1話 海の魔女と“運命”
海の中にある海蝕洞、自然に作られた海の上の洞窟。
そんな不安定な島とも言えない岩の塊に、一つの船がポツンとやってきた。
お忍びなのか鎧や服装が見れないように一行は、フード付きのマントを皆が身に纏っていた。
一人の女性が中を覗くと薄暗く、潮の独特な香りが洞窟内には満ちていた。
「姫様本当にお一人で?」
一人の護衛らしき人に彼女は話しかけられる。
「大丈夫よ調べたけど…ここで死んだって報告は殆ど聞かないわ――これは私達の未来の為なの」
「この先に魔女がいるはずなの」
そう言われた彼女は、フードをパサリと外す。
ロゼワインのような可愛らしく愛らしい柔らかな髪が現れる、柔らかな青空の瞳も持つ彼女はまるで春を思わせるような見た目をしていた。
「姫様!!お顔を出すなんて――」
「あらお顔も出さないのは、今から会う方に失礼だわ……」
「待っていてね貴方達」
そう答えると彼らは彼女を見守るように番をする事に決めたようだ。
彼女はランタンを形手に洞窟の奥へと進んでいく、歩いて間もなく外の光は入らなくなった。
ランタンが揺れるたび取っ手からキィキィと金属の擦れる音が鳴る。
少しの明かりを頼りに進むと開けた先で海水が溜まった場所をみつける。
天井に穴があるようでそこは微かに光が差していた。
「見つけたわ――」
彼女は迷わずそこに進んだ。
「居るんでしょう――魔女!!」
そう声を張り上げる――洞窟だからか声が響く。
しばらくすると海面が揺れ、ジャプンっと何かが海から現れた。
ザパッと跳ね上がりそれは開けた海の中にポツリと鎮座する中央の石に腰掛けた。
その人物の周りにボッボッと小さな球体の明かりが灯いくつも灯っていく――、その光の色は深海のような緑をしており不穏な気配と不気味さを漂わせた。
「及びかね……と言ったものの、儂はお前が来ることを知っていたよ」
「聞きたいことがあるんです!!」
「それは願いかいお嬢さん?」
しわがれた老女のような声で魔女は指を差し問いかける、伸ばした手はしわくちゃで長い年月を感じさせる。
魔女の言葉に彼女は、眉間にしわを寄せ不機嫌さを表す。
優しげで可愛らしい見た目は台無しだが、そんな事も気にもしていないようだ。
「そうよ、何故私の“運命”は変わったの――私は…私のいえ“マリア”のハッピーエンドを取り戻したいの!!」
「ほぉ~……、お前さん何処でそれを知ったんだい?」
「“前世”って奴よ――私はとある人魚の結末を知るものよ」
「お聞かせ…願おうかね」
魔女はゆっくりとした声で彼女に――否、転生者マリア・ガーランドに問いかけた。
「これはとある人魚姫のお話――
嵐の日、末の人魚姫は恋をする。海に落ちた王子を助ける。魔女に願い人の足を手に入れ王子と結ばれる運命を願うも……王子はその事を知らず、海岸の乙女に助けられ恋に落ちる。そしてその助けた隣国の姫と結婚して人魚姫は悲恋で死ぬ――」
「しかしそうはならなかったと言いたいんだね…」
「そうよ」
「ふむ…お前さんの言う事はどういう訳か儂が知る未来と同じようだね、しかし“運命”は変わったんだよ」
その言葉に彼女はギリッと歯から音を立てる――そこにはマリアの不満さと苛立ちの全てが詰まっているようだった。
「私が手に入れる筈だった幸せが!!変わったっていうの!!」
「そうさね…一つ勘違いを言うなら、王子の運命とはお前さんでもその末の人魚姫の事でも無いのさ」
「どういう事なの?」
「王子を危機から“救う”――それこそがお前達の未来を変える“運命”の正体さね」
その言葉に腑に落ちたのかマリアは、ハッとした。
何か思いついたのか笑顔を浮かべた――
「つまり“王子”を危機から救えばいいのねっ!!そうすれば貴方は私に恋をする!!」
「しかし…それは絶対絶命でなくてはならないよ、それこそ命や国がかかってないとね意味が無い」
魔女の言葉を聞いてか彼女は、自らの運命に夢を馳せ始めた。
(修道女の体でいた時に、一度だけ見かけた……麗しくてとっても素敵だったわ)
(面倒くさい修道女生活耐えるだけで、王子が私の物になって悠々自適な王妃生活。サイコっ〜に人生イージーって思っていたのに!!本当に誰のせいで、こんな事にこんな事になったんだか――)
「そうだ最後に願いの“お代”は払ってもらうよ――」
「あぁ、そんなもの必要だったわね……財宝でも何でも要求して構いませんことよ」
「おやおや、人魚姫の結末は知っていても……儂の事はあまりしらないようだねぇ〜そんな人間の価値に基づいた物なんて要らないよ」
いっヒヒヒと不気味に魔女は笑う……その不気味さにマリアはゾッとしたのか身を捩るようにランタンを身に引き寄せてしまう。
「なぁにお前の願いが叶ったならお前の聞かせたその話だけで満足しよう、しかしお前さんが王子と結ばれないなら……呪いを受けてもらうよ」
「ええ大丈夫よ」
「お嬢さん呪いはね――」
「言わなくて結構よ、結ばれない何てありえないから」
魔女の言葉をマリアは遮るとはっきりと自信たっぷりに言い切る。
「そうかい?」
「そうよだって王子様とお姫様は結ばれるものだもの、どんな物語だってそう、そして怪物と人間の恋はお決まりで悲恋で終わるものよ――」
「遠回りになったけど――待っててね私の王子様、二人のハッピーエンドを手に入れましょうね!」
そう彼女は天井の光を見上げ、まるで未来に思いを馳せるように眼差しと手を伸ばした。




