第210話 Go for it!
お別れ会の翌日、朝早くからアラバマ殿下たちが見送りに来てくれた。
「ディープホールダンジョンに行くのか?」
「うん」
そういや次の行き先は聞いてなかったなと、アラバマ殿下に問われ答えた。
みんな魔動船が出来たから移動するんだろうなと思ったぐらいだったし、誰かが話しているのだろうとこちらも伝える事もなかった。
なんかこういう緩さが良いよね。冒険者らしくて。
「また随分と遠い所へ行くのだな」
「魔動船があるからな」
「それは理由になってないと思うぞ」
ディエゴの返答に、アラバマ殿下が呆れた表情をしている。
なんとなくもっと遠い場所へ行きたくなったんだよ。
そしてみんなで話し合った結果。シュテルさんや魔塔の人たちが寄り付かなさそうな場所として、候補に上がったのがソコだったのだ。
「それって、海の中にあるダンジョンでしたわよね、カシムお兄様?」
「グランドオーシャン海域にある、キルバス諸島に点在する島のどれかにあるという話だったかな?」
「そうそれ」
ファティナ王女様の問いに、カシム王子様が説明してくれた。
グランドオーシャンとは、俺の世界でいうところの太平洋みたいな海域である。
サヘール国が大西洋側って感じかな? よく判んないけど。
「確かドロップ品の真珠や珊瑚は、どちらも宝飾品として珍重されているそうですね。我が国では需要がないので、取り引きしたことはありませんが」
「そうなんだ」
「宝飾品は輸出品であって、輸入はしません。鉱物が豊富ですからね。それに私の商船もそちら側にはほぼ行きませんので」
「そうなんだ」
「小国の島国ばかりですので」
「なるほど」
遠いし取り引きできるほどの魅力的な輸入品が少ないからだそうだ。
アマル様曰く、ただでさえ鉱物類や宝石類が産出される国だからか、同じ宝飾品としての価値しかない真珠や珊瑚は必要ないとのことだった。
俺の世界ではある意味高価とされるダイヤモンドなんか、サヘールじゃ投げ売り価格であっさり手に入るしね。最近じゃムーンストーンの方が希少性と需要から価格が高騰しているぐらいだ。
そしてどさくさ紛れに「ラクシュも欲しいか?」「いいえ、ワタクシには殿下がいらっしゃるので必要ありませんわ」「俺様もだ」等と、アラバマ殿下とラクシュさんがいちゃついていた。この二人は放っておこう。
ムスタファは気を使ってフェネック姿に戻り、シルバやノワル、ブランカも一緒になってまだ赤ちゃんのラージャをあやしてあげている。
サヘールは本日も快晴でとっても暑いね! 色んな意味で!
「では、それらを手に入れる為でございますの?」
「それがそうでもないのよねぇ」
「売れば良い収入にはなるだろうが、それ目的でわざわざ行くまでもねぇしよ」
「正直な話、サヘールのダンジョンの方が稼げるのよねぇ」
「目的はドロップ品じゃないからな」
じゃぁなんでだとばかりに、殿下たちが一斉に俺を見た。
「リオっちが魚釣りがしたいんだって!」
「それにリオリオが美味しい魚料理を作ってくれるそうっす!」
「どんな料理なのかな? 楽しみだよね~!」
「魚料理ってあんま食った事がないっすからね!」
「アントネストの時ぐらいだったよね?」
「ある意味衝撃で刺激的だったっす!」
テオやチェリッシュの言うように、この異世界に迷い込んでから俺は魚料理を目にしたことがなかった。
アントネストの海域エリアを除外すれば、この世界では魔獣のお肉が主流なだけに、魚料理はその名の通り正にブルーオーシャンなのだ。
それにアントネストでは、魚介類をダンジョン外に持ち出せなかったしな。
魚介類に抵抗のある人も多くて、知る人ぞ知る観光スポットみたいになっているのが現状だった。
「魚なんぞ、そんなに美味くもなかろう? それにキルバスに行くまでもなく、魚なぞジボールでも売っておろうが?」
「我が国では輸入しておりませんけどね」
それなー。
殆どの人は魔獣のお肉の方が好きで、魚介類はそうでもないのが現実だった。
沿岸国であるジボールの市場でも魚は売ってたけど、種類が少ない上に臭いがヤバいしハエが飛んでるしで手が出せなかったのだ。
聞いたところによると普通の魚類は家畜とか猫や犬の餌扱いだった。
主力であるコーヒーやナッツなどの豆を中心とした農業が中心で、海があって観光業は発展していたのに水産業は発展していないのである。なんでだ。
「食える魚だと魔魚になるからだろう」
「遠洋漁業までして、危険な魔魚を獲るモノ好きはいませんしね」
「陸と違って助けも呼べぬからな」
「海上輸送の時に、たまに襲ってくる魔魚を捕らえる程度ですから」
「船乗りだからこそ食える珍味だそうだ」
ということらしい。ここでは美味しい魚は魔獣と同じく魔魚になる。
普通の魚介類は寄生虫の問題もあるし、鮮度を保つべく凍らせることもない。魔晶石も安くないし、氷魔法を使える魔術師や魔法使いが少ないからだった。
だから殆どの市場では子供がお小遣い稼ぎに捕まえた魚を、二束三文レベルで売っていたのである。(サヘールでのクズ魔晶石拾いに近い)
北の寒い国だとお魚天国かも知れないけどね。
「では、リオン様方は、魔魚を釣りに行かれるのですの? 危険ではありませんの?」
「ふむ。確かにキルバス諸島の近海では魔魚が獲れるそうだが……輸出品としては取り扱っていないのであろう?」
「ええ。他国でもそうですが、我が国では特に需要がありませんからね」
「生臭くて誰も食べたがらんからのう。仕方ないのじゃ」
「海産物自体見なれないからね。見た目も悪いし、グロテスクじゃないか」
酷い言われようである。
ただ魚を全く食べないとかではなくて、サヘールだってオアシスに魚はいるけど、わざわざ釣ってまで食べないだけの話である。小さすぎて骨も多く、暑い国なので魚が腐りやすくて食べるとお腹を壊す原因になるからだ。
そう考えると、アントネストの海域エリアが長い間攻略されなかったのも頷ける。
爬虫類のお肉も味が淡白だからか、最初は人気がなかったもんな。
「全く。旅の目的が魚釣りとは、貴様は変わった奴だな」
「その魚に負けたのが悔しいですよ。ですが、もし良い品があれば是非ご連絡ください。取り引き相手として交渉させて頂きますので」
「うん」
呆れるアラバマ殿下と違って、アマル様は船団を抱える商人らしく商売の話を持ち掛けてきた。取りあえず真珠や珊瑚以外で、なんか良い物があれば連絡するね。
「魚釣りに飽きたら戻ってくるのじゃぞ!」
「あきたらね」
「こまめに連絡を寄越すのじゃぞ!」
「できたらね」
「何ならこちらから連絡をするのじゃ!」
「ほどほどにね」
通信用の魔道具もあるし、殿下たちとは案外簡単に連絡を取り合えるからね。
でも魔晶石の消費量がえげつないから、シエラ王女様から連絡してください。
受け取れるかどうかは判んないけど。
「温室はわたくしとカーバンクルで管理致しますので、ご安心くださいませ!」
「時々は僕も手伝うよ」
「ありがとー」
せっかく作ってくれた温室だけど、ちゃんと管理できなくてごめんね。
でも何だかなんだで王族の兄弟姉妹の溜まり場みたいになってるし、フェネック姿のカーバンクルが警備してくれているのでどこよりも安全なんだよね。
「たまにもらいにくるねー」
「……どうやってだ?」
「それはひみつー」
アラバマ殿下が怪訝な顔をしている。
それはその時になったら解るよと言い残す。
「さぁ、名残惜しいけれどそろそろ出発しましょう」
「またここに戻ってくるっす!」
「殿下たちの結婚式には呼んでね~!」
「随分と世話になっちまったが、元気でな」
「シルバ、ノワル、ブランカも行くぞ」
「ウキャキャ!」
名前を呼ばれてみんなこちらへとやって来た。
「じゃぁ、またね」
バイバイと手を振って、また明日ぐらいの気軽さでお別れの挨拶をすませた。
だって会おうと思えばいつだって会えるからね。
「では、わらわたちも見送ろう!」
俺たちが全員船に乗り込んだのを確認すると、シエラ王女様が背後に従えていた竜騎士たちに号令をかける。続いてカシム王子様もスラリと剣を掲げた。
何が始まるのかと思って見ていると、全員が颯爽と飛竜へと乗り込んでいた。
「我がサヘールの恩人であり、永久なる友人たちの旅立ちだ!」
「そなたらの旅が、新しき出会いと発見に満ちることを祈っておるぞ!」
そう言うと、カシム王子様とシエラ王女様の竜騎士隊が一斉に空へと舞い上がる。
巨大な飛竜が空へと飛び立つ姿を見上げ、思わず声が漏れた。
「わぁ~」
随分と派手なお見送りだ。
そして次々と送られてくる飛竜たちからの感謝の声を電波のように受け取る。
ご飯は美味しくなったし、主人との意思の疎通ができるようになったのが嬉しいんだね。判った判った。良かったね。
「見事なもんだな」
「すげぇっすねぇ~」
「かっこいい~!」
「なんか、ちょっと大げさすぎやしねぇか?」
「いいじゃない。有難く受け取っておきましょう」
なんてことを言っている間に、俺たちの魔動船もゆっくりと地上から離れ、空へと浮き上がり始めた。
魔動船を取り囲むように、飛竜が絶妙な距離感で飛んでいる。
それにつられて舞い上がるように、魔動船クルーザー号も上昇していく。
「おい、リオン! 自重を忘れるでないぞ!」
「わかったー」
「その顔は、全然判っておらんだろうが!」
「あはははは!」
遠ざかるアラバマ殿下から声をかけられ、それに応えたら怒られた。
最後まで変わらない態度が逆に嬉しい。
ラクシュさんとお幸せに。兄弟姉妹と仲良くしてね~と、心の中で祈った。
最初に来た時よりも、随分と緑地が増えたサヘールを見下ろす。
色鮮やかな飛竜たちに見送られ、俺は眼下に広がる天空都市サヘールを目に焼き付けるように見渡した。
次に来るときはもっと緑地が増えてると良いな~なんて思いながら。
どんどん遠ざかるサヘールを見ていると、ディエゴから肩を叩かれた。
「そろそろ中へ入ろう」
「……そだね」
他のみんなはもう中に入っているらしく、甲板に居たのはどうやら俺だけだったようだ。名残惜しんでるのって、俺だけなのかな?
旅慣れている冒険者だからか、割とみんなあっさりしてるんだよね。
俺も魚釣りがしたいだけで旅立つことを決めたので、人のことは言えないのだが。
そうして。
既に船内にあるリビングのソファーに座り、リラックスしているみんなを見渡す。
「しっかし、この船どうやって動いてんだ?」
今更な疑問だよね。
「あの例の『制御器』で動かしてるんじゃない?」
「懐剣だったよね? そんなこともできるなんて凄いね!」
「便利っすよね~!」
目的地まで自動で進む船なんて、魔法のある世界でも普通に考えてあり得ないとは思わないのだろうか?
みんな無邪気すぎて、却って不安になる。
窺うようにディエゴを見上げると、ふっと溜息を吐かれた。
ああ遂にこの時が来たのかと、俺も覚悟を決める。
【皆様こんにちは】
その時、船内放送が響き渡った。
【この度は魔動船クルーザー号へのご搭乗、どうもありがとうございます】
Siryiではない、ちゃんと音声付きのアナウンスである。
それにディエゴ除くスプリガンのメンバーが驚いたように船内を見渡した。
【本船はグランドオーシャン海域にある、キルバス諸島まで自動で運行いたします。飛行時間は十時間の予定となっております。天候は概ね良好ではございますが、気流の乱れによって多少の揺れがございますので、船内でお過ごしの際は足元にお気を付けくださいますようお願い致します】
「え? え? だ、誰が喋ってるの!?」
「どういうこと? 他にも誰か船に乗ってるの!?」
チェリッシュとアマンダ姉さんがビックリしている。
しかも――――。
「これ、何て言ってるんすか?」
「知らねぇ言葉だな。ディエゴ、何て言ってるか解るか?」
「――――いや」
ギガンやテオにまで突っ込まれているし。
何でも知ってそうなディエゴですら困った顔になっちゃってるじゃん。
【安全には十分に配慮しておりますが――――】
「アレクサ……にほんごになってる……」
思わず俺も突っ込んでしまった。
『―――――失礼いたしました』
「あ、普通に聞き取れるようになったっす」
「びっくりした~」
驚くところはそこじゃないのだが、聞き慣れた言語に戻ったことで何故かみんな安心している。俺の仲間(の頭)は大丈夫なのだろうか?
『では改めてご挨拶させて頂きます。私の名前はアレクサンドリア・アーカーシャ。通称アレクサと申します。この度は魔動船クルーザー号の機長及び皆さまの快適な旅をサポートさせて頂くことになりました。以後よろしくお願い致します』
そう言って。
魔動船を支配下に置いたアレクサが、スプリガンのメンバーに自己紹介した。
≪砂漠のオアシス・空中都市サヘール編・完≫
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※後日談として、番外編を何作が用意しておりますので、新章に突入する前にそれらを更新いたします。




