19話 朝日と共に
「おい、自分は流されないからな!!」
トレントは声をあげる、兵達の隙間を縫うように国王とレオナルドの前に立った。
「ミネルヴァは命の危険に晒されたんだ、…どう落とし前をつけるんだよ、自分はこの事を持ち帰る義務がある!!」
「トレント何も今じゃなくても」
私の静止をトレントは断るようにそっと、私の触れた手を外した。
「今じゃなきゃダメだ!!アンリエッタの所在だってまだ不明だ――それにミネルヴァ、お前の父さんがあんまりだよ」
「それは…」
一夜にして娘を二人失いかけた父に何も言うことは出来ない…、私が決めることではないわ。
彼らが悪い訳では無いけれど、王室としての問題と捉えられても仕方ないわ――
「自分は同盟国アクアリアの姫、ミネルヴァに対する謀殺を目論んだジェルメーヌ・アルカディアに相応の処罰を要求する――」
「……分かった、暫し時間をおくれ」
「レオナルド二人で話し合おう」
「はい、父上」
ハリソン国王は何処か窶れた顔で、その言葉にそっと瞳を閉じ答えた。
レオナルドはそれに寄り添った、兵達に囲まれた王妃は呆然としている。
ジェルメーヌの美しく結われた髪は一連の動作で崩れ、見窄らしくなってしまっていた。
廊下に出ると事を荒立てない為か少数の兵だけが連れられ、事情聴取をする為彼女の私兵達は監視される事となった。
突然の判断ね…
王妃の処遇は分からないが、エーデルよりマシかも知れないが二度と自由はないだろう。
自分の処遇を分かってなのか、それとも恋に敗れてなのか……どちらか分からないが、生気のない目で彼女は前を見つめていた。
日の傾きが強くなった為かキラリっと、強く城内が照らされる。
大きな窓から差し込む光に、私達は何処か目を奪われる。
(アルカディアの異名は“太陽の眼差し”だったわね……海に光が反射して輝いている、確かに相応しい名前だわ)
ジェルメーヌはその光に釘付けなのか急に立ち止まる。
「あぁ、何だずっとそこにいたじゃない――」
そう彼女が呟くと同時に、ぶわりと風が私達の髪を靡かせた。
余りにもつよい強風に私達は顔を腕で隠した。
気がついた時には、彼女は走り出していた。
大理石の床が彼女のヒールに合わせて音を鳴らす。
つよい風に花びらが部屋に踊るように舞い込む。
窓の縁に彼女は恐れる事なく立った――
「待て、やめるんだ!!」
国王が叫ぶ。
「まさか――」
そうレオナルドは手を伸ばし走り出す。
「やっと見つけた私の愛しい太陽、今参りますわ」
踊るように優雅な所作で、最愛の人に会えたと言わんばかりに涙ぐんで手を広げる。
髪が舞い、風と共に踊るようだ。
ほんの一瞬私の目には、金の青年が窓の外から手招きしている姿が映った。
ジェルメーヌに手を差し出しているようにそれは見えた。
彼女はその手をまるで掴むかのように、宙に手を差し出した。
彼女はまるで少女のように微笑み――そしてそのまま宙に身を投げ出した。
そのまま頭上に手を掲げ踊るように高い城から、
――落ちた。
鈍い音が遠くでした気がした。
「うそでしょ…」
言葉をそう零してしまう……、先程までいた彼女が消えた……いや落ちたのだ。
「マジかよ!!」
トレントがその行動に動揺覚える、いやトレントだけでは無い。
唐突な彼女の最後に私は唖然とするしか無かった――
あれは幻影それとも?
「陛下ご命令を!!」
レオナルドは焦ったように、父親に判断を求めるが国王は地面に伏しまともに立ってすら居られなくなった。
「ジェ、ジェルメーヌ……」
「なんて事だ――」
レオナルドは苦虫を潰したような顔を浮かべ、姿勢を正すと兵達を見る。
「兵達をすぐ集めて、あの場所に向かわせろ!!」
「早急にあの場所を立ち入り禁止にするんだ――これは国の一大事だ」
「「はい!!」」
その言葉にゾロゾロと兵達が動き出す、私達はただ見ていることしか出来ない。
「レオナルド様――これは何の騒ぎで…」
一人の兵士がレオナルドに報告に来た、しかし今はそれどころでは無い。
「何のようだい、完結に頼む」
「王妃様の私室から、アンリエッタ様を見つけました――ただ…長い時間水のない場所で、人魚の姿で放置されていた為か気絶しておりました」
その言葉に私は胸を撫で下ろす、良かった生きていた。もうダメかと思っていたけれど――
「それは良かった、生きているだけで有難い限りだ」
「彼女達を案内してくれ俺は別用がある」
そうレオナルドは私を見ると、ギュッと抱きしめた。
「また、会おう――」
そう彼は背を向けて私の元から去っていく、これからどうなるか分からないけれど…取り敢えず妹に会わないとね。
そう私とトレントはその場を後にした。
私は兵達について行き妹の元に辿り着く、彼女は私室の水の張られたバスタブに入れられていた。
彼女の桃色の鱗が水のなかでキラキラと輝いていた。
「アンリエッタ――」
そう手を掴む、彼女はうっすらと目を開けると私の顔を見た。
「お姉様…」
「目が覚めて良かった!!このままもう話せないじゃないかって…思っていたのよ」
「勝手に行動してごめんなさいっ――」
私はドレスが濡れることも気にせず抱きつく、鱗が足に出ているかも知れない…けれど妹を抱きしたくて仕方がなかった。
「私…王妃様にその……」
「大丈夫よ…大体の事は分かっているわ」
「まぁ、何だかんだお前が無事で良かったかな」
そうトレントはアンリエッタの無事を確認すると、ようやく和らいだ顔を浮かべた。
「トレントごめんね…一緒にいてもらえば良かった」
「良いんだよ、自分だって気づかなかったんだ」
そうトレントもしゃがみ込みアンリエッタの頭を撫でる。
私達はようやくほっと息をつくのだった――




