第209話 お別れ会
意を決して魔動船クルーザー号のお披露目を仲間にしたところ。
何故か誰にも叱られなかった。
なんなら褒められた。
快適な旅ができるねとテオやチェリッシュは大喜びだ。
ギガンやアマンダ姉さんの顔は引き攣ってたけど。
事前にディエゴにチェックしてもらってたのが功を奏したのだろうか?
きっと上手いこと言い包めてくれたのだろう。
そうしてようやく準備が整い、いよいよサヘールを旅立つ前に、お別れ会を兼ねてアラバマ殿下たちにお披露目をすることにした。
「これが貴様たちの魔動船か。して、『クルーザー』とはどういう意味だ?」
「様々なところを巡航しながら旅を楽しむことのできる乗り物という意味だ。船内で生活するために、必要な機能や装備が整っているのが特徴だな」
「ほう。確かに居住設備があるし、従来の中型魔動船と一線を画しておるな」
ディエゴの説明を聞きながら、アラバマ殿下が感心している。
本来はこんな造りじゃないんだけどね。
「輸送船とは違い、こちらは少人数での生活空間に重点を置いているのですか」
アマル様も興味深そうにクルーザー号を内見する。
「長旅でも快適に過ごせるよう工夫されてますね。とても参考になります」
大型と違って内部は狭いけれど、明るい色調の内装により、実際の広さ以上の解放感が得られるようになっている。
リビングは景観を楽しめる大きな窓によって視野が広がり、ゆったりとしたソファやテーブルによって寛げる空間になっていた。
俺は内心ビクビクしていたけど、概ね好評のようで良かったです。
「いやぁ~大昔の人間は、随分と優雅な船を造っておったのですなぁ~」
「旅目的で造られておるということは、大昔は平和だったのでしょうかのう?」
「あの小型魔動船もなかなか楽しい乗り物でしたしね~」
「そうだねー」
ドワーフさんたちも興味津々で船内を見まわしながら、うんうんと頷いていた。
娯楽があるということは、人々の生活が平和で豊かであるという証左でもある。
だから俺は曖昧に笑っておいた。
本来の古代の中型魔動船が、実は武装船だったのは黙っておこう。
復元中にテンションがおかしくなってたのもあるけど、改めて設計図を確認したところ。なんと中型は大型魔動船の護衛をする駆逐艦だったのだ。
だから忠実に再現していたらきっと拙いことになっていたかもしれない。そう考えると、手違いでクルーザーのようになったのは良かったのかもね。
『手違いでダンジョンのような構造になってしまいましたけどね』
それについては反省している。
流石にダンジョンコアを動力源にしているとは言えないし。このことはディエゴ以外のみんなには内緒にすることにした。
『ですがマスター。もっと重要な報告をしなければならないと思うのですが、それはいつ頃されるのでしょうか?』
もっと後にしよう。出来れば出発する時まで引き伸ばしたい。
『了解いたしました』
そうしてクルーザーに興味のある人たちを置いて、俺は船からそっと外に出た。
「あ。リオっち、やっと来たー!」
「イイ感じに鉄板が熱くなってるっすよー!」
船内案内グループとは別に、調理の準備をしてくれていたテオやチェリッシュが声をかけてくる。
「リオン様~、ご招待ありがとうございますわ!」
「要望通り、ナベリウスの肉を持ってきたよ」
「わらわとカシムの隊で、討伐してきたのじゃ!」
視線を向けるとシエラ王女様とカシム王子様、そしてファティナ王女様がこちらに向かって手を振っていた。
そんな彼らの手には大量のお肉の塊がある。
ふと横を見ればシルバが珍しく尻尾を振って、ノワルは涎を垂らして喜んでいた。
「その方の考案したフィッシング・リールショットとやらが役に立ったのじゃ!」
シエラ王女様が言う『フィッシング・リールショット』だけど、スリングショットを応用した釣り用具である。
簡単に説明すると、リールから矢を射出して獲物に刺すという仕組みだ。
矢にはワイヤーが付いているので、獲物に刺して手繰り寄せられる。日本では違法だけど、海外じゃ割とよくある釣り用ガジェットなんだよね。
壊れやすいのが玉に瑕だけどボウガンより軽量で、釣り竿と違ってリールのみなので、手首に装着できてそれ程邪魔にならない。(ただし人に向けてはいけないと言った当たり前の注意が必要)
何故か竜騎士のみなさんは近接武器の剣がメインで、中距離武器の槍を持ってる人もいたけど、遠距離攻撃の弓矢は両手が塞がるので使いたがらないのだそうだ。
そこでメインウエポンではなく、遠距離用のサブウエポンとして『フィッシング・リールショット』を装備することを提案した。
三つもある首のナベリウスを撹乱するには丁度良いし、矢が外れてもリールだから巻き戻るし、何度も打ち込めるからね。
「今回の討伐作戦では、君のお陰で負傷者も少なく済んだよ。まだまだ連携には訓練が必要だけど、かなり有効なサブウエポンだね」
「チェリッシュの指導も中々であったぞ! まだお主程の技巧はないが、ナベリウス程大きければそうそう外さぬのも良いな!」
「いやぁ~ん、それほどでもあるかも~! ヘッドショットが出来るのはアタシぐらいだも~ん」
「すごいね~」
褒められてチェリッシュが調子に乗っている。
だが本人の言うように、激しく揺れる飛竜の上から正確に頭を狙い撃ちできるのは相当な技術がいるし、努力の賜物なので褒め散らかしてあげよう。
何せ竜騎士のみなさんへのフィッシング・リールショットの指導は、アーチャーであるチェリッシュにお願いしたからね。
そもそもこのガジェットは、シルバやノワルがナベリウスのお肉を食べたがってたのもあり、一匹でいいから確保して欲しくて作ったのだ。
本当はこれにディエゴの作った呪いのタリスマンを矢のように投げつけ、ナベリウスを脱力させてから斃そうと考えていた。(我ながらまあまあアホな作戦だ)
だから竜騎士のための補助武器として作った訳ではないのである。
「お主らの旅立ちに、ナベリウスの討伐が間に合ってよかったのじゃ」
「フィッシング・リールショットのお陰で、損傷も少なく討伐出来たからね。大量にナベリウスの肉が手に入ったよ」
すっかり毒気と陰気さが抜けたカシム王子の爽やかスマイルと、金色に輝くナベリウスのお肉を抱えている姿が眩しく光った。
「まだまだあるから、後で部下に持ってこさせよう」
「ありがとー!」
魔動船の航路を阻む存在であり、増え過ぎると食料を求めて民家や家畜を襲う為、ナベリウスは討伐しなきゃならない害獣である。
だが全てを駆逐すると生態系が崩れるし、ナベリウスは他国からの侵略を防ぐ役目もあり、存在させる必要もあってコントロールが難しいとのことだった。
でもサブウエポンの『フィッシング・リールショット』のお陰で、随分と討伐が楽になったと喜んでいた。
「こうして我々竜騎士隊の新たな武器を作って頂き、感謝してもしきれません」
「おれいは、おにくでいいよ」
カシム王子様やシエラ王女様が、アマル様やアラバマ殿下に対抗して飛竜の訓練を見せたがって煩いので、玩具を与えておけばいいと思ったことは黙っておこう。
取りあえずナベリウスのお肉が手に入ればそれで良いからね。
「なんとお主は欲のない奴なのじゃ~っ!」
「そいやっ!」
どさくさ紛れにシエラ王女様が襲い掛かって来たので、軽く投げ飛ばしておく。
ふ~やれやれ。全く、油断も隙もない。でもこのやりとりも最後かと思えば感慨深いものがある。
「リオーン、お野菜持って来たわよ~!」
「相変わらず王族を投げ飛ばしてんなアイツ……。いいのか、それで?」
軽くシエラ王女様を転がしていると、アマンダ姉さんとギガンが、ラクシュさんや農家のみなさんに、お世話になった研究所の人たちを連れてやってきた。
因みにこの場に居ない愉快なグロリアストリオは、ジボール便で一足先にお別れしている。なんでもシュテルさんの知り合いの商人さんに、護衛を依頼されたらしい。
次いでにランドルさんとギルベルトさんが、シュテルさんを引きずってジボールにカカオを仕入れに行っちゃったんだよね。
なのでこの隙に俺たちはサヘールから去ることにした。
移動手段も手に入れたしね!
「本日はお招きいただきまして、ありがとうございます」
「きてくれてありがとー」
「はいリオン君。これが御所望の砂漠キノコよ」
「こんなもんで良かったですかい?」
「わー、ありがとー!」
差し入れとして、雨が降った時だけ採れる珍しい砂漠キノコを受け取る。
サヘールみたいな砂漠地帯でもキノコが採れるなんてすごいよね。季節じゃなくて雨が降った時だけ生えてくるので、滅多に市場に出回らないそうだけど。
そんな希少価値の高いキノコを受け取って、俺はにんまりした。
「リオっち、キノコ好きだよね~?」
「うん」
キノコは免疫力の向上と、身体の防御力を高めてくれる食材だからね。
みんなにもっと強くなってもらわなくてはならないので、必須の食材なのである。
「どんな味なんすかね?」
「たのしみだねー」
拳ぐらいの大きさの砂漠キノコだが、Siryiの鑑定によると食感はマッシュルームと椎茸を合わせた感じで、味はフォアグラみたいらしい。
ふむふむ。ガーリックバターで焼いたら美味しそうだね。オイル漬けにして保存しても良さそうだなと、砂漠キノコを見て様々な調理法が頭を駆け巡った。
珍しい食材を使って料理をするのが、今の俺のブームである。
見たことのない珍しい食材を使って料理をするなんて、以前は考えられなかったことだからこれは凄い進歩だと思う。(安心のSiryi鑑定があるからだけど)
しかも仲間の強化が目的だから、料理も楽しくなるというものだ。
「じゃぁ、つくるねー」
農家のみなさんが苦労して作った採れたて新鮮なお野菜と、高級お肉間違いなしのナベリウス、そして珍しい砂漠キノコを使ってお別れ会を始めよう。
感謝の気持ちを込めて、美味しくな~れと念じる。
どうか食べた人が幸せになりますようにと、ささやかな願いを込めて。
今日は特別な日なので、主食はパンや麺類ではない方がいいだろう。
そう思って。
俺はリュックから、久しぶりに日本産の貴重なお米を取り出した。




