第208話 妖精の玩具
いつもより品数の多いツマミ類と、高そうな酒類を前にして、ギガンは嬉しいと思うより渋い表情をしていた。
長くもないが短くもない付き合いで判るようになったが、リオンはお願い事をする際にこういった過剰なサービスをする。普段から気配りをする方だが、サービス内容でお願い事の重さが違うことが察せられた。
「なぁディエゴ……。リオンは、貰った玩具で遊んでるんだよな?」
「本人は魔動船の復元と言っていた」
「……嫌な予感しかしねぇんだが?」
悪い予感ではなく、嫌な予感である。
「玩具って、あの壊れてるガラクタよね? 復元なんてできるのかしら?」
「材料さえあれば可能だと言っていた」
「あの水晶玉ってやつぁ、んなこともできんのか?」
アマンダの疑問も尤もである。ギガンも信じていないが、ディエゴはあっさりと頷いた。
「そういう機能が付いているそうだ」
「確か、壊れた武器とかも修復できるって言ってたかしら?」
「あ~そういや言ってたな。すっかり忘れてたけど」
とんでもアイテムをドロップした割には反応はこんなもんである。
アイテムよりも存在そのものがとんでもないリオンがいるせいで、感覚がすっかり狂っている二人だった。
「ただしアレは、妖精にしか扱えないアイテムだろうな」
収納するだけなら誰でも出来る。それは間違いない。
リオン曰く自動修復機能も付いているというが、ディエゴですら表示される文字が全く読めないのだ。これではどんな指示を出されても、何をどうすればいいのか判らないとのことだった。
「俺らが使いこなせねぇのは判んだけどよ?」
「ディエゴでも使いこなせないアイテムなのかしら?」
元より魔道具の仕組みも判らないし、便利なモノは便利だな程度で終わるのが一般的な反応だ。
なのでディエゴもそれは仕方がないという前提で説明することにした。
「おそらくだが水晶型格納庫は、伝説の『妖精の錬金窯』のようなモノだと思う」
「『妖精の錬金窯』って、なんだそれ?」
「聞いたことないんだけど?」
「エリクサー等を創り出せる妖精の持つアイテムのことだ。まぁ、魔法使いやアルケミストの間でのみ語られている、レジェンダリーアイテムという話だがな」
ダンジョンで稀にドロップするランクの高いアイテムは、『妖精の錬金窯』で創りだされている可能性が高い。
リオン曰く『ジョークグッズ』のようなアイテムも、同じように『妖精の錬金窯』で創られているのだろう。
「ちょっとそれって、危険なアイテムってことじゃないの? エリクサーが創れるなんて判ったらとんでもないことになるわよ?!」
「いや、それは大丈夫だ。そもそもアレは、人間に使いこなせるものではない」
試しに水晶型格納庫でリオンの指示に従って壊れたアイテムの修復を試みたディエゴだったが、かなりの魔力を吸い取られた。
なんと破損したナイフ一本修復させるのに、レヴィアタンを痺れさせる電撃を放つほどの魔力を必要とされたのだ。アマンダなら良くて気絶、他の者であれば下手をすれば昏睡状態――――または死に至る危険性すらあった。
結果的に対価として奪われる魔力量の多さに、水晶型格納庫の使用をディエゴは諦めたのである。
心配してリオンには「かなり魔力を吸い取られるが、お前はどうだ?」と聞いたところ、「そうなの?」と逆に不思議そうに聞き返されて落ち込んだ。とはいえ相手が妖精であるから張り合っても仕方がない。
しかも頼りにならない主人であると思われたくなくて、大量の魔力消費について言及できなかったのである。
その話を聞いて、ギガンとアマンダはホッと胸を撫で下ろした。実験に付き合わなくて良かったと。
「今後あのアイテムがドロップしたところで、収納だけで終わるだろうな」
優れた機能があったとして、水晶型格納庫に表示される文字も読めない上に、修復の対価として奪われる魔力量が割に合わないのだ。
費用対効果の差とでも言おうか。時間と労力と同じぐらいに魔力が奪われると仮定して、魔晶石を代用したとしても魔動船を動かすレベルで大量の魔晶石を消費する。
修理のために素材をつぎ込んで、更に大量の魔力や魔晶石を吸い取られてはたまらない。これなら新しいナイフを買った方が安上がりである。
よってアレは妖精にしか使えない、人間を揶揄うためのアイテムであるとディエゴは結論付けた。
「第一、エリクサーを創るにしても素材が判らないしな。リオンも現物がないと素材や成分とやらも調べられないそうだ」
「まぁ、んなもんがホイホイ創れるなら、苦労はしねぇもんなぁ」
「じゃぁ結局は、リオンにしか使えないアイテムってことなのね?」
「そういうことだ」
普段リオンがリュックから取り出して使っている魔道具にしても、魔晶石を必要としないのはリオンの魔力を消費していることからも判る。(本人は気付いていない)
アマンダの言うように、妖精の玩具は、おいそれと人間程度には使えないということなのだから。
「それを、玩具感覚で使ってるのよね……?」
「だから嫌な予感しかしねぇんだな」
自分たちはこうしてのんびりと晩酌をしているが、その間にもリオンは魔動船の修復作業をしているのだろう。(従魔と若手組は寝ている)
明日には何が出来上がるのか。普通に魔動船が仕上がれば良いのだけれど。まぁ、それは無理だなとディエゴはある程度予測していた。
「普通ではないことは覚悟しておこう。何せリオンクオリティだからな」
「そうなのよねぇ。あの子の手にかかると、何でも高品質になっちゃうものねぇ」
「同じ材料を使った料理でも、美味さが違うんだよなぁ」
「リオンクオリティだからな」
そのリオンクオリティに慣れた結果。誰もが外食をしなくなった。
久しぶりに他の冒険者に誘われて、酒場で飲んだ時に気付いたのだ。
清潔感の欠如した店内と食器類。
良い食材であるのにどこか残念な味付け。
サービスとは言えないサービス。
それらと比べるのも烏滸がましい位に、リオンのごっこ遊びの居酒屋の方が満足度が高いのである。(おかしな挨拶やルールはあるが)
ブラウニー特有の居心地の良い空間を作り出す能力は、今までの生活に戻れなくなるほどに何もかも質が高すぎるのだ。
「しかもリオンの言う、『簡単』とか『手抜き』の意味が全く判んねぇしっ!」
「野営のテントですら宿屋より居心地が良いし、贅沢な食事が出るのよっ!?」
「正直今までの普通が、どんな普通だったのか思い出せねぇっ!」
「一度上がった生活水準って、下げられなくなるって言うじゃない? ま、まさかこれがリオンクオリティの罠なのかしらっ!?」
酒も入っているのだろうが、ギガンとアマンダは贅沢な悩みをぶちまけた。
「……そうかもしれないな」
「ちょっと、アンタも他人事じゃないわよっ!」
「なに一人涼しい顔してんだっ!」
二人に胸ぐらを掴まれ、振り回されるディエゴ。
すっかりリオンの居る生活に慣れたと思ったが、慣れたことで他のことにも気付いたようだ。如何に自分たちの中の常識が覆されているのかということに。
家付き妖精のブラウニーであるが故に快適さを求め、サービス精神旺盛なのも仲間のために良かれと思ってしてくれている事でもある。(たまに下心あり)
ただソレに《《慣らされた》》結果、ある種の恐怖に陥る原因となったのだけれど。
「呪いより恐ろしいな……」
「じわじわ感じているわ……」
「気にするところはそこではない気がするんだが?」
酔っている所為もあり、妙な落ち込み方をする二人にディエゴはほくそ笑む。
まんまとブラウニーの手中に嵌っているなと思いつつ。一度味わった快適な心地好さは手放せないだろうことが伺えた。
これならリオンがとんでもないことを仕出かしても、ある程度は仕方がないと受け入れるかもしれない。(今までも散々仕方ないと思わされてきた)
「まぁ、そう仕向けるだけだが……」
「ん? なんか言ったか?」
「ディエゴ、アンタなに笑ってんのよ~?」
「いや、楽しみだなと思ってな」
恐怖や不安を覚えるよりも楽しんだ者勝ちだ。それに今の生活を手放したくなければ、リオンの仲間強化計画に協力する方が得策である。(自分が楽するために)
そして誰よりもリオンの予想を上回るヤラカシを内心楽しみにいているディエゴは、二人をそれとなく誘導しながら酔い潰した。
そうして翌日。
申し訳なさそうに魔動船の復元が出来たと報告を受けたディエゴは、自分の想像や予想を上回るリオンのヤラカシに満足気に笑ったのだった。




