18話 母と✕✕
「どうして、どうしてなの!?なんで私を拒むの」
「ずっとずっと、あなただけ見ているのに!!」
叫び声のようにレオナルドにジェルメーヌは言葉を放つ、レオナルドは目線を反らし顔も合わせたくもない様だった。
「なんで…その眼差しをほかの女に向けるの」
「お母様…もうやめてください、この事は父にいいます…父なら許してくれますよあの時と同じ様に」
その言葉を告げるとジェルメーヌの顔から表情が消え失せる。
「あの時…?あれが悪い事だって言うの!?」
「私を忘れた貴方に、愛を教えて上げようと思っただけじゃない!!」
それって――悍ましい事実に私は口元を抑える。
トレントは再び吐き気を模様していた、ここに来てからずっと彼は不快感に耐えられていないようだ。
確かにこれは私でも目に余る……、いくら息子の事が好きだからとはいえ限度がある。
それに何だか言葉がおかしいような――
(私を忘れたあなたに?…息子が母親を分からないなんて無いと思うけれど)
「いい加減にしてくれ!?何の話なんだ」
「息子に恋心を抱くなんてイカれている!!」
レオナルドの拒絶は真っ当なものだ――隠された王妃の秘密、余りにもそれは通常の感覚では納得できない物だ。
「私は――貴女を息子として見たことなんて一度もないわ」
「だから今回は、あなたの為にお母さんをしていたじゃない――なのに!!
そんな女と踊るから、
その女に私にくれない眼差しを送るからよ!!」
レオナルドはありえないと言わんばかりに、顔を背ける。周りの衛兵達も流石に彼女の言葉が不思議なのか、首を傾げている。
考えたくもないわね…
「これは一体何の騒ぎだ」
アルカディア兵が中には入ってくる。
その後に続き声の主である、ハリソン国王が部屋に入ってきた。
王妃に息子の不在に流石に耐えかねたのだろうか?
「レオナルドこれは一体どういうことだ!!ミネルヴァ殿も居るではないか……」
「陛下…母は正気に戻ってなんかいない!!なぜ出したんですか」
「その結果がこれだ」
そうレオナルドは銀のスプーンを見せつける、黒ずんだそれの意味が国王に分からない筈もない。
「ジェルメーヌ…何故だ」
国王は駆け寄るとその手を彼女は跳ね除ける。
「触らないで!貴方なんて愛してないわ!?私が愛してるのは彼なんだから」
その様子に国王は項垂れる、彼は彼女を深く愛しているのだろう。
息子にやった何かしらの行動にすら目を瞑るほどに……
王位後継者に対する負のレッテルを避けるためだったとしても、余りにも寛大な配慮だ。
他に子供を作る選択もあったはずだ――しかし彼女は正妃であり続けているのがその証明だ。
レオナルドは…この二人の事をどう思っていたのだろう?
そういえば彼から両親の話は聞いたことがない――
国王は私を見ると駆け寄っってくる。
レオナルドを押しのけ手をギュッと掴む――
「お願いだミネルヴァ姫、どうかっどうか!!妻の呪いを解いてくれっ」
「えっ」
「人魚の世界には魔法があるのだろう!?太古の秘術が残ると聞いている!!!」
「彼女はレオナルドの瞳によっておかしくなっただけなんだ……」
「元に戻してくれ、お願いだ――レオナルドとの婚姻だって見とめる、どんな物だって与えよう」
彼の声は徐々に弱々しく萎んでいく、懇願するかのようにそして掠れた絞り出したかのような声を吐き出した。
「だから……ジェルメーヌをどうか戻してくれ」
「ごめんなさい、魔法は私たちの世界でも殆ど失われているの…」
「今すぐに彼女を、どうにかする手段を私は知らないの」
「どうにかできる可能性はあるんだな!?」
そう国王は顔をあげた。
全く可能性がないわけではない…海の魔女の存在だ――人魚に人の姿を与えるほどの存在だ。
レオナルドの魔法の一つぐらい解ける可能性はある。
「本当なのかいミネルヴァ」
「……ええ、あまりいい手段だとは思わないけれど」
彼女に何かを叶えて貰うには代償がいる…、それを払えるかどうかが分からない。
「アハハハハハハ――」
ジェルメーヌが一人ふらふらと、高笑いをあげる。
「皆して私がレオナルドの目の力に当てられたと思っているのね!?」
「はっ……?」
レオナルドは思わず声をあげる、その言葉に私を含む他も動揺を隠せない。
ずっと何かがおかしい――彼女はなんと言っていた?
故郷に帰りたくない理由に彼女が答えたのは…
「――それは無いわだって……私は天啓を得てここに来たんだもの」
「とても素敵な方だったわぁ…思い出すだけでドキドキしちゃう」
「それに…レオナルドが生まれた時の事を思い出すわ」
何かがおかしいわ…彼女は本当にレオナルドを好きになったの?
極めつけに“息子として見たことがない”
もしかして彼女が愛していたのは、彼女が恋焦がれたのは――
「白い神殿に、広がる青い海…」
「――っ」
私がポツリと話始めると、ジェルメーヌは耳を傾けた。
「そこに居るのは金の髪に一枚の大きな布を巻いたように着た、彫刻のような容姿で赤い輝く瞳を持った美しい青年」
「何故っ――貴女が知っているの彼の事を」
「おおっ、それは正に天啓を授けた我が王国の神の姿だ」
その言葉に私は確信する、彼女が愛していたのはレオナルドではない。
彼によく似た別の存在それは――
「彼にあったの!?」
「いつ!何処で!?何故貴女なの??」
ジェルメーヌは私に飛びかかり肩を掴むその姿に、女王の威厳も麗しい美貌も霞んで見えた。
恋に狂った女がそこにただ存在している。
「夢で会ったの……彼に銀を好みなさいと言われて、常に銀の食器を持ち歩いていたの。それがなきゃ私は毒を確かめる術もなく死んでいるわ」
その事実に彼女は目を白黒させる。
なぜだか分からないが、夢の人物とレオナルドを同一視していたのだ…。
彼女は地面へと崩れ落ち、豪華なドレスは地面へと広がる。
「レオナルドは彼ではないの……?嘘よだって同じ目だったわ――間違えるはずがない!!」
「姿を変えて会いに来たそうでしょう、……?」
レオナルドの足にジェルメーヌはすがりついた、レオナルドはしゃがみ込むとゆっくりと口を開いた。
「俺はレオナルドだよ――おかあさん」
「いっいやぁあああぁあああああああ」
ジェルメーヌは泣き叫んだ――城中に響き渡るような悲痛な叫びをあげた。
まるで咆哮のようで、私達は全身でその声をその感情を感じた。
人はここまで恋に狂えるものなのだろうか……
だとしたらきっと、此処に居る私を含むレオナルドもトレントも妹だってその可能性を持っている。
恋は人を愚かにする…よく言ったものだ。
「なんて事だ…まさか、最初から愛など無かったと言うのか……」
「陛下…お気を確かに」
「レオナルドすまない――私はお前の力が妻に及んだとばかりに……」
「俺も家族である事を何処かで諦めていました…」
「俺達は在り方を改めましょう……」
窓から一筋の光が差した、夜が明けたのだ。
彼女の焦がれた彼は現れることは無いが、日は今日も昇る。
主役が不在で舞踏会は、空から終わりを告げられた――




