7話 夕暮れに照らされて
「急に言われたって分かんないわよ!!だって私モテた事ないもの!!」
「…え?」
予想外の言葉にレオナルドはマヌケな声を出す、掴んでいた手を離す。
私は彼を押しのけた。
「だって、私には鮮やかな髪もっ、澄んだ瞳もない!!」
感情的に叫ぶ、どうしても感情を抑えられない。
思い浮かぶのは妹の姿――妹に劣等感を抱いているなんて…私最低だ。
「魔女見たいって言われてきたの…それなのに、急に綺麗だなんだ言われても…」
「受け止められないわよ!!」
私を褒め称えるのは家族だけ、周りは美しく鮮やかな姉妹達と比べていた。
深海色の瞳は祖国では不気味がられていた。
私は元々転生者、よそ者なんだからと気にしないように見ないようにしていた。
けれど……色とりどりな姉妹達に憧れはずっとあった――
「すまない、君がどんな風に生きてきたか知らなかった…」
「けれど、俺はほん――」
「チヤホヤされてきた貴方には分からないわよ」
その言葉を聞きたくなくて私は彼の声を遮る。
「もう放っておいて」
彼の事になると何にも上手くいかない…気が付くと一粒涙を零していた。
私は彼に背を向けた。
突き放すしか今は出来ない――こんな事する自分も嫌いになる。
私は逃げる様にその場から立ち去った。
置いていかれた王子様は、一人黄昏の中に残された。
自分のした事に頭を抱えた。
ただ好きなのに、どうして上手くいかないんだろうか?
今まで――あんな拒絶の仕方されたことなかった。
「やっぱりあいつの事が好きなのかな…」
「でも、諦められない」
初めて人を好きになった、諦められる訳がない。
彼女は海の底のお姫様だ、いま逃せば二度と出会えないかも知れない…それは嫌だ。
――チヤホヤされてきた貴方には分からないわよ――
ミネルヴァに言われたこの言葉に不甲斐なさを痛感した。
今まで好きになって貰うばかりで…好きになって貰う事をちゃんと考えて無かったのかもしれない。
彼女の事を考えられて無かったんだな俺、自分の事ばかりだった…
「改めないとな…それに向き合わないと」
沈んでいく夕日は赤く、暗がりが迫り始めていた。
俺もこれからの事を考えないとな…感情的になるのは抑えよう。
「あら…ここにいたのレオナルド」
ヒュッと息を飲む。
慈愛に満ちた嫋やかなその声にゆっくりと振り向く。
夕日に照らされたまとめ髪をした女性――品のある優雅な立ち振る舞い。
優しげな目元は自分とよく似ていた、レオナルドは彼女をよく知っていた。
「王妃様…」
「あら、そんな仰々しく言わないで私の愛しい太陽」
俺の母親――最初にこの目に焼かれた女性。
大国の王族でありながら、俺への偏愛から閉じ込められた不遇の王妃…ジェルメーヌ・アルカディア。
「――お母さんって呼んでちょうだい」
(何故、この人がここにいるんだ…!?)
もしかして出したのか!?こんな政的に大事な時に限って……
「貴方が死にかけたと使用人の噂で聞いたの…」
「あぁ…その件ですか、心配をかけてしまうと父と話て黙っていたんです」
俺はこの人の目が苦手だ――深い灰色、アルカディアでは珍しい異国の色。
「そろそろ舞踏会があるでしょう?だから出る約束があったのよ、…もうあんな事しないわ」
「それより、貴方を救ってくれた方は何方?お礼をしないと」
「彼女は、…今立て込んでいますので」
「あら……女の子なのね」
嫌な予感がする、母親の顔を見るが特に何も気にしていなさそうだ。
――てっきりエーデルと同じ様になるかと思ったがそうではないようだ。
俺の瞳の力も永遠ではないのだろうか?
「なら特別な方が良いわね、殿方ならものでいいけれど…」
「ジェルメーヌ!!こんな所にいたのか…ダメじゃないか」
陛下が、父が駆け寄ってくる。
不安そうに母の手を取り、必死そうだ…無理もない父は愛妻家だ。
一目で見惚れて結婚したのだ――それに母はまだ若々しく美しい。
そもそも父が魔法の事を知りたいのも、この人の為だ――
「貴方ごめんなさい、今日は2人でゆっくり食事をしましょう」
「おお、そうか…最近は安定していて良かったよ」
「ええ、みんなのおかげよ」
ジェルメーヌはそう笑う、何処か歪んだ家族を沈みゆく太陽だけがこの光景を見ていた。




