起きない時間に安堵を覚えた。
そろそろ聞かないとダメね――私はすぅっと息を吸い息を吐いた。
「そろそろ本題を話しましょうレオナルド」
私のこれからの事がこれで分かる――さあ一体どうなのか……
「あぁその話だね結論から言うと…」
バクバクと心臓が鳴る、あれから一応後悔がないように政治を勉強したり、アルカディアの文化を知ろうと文献を読みあさっていた。
知れば知るほど未練が増えていくだけだったけれど……答えを聞くために嫌々耳を傾ける。
しかしレオナルドの答えは――
「居て良いそうだよ!」
「えっえぇーーー!?」
予想外の答えに驚きを隠せない。思わず机に手を叩きつけるように立ち上がってしまう。
スニオン帝国の介入もあったはずだ…なのに何で!?
余程の事がなければ意見を変えないと思っていたけれど、一体何が――
「落ち着いて、今から詳しく話すから」
「とっ取り乱したわ…ごめんなさい」
「まぁ、びっくりだよね俺だってそうだ」
こほんっと咳払いをするとレオナルドは、再び真剣な眼差しで姿勢をさらに伸ばす。
「今回の件について、アクアリアの国王から連絡が届いたんだけど…スニオン帝国ではかなりの難題になったらしい」
「スニオンとしての今回起きた事件の他に大きな課題は二つ」
「一つは目亜人の誘拐問題…、これは人魚や魚人関わらずかなりの問題だとかで、我が王国に不信感があったの事だ。
二つ目は、人間との交流が成功した亜人の例は殆どない事だ」
「トレントも来た時それを議題に挙げていたものね」
アンリエッタが無事で良かったけれど、私達の同胞にはそうやって人に弄ばれた者は少なからずいる。
少なくとも美しさを目当てに捉えに来た話は全くないわけでもない。
「しかしこれについては案外いい方向に働いてね、王子が率先してアンリエッタ姫を探し回りミネルヴァ姫の殺害を防いだってね、逆に用意周到すぎて疑われたんだけど……」
「確かにそれはそうね…余りにも出来すぎた話だものね」
それこそ我々の同盟が長く続くなら、語り継がれる英雄譚になるものだ。
“当時王子だったレオナルド・アルカディアにより、我が王国の二人の姫は命を救われた――”って語り継がれそうだものね。
「まぁトレントがかなり協力的に発言してくれたとの事だ、“自分の母親を犠牲にした計画なんて組むわけないだろ!!”――ってね事件当日ずっと動向もしてたからね」
「まぁ流石にね……」
「そして一番今回決め手になったのはアンリエッタ殿の発言だったそうだ――」
「あの娘の?」
「“見たこともないのに、行ったこともないのに悪いって決めないでください!!少なくとも姉は陸で楽しそうでした”ってね」
「まぁ!そりゃ頭の硬い御仁も黙るしかないわね…自らリスクを背負ってまで陸とは関わりたく無いでしょうし」
「半分貶されている気がするな…」
「違うわよ、皆ね陸が怖いのよ結局……それを別の言葉に言い換えてるの」
「当たり前だけど前に進むより平和な現状維持がしたいだけなのよ」
大きい帝国ならではだろう、人や物…意見が増えるほど全てにおいて平均化されていくものだ。
そうなると定められた規格から出るのは難しくなり、動きづらくなる。
損をするのが一部ならいいが…そうともいかない。
そうなってくると、保守派ばかり生まれ今のような変化を受け入れられない者が急増する。
その点被害を受けたはずのアンリエッタの意見は、とても勇気のある発言といえる。
(要約すると、知らないし見たことも無いのに発言するな!!って事だけど……妹の性格上、気がついていないんでしょうね)
場が凍り付いたのを想像すると、居なくて良かったわね……トレントはきっと苦労したんでしょうねぇ。
少し悪い気もするわね、今度帰るときまでに土産を用意しましょう。
「でも、アンリエッタがとっても逞しくなったようね、何だか嬉しいけれど……少し寂しいわね」
「妹が好きなんだね」
「当たり前よ世界一あの子は可愛いんだから!!」
「あはは…」
私の様子にレオナルドが引きつった笑い声を上げる、引かれた事にムッとした私は不機嫌さ隠さず顔に出す。
「何よ文句あるわけ!!」
「な、ないです……」
「ふんっ!」
この軽口の言い合いも久々な気がするわね、少し楽しさを覚えつつ紅茶を飲み干す。
今日は外に合わせて花のフレーバーが入っているようで、花の甘い香りが鼻をくすぐる。
「後ねミネルヴァ……もう一つ言わないと行けない事があるんだ」
「何?」
「その……」
レオナルドは明らかに困った顔をしていた、言葉に出しづらいのか口をモゴモゴとしとう言えば良いかと、まさに悩んでいる様だった。
「何、今更勿体ぶってるのよ……」
「実は……お見合いをする事になったんだ――」
「はっ?」
「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
城に響き渡るような声でミネルヴァは叫ぶのだった、どうやら私達には本当に安息など無いようだ――




