6話 深海の姫と二人の王子
レオナルドはトレントの手を掴む、その力は強いのかギリッという音がする。
「反省せず彼女を泣かせたのか!?」
レオナルドのその声は、怒気を孕んでいた――
どうやら彼は私が彼に泣かされたと勘違いしたらしい。
私が思い悩んでいただけなのに…トレントを巻き込んでしまった。
「違うのレオナルド…私が落ち込んでいて、話を聞いてくれていただけなの」
「あっ…そうなのかい、すまない」
「君がまた傷つけられたのかと思って――良かった」
彼はホッとした顔でその手の力を緩めた。
その眼差しはとても優しく柔らかいものだった。本当に焦っていたのだろう、冷や汗を顔に滲ませてる。
その様にギュッと胸が締め付けられる――
こんな時にどうして…意識しないようにって思っていたのに。
「そうだぜ!!まぁ、今回は勘違いされるような行動を事前にしてた自分が悪いけどぉ…」
「そう思うなら謹んでください…」
そうレオナルドは疲れた声を混じらせ、ため息を吐く。
彼を見ていると、どうしていいか…分からなくなる。
いや答えは出ている、妹の恋を応援しよう――
「…そう言えば聞きたいんだけどさ」
「今度は何ですトレント殿」
「お前達婚約の話とかは出てるのか!ミネルヴァと話をして気になったんだけど」
「それは――」
「そんな話出てないわ」
そうハッキリとレオナルドが言い切る前に遮る。
こんな事言わせてはいけない、彼は助けただけ――そもそも乗り気な発言なんてしたことも無い。
「そんなにハッキリ突っぱねなくても」
「いいえ誤解を招くわけには参りませんから」
私、何で気が付かなかったんだろう…
私は、人魚姫から彼の心をさらったお姫様そのものじゃない。
私が妹の居場所を今奪っている、返さないと…
太陽が沈み不気味な赤さが大地を照り返していた――
「それならよかった、婚約の話!自分は本気やからな!!」
トレントの言葉にレオナルドは、驚く。
その視線をミネルヴァに映しその答えを待った――しかし答えは彼の望むものではなかった。
「えぇ――考えておくわ」
俯きながらミネルヴァはそうポツリと同意した、不敵な笑みで立ち去ろうとするトレントは、キラリと光るものに目を奪われる。
彼の余裕はそれにいとも簡単に剥がされた。
レオナルドはトレントを見ていた、――日を背にして陰るその顔――いや瞳は、見開かれ夕日のように赤く不気味に輝いていた。
トレントぎょっとするが、一瞬の出来事だったのか夢の様に消えてしまう。
(今のは――っ!?)
「トレント皇子……、帰らないのですか?」
レオナルドは柔和な微笑みを浮かべる、首を傾げ不思議そうにする。
それは、あまりにも張り付いた笑顔だ――
「どうしたのトレント」
立ち止まってどうしたのかしら?
ミネルヴァはレオナルドの後ろにいたせいか全く見えていなかった。
「……、まぁ自分は言いたいことも言えたし、休ませて貰うわ」
「またな!」
そうミネルヴァなわざとらしく告げると、彼は立ち去っていく。
(なんだあれは――身間違いか?)
(人間がしていい目じゃないだろ!!もしかして…)
トレントはっと何かに気がついてか、立ち止まるが振り返る事はなかった。
一人廊下を突き進みポツリと呟いた。
「案外早く原因がわかりそうだ――」
二人で残されて気まずいミネルヴァは、帰り時を失っていた。
どうしましょうまともに話せる気がしない。
先に切り出したのはレオナルドだった、彼は私を見つめると何処か無機質な顔で口を開く。
「彼と何を話してたんだい」
「貴方には関係ないわ」
妹の事だ言えるわけがない、国際的にも問題だ。もし何か言えばレオナルドは妹に直接言うかもしれない。
彼は、不機嫌そうに顔を歪める――
「トレントが好きなのかい?」
「そりゃ幼馴染ですもの友人として、…」
「そんな事は聞いていないの分かってるだろう」
声が鋭くなる、しかし答えては彼を期待させるだろう…
今迄だって別に、いい返事は返したことはない筈だ。
なのに何で……
「何の事かさっぱり――」
「惚けるな!!」
彼の叫んだ言葉は私に投げかけらた、その瞬間――腕をつかまれ壁に追いやられる。
彼の顔が近づく。
あまりに強引なその仕草――あんなにも優しい彼からは想像もつかない行動だった。
「俺は!!――男として、あいつが好きか聞いているんだ!!」
ぶつけられた言葉に心がざわめく、真っ直ぐと見つめられた瞳には怒りが宿っている。
何が彼をこうさせたのか――暴力的な執着を向けている。
「私は……」
詰まる喉から無理やり声を出す、私の出した答えは――




