2話 天啓と新たな難題
目覚めた場所は、白い建物の中だった。
白い石柱達が並びまるで神殿のようだ。
柱の隙間からは海がみえ、潮風を運んでくる。空は晴天で鮮やかな青で彩られていた。
それは城から見えるアルカディアによく似ていた。
しかし何処となく浮世離れした光景に、ミネルヴァはここが夢だと確信する。
「美しいだろう――私の国は」
振り返るとそこには金髪に、均整の取れた肉体を持つ男がいた。
白い布で作られた服を纏っており、彫刻のような出立だとミネルヴァは感じた。
しかし顔はぼやけていてよく分からない、しかし優しげなその雰囲気は、なぜだかレオナルドに似ている気がした。
「あの子を助けてくれて、ありがとう美しい姫よ」
「しかしまぁ、こんな美しい者を独占しているなんて…」
「あの人は相変わらず欲張りらしい」
(ちょっと違うけど、何処かで聞いたことがあるセリフね…ますます似てるわ)
しかしあの人とは誰のことだろうか?
疑問はあったが、それよりも勝つ思いがあるからか私は違う感情を吐露した。
「……違うわ成り行きよ」
「私……、本当は彼に最悪なことをしようとしてたの…」
それはレオナルドには決して言えない後悔の言葉だ……、あの気持ちが消えたわけじゃない。
今だって妹が一番大事だ。
この世界に来て一番最初に思ったことがそれだった、その為だけに生きてきた――
「いいじゃないか、全ての英雄が世界を救うために旅をするわけじゃない」
「成り行きで世界を救う事だってある」
「でも!!」
「そろそろ朝だ、目覚める前に言わなければならない事がある」
彼がそう言うと風がまい、この葉や花びらが宙を舞う徐々に視界を奪っていく世界が、夢が遠のいていくのが分かる。
「彼の息がかかっている君に本来信託は与えないけれど――これは僕からのお礼だ」
「君の災難はまだ続きそうだ、“金には気をつけなさい銀を好むといい”」
かろうじて隙間から見えた彼の瞳は、レオナルドと同じ輝くような赤い瞳をしていた――
「あなたは一体…」
ガバッと飛び起きて
「誰なの!!」
と声を張る、あたりを見回すと自分の部屋だ。
ふかふかのベットに上等な家具達、何も変わっていないしかし夢の内容が気がかりでならない。
「金に気を付けなさいね…」
アバウトな内容だわ城中の装飾を見れば大抵はついている気がするのだけど…ありがたい忠告な事だわ。
おっと嫌味が出てしまうわね…いけないわ。
しばらくするとメイド達がやってきていつも通り、支度をしてくれる。
紅茶を淹れてくれる、そこには小さな銀のティースプーンがあることに気がつく。
「これちょっと借りていいかしら?」
「いいですけど、どうしたんです?」
「ちょっとしたお守りよ」
不思議そうな彼女達を横目に私はそれをそっと持ち運ぶことにした。
支度を終えるとホールに来てくれとマチルダから言われ城の入口へとついていく、前私が来た時と同じように大勢の人が待ち構えていた。異国からの来賓に皆本気と見える。
それもそうね、王子が死にかけたんですもの…国としては由々しき事態だものね…
「そう言えばレオナルドは?」
「ミネルヴァ様と同じようにお迎えに行かれました、前回の反省点を生かし衣服などを持って行かれました」
確かに――今思えばあれ大事件よね…文化の違いと言えばそうだけど……
もしお父様だったとして着てくれるかしら、頑固なところあるしなんか急に心配になってきた。
(こんな事なら一緒に迎えに行きたいっていうべきだったわ)
(でもあの男の事だから都合よく解釈されそう…それは困るのよね)
余計な事ばかり考えていた――
「レオナルド様が帰ったぞ!」
その言葉に開かれた扉の向こう、正面を見る。
車椅子を押す一人の青年と、座る少女がいた。レオナルドは彼らの隣を歩いていた、しかし今はそんな事はどうでもいい。
見覚えのある風貌に胸の鼓動が早まる――
(嘘よ、なんで)
目の前の現実に私は目が離せなかった。
陽光で輝く金糸のまっすぐな長い髪、海を写したような青い瞳、柔らかで可憐なその容姿はまさに妹アンリエッタだ。
レオナルドと仲睦まじそうに話しながらやってくる、次第に私に気がつくと花が咲くような満面の笑みを向けて手を振っている。
「お姉様!!」
ぎこちなく私は手をふる、顔に出すな、冷静を装え、それから――頭はぐちゃぐちゃになる一方だ。
どうしよう、どうなるの?運命は変わらないの――そんな自問自答が胸で埋め尽くされていた。
考えている間に三人は、私の元に辿り着く。
「サプライズです!!喜んでもらえましたか」
妹の無邪気に洗う姿に毒が抜けてしまう、まだ決まったわけではないそう気持ちの昂りを抑える。
この子は何もしらない、それなのに再会を無視しては姉としてダメだ。
今は一旦気持ちを抑えるのよミネルヴァと、自分に言い聞かせる。
「びっくりしたわ、会えて嬉しいわアンリエッタ」
「私もミネルヴァお姉様に会えて嬉しいです寂しかったですっ!!」
妹は私の腰に抱きつくぎゅっと力強く抱きしめた、可愛い…あまりにも可愛い。
今は余計な事を考えない様にしよう。
「姉妹の再会は、嬉しいけど自分の事も忘れないでほしいなぁ」
「あなた…もしかしてトレント!!」
それは海でできた私の幼馴染だ。
特徴的な青緑の髪に快活な容姿、なぜ気付かなかったのだろうか?
よくよく考えれば、彼と再会したのは数年ぶりだ。
昔は然程背丈も変わらなかった気がするが、随分と差がついたようだ。
そうトレントを見あげた。
「君が陸に行ったて、自分の国でも大騒ぎだったぜ」
「それはそうよね…人間と交流してたなんて、魔法が当たり前だった時代だもの」
彼は人魚ではなく魚人族だ、元々足があり陸でもある程度活動することができる種族だ。
だから歩行が何も問題ないのだろう。
「知り合いとは聞いていたけど、どんな関係だい」
レオナルドは親しげな様子に問を投げかける。
「幼馴染なの」
「えー!!婚約者じゃねーの!?」
その言葉にレオナルドも私もぎょっと目を見開き、その言葉に動揺する。
そういえばそんな話が出たこともあるが、結局確約されることなく終わった筈だ。
「別に確約された話じゃなかったでしょ!!」
「えー自分、わりと本気だったんやけどなぁ」
レオナルドは一瞬、表情を失う。
しかし、ハッとするとすぐ様笑顔を張り付けた。
ミネルヴァはその光景を見ておらず、アンリエッタが不思議そうにしていた。
「レオナルド様大丈夫ですか?」
「うん?、何でもないよ」
誤魔化すようにアンリエッタにそう微笑んだ。
輝くようなその微笑み、彼女の心が貫かれたのは仕方の無いことだ――
アンリエッタはパッと顔をそらし手で顔を覆うと、手の隙間からレオナルドを除く。
レオナルドは不思議そうにした、隠された彼女の頬は桃色に色づいていた。
様々な恋模様が一斉に王宮にひしめいていた。




