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人魚姫の“姉”に転生したので、妹の悲劇を防ぐため王子を殺すはずが執着されました  作者: 目々ノミーコ
2章

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23話 二人の時間

 コンコンっと私達の会話を遮るノックの音がした。


「入っていいよ」


 そう軽くレオナルドが返事をすると扉が開く、見たことがない執事だった。

 初老で風格のある肩で、よい地位に就いていることが目に見えて分かる。


「お話を遮ってすいません、用がありまして」


「なんだい?」


「陛下がトレント様とお話をしたいようです、大事な話だから二人で話したいと……」


「そうかいどうやらお茶会はここまでだね」


「まぁ話すネタもなくなる頃だろ」


「その割には楽しそうだったけどね」


「そんなことねーよ!!」


 ミネルヴァの言葉にトレントは強く突っぱねる。


 こういう所は素直じゃないわよねぇ…、楽しくなかったらあんなに話してないでしょうに。

 レオナルドも何処か面白そうに眺めている。


「じゃあ自分行ってくるよじゃあな!」


 彼は軽快に出ていく、扉が閉まる音を最後に場は静まり返る。

 そういえば二人っきりって久々じゃないかしら…、言い合いしたのが最後だわ。

 そう考えると余りにも気まずいわ……いや、あんなに堂々と踊ったわけだし、気にしても仕方がない。


「そういえば、聞きたいことがあったんだけど」


「へっ何かしら!?」


 一体何を言われるのかしら…ラストダンスも踊ったわけだし。

 彼の告白をまぁ受け取った訳で、一体どんな事が聞きたいのかしら……これからの事?

 それにしては顔が重苦しい気が――


「…母が落ちた時、誰かいた気がしたんだが」


「っ!?貴方も見えたの!!」


 机から乗り出してきく、彼はまぁまぁと言わんばかりに両手でジェスチャーし私を再び座らせる。

 取り敢えず話は聞かないとよね、はしたない事をしてしまったわ……


「夢を見たと言っていたからもしかしてと思って、あれは君の言っていた夢の人物なのかい?」


「…多分そう、気配が似ていた気がする」


「俺も最初は幻覚かと思っていた――けれどね…気になる事があったんだ」


「気になる事?……」


「俺はすぐ様見に行ったんだ、確かに母は事切れていた――でも…綺麗だったんだ」


 あの高さから?……ありえないわ、だってクッションになる木もほとんど無く落ちたはず。

 

「頭は砕けたっておかしくない高さだった、けれどまるで其処で倒れたように姿が保たれていた」

「広がる血がなければまるで眠っているようだった」


 こういうの何ていうのかしら?

 そう…心霊現象を聞いている気分だわ……

 摩訶不思議があり得る世界だから、もうこの言葉は使わないと思って居たけれど。

 神の仕業なら神霊現象かしら?

 王妃が突然走り出した事といい、レオナルドを別人と思ったり気味が悪い。

 彼女には…、私達より明確に()が見えていたのかも知れない。


「そうなのね…何だか不気味な話ね」


「でもまあ、あの人はあれで良かったのかもしれない」 

「最後のあの顔は、俺が人生で見た中で一番幸せな顔をしていたから」


 レオナルドは思い出しているのか、とても寂しそうに諦めたような平坦な声で語った。

 

 彼女の末路は、恋の果てに破滅した――その姿は何だか妹の悲劇を思い出させた。

 いつか報われると信じて、知りもしない隣国に嫁いだ。

 好きな人のためと好きでもない人と結婚した。 

 自分の息子に想い人の面影をみた故に、いつか焦がれた人と一緒になれると言う夢をみてしまった。

 恋に焦がれた少女だったのだ、その果ての結末がこれ――


 レオナルドは彼女の私情で、まともな親子関係を築く事なく暮らしてきた。

 そう思うとジェルメーヌ王妃には同情ができない。

 

 寂しげに笑う顔に、レオナルド気持ちが詰まっていて苦しくなった。

 何で今まで何も思わなかったんだろう―― 


 考えなくても分かる、彼は能力で幸せになったことなど無い。

 神に祝福を受けたはずなのに、様々な恋や愛と言った災いが彼に纏わりついてる。

 きっと誰よりも、愛に飢えて信じられない。

 だから…「俺の事を好きにならない君が好き」何て言っていたのね。

 

 こんな人……一人にできるわけ無いじゃない。 


「貴方の気持ちは十分分かったわ……」

「ならそれは置いておいて」


「なんだい?」


「せっかく……二人っきりなのに、そんな暗い話で終わらせるつもり?」


 ミネルヴァは照れくさそうに顔を赤らめる、その様子にレオナルドは目をパチパチとし驚きを表す。


「今日はずいぶん積極的だね」


「何よ!!いつこの関係が終わるか――」

 彼は指を私の口に当てシーッと音を出し、私の言葉を遮る。


「その先は言わないで」


 彼は、囁くように小さく私に言い聞かせるように声を出すとゆっくりと私の口から指を離す。

 今の彼にその事実は今は重すぎるのかもしれない……


「…分かったわ、でも私あなたの手を取ったんだから最後まで離さないから」


「それは嬉しいな」


「だから……困ってる時や悲しいときは言いなさいよね、話ぐらい聞いてあげる」


 今にも崩れそうな顔で彼は俯いた。

 部屋には重苦しい空気が流れていた、繕えない彼の本音が漏れる。


「もし叶うなら……普通の親子になってみたかったなぁ」

 

 項垂れて啜るような声で呟く。


「へばりつくような恋慕に嫌気が差す、何で俺なんだ……」


「…生まれた時から力を持っていただけなんだ、どこにも使い方も扱う方法も知る由がなくて……父にも腫れ物にされてきた」


「こんな力、欲しくなんてなかった…」


「――こんな力のせいで君も傷つけてしまうっ」


 吐き出されたレオナルドの言葉は、辛かったこと…彼の悩んできた事…そして私への罪悪感が詰まっていた。

 いてもたっても居られず私は立ち上がり、彼を抱きしめた。


「大丈夫…今は二人だからあなたの気持ちをちゃんと教えて」


「俺は君が好きなんだ本当に、君をこんな事に巻き込んでこんな事…言っちゃいけないの分かってる」


 震える声で涙を堪えるように喋りながら彼は、私の顔に手を添える。


「……、どうか側にいて」


「ええ、もちろんよ」


 涙を浮かべるレオナルドは、私に体を預けるように私を抱きしめ返す。

 縋るように彼は力強く私を抱きしめる。

 私はそんな彼の背中をトントンとまるであやすように、優しく叩いた。


 (彼の悲しみを今は受け止めよう)


 私の妹を魅了し、婚約者の理性を焦がし、母の心を惑わした神の瞳をもつ王子様。

 いつだって彼は与えられる愛に苦しんでいる、彼の悲しみや苦悩に寄り添おう。

 例え結ばれないとしても――。

 

 それはレオナルドには言えなかった言葉、いつかきっと私達は引き裂かれる日が訪れる。

 でもその時までは……

 いえ、叶うならこの先も――私は彼と恋がしたい。


 二人は悲しみに暮れていた、でも何処かその感情を出せる今に安らぎを得ていた。

 そうして寂しくて温かな時間が過ぎていった。

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