第204話 価値のない抜け殻
「おいくらまんえんですか?」
俺は恐る恐る聞いてみた。
冗談には冗談で返すのが礼儀だろう。
「お好きなものを、無料でいかがでしょう?」
「ほんと~にタダ?」
揶揄われているのではなかろうかと、警戒心を強めるがしかし。
「ええ、構いませんよ」
なんちゃってということもなく、アマル様はあっさりと頷いた。
「……ジョーダンだよね?」
「いいえ。こちらのモノは中古以前に壊れておりますので、興味があれば差し上げますよ」
壊れてるからって……。それ以前に中古扱いとかどういうことだ。
歴史的遺産だぞ。世が世がなら世界遺産だ。
考古学者じゃない俺にだってそれぐらい判る。
錆びて壊れていて使えなくても歴史的価値がある遺物を、タダでくれるとかおかしいし怪しい。
例えるなら『アンティキティラ島の機械』をくれると言っているようなものだ。
古代に作られた高度な機械と、太古に作られた魔動船。俺の認識では世界遺産であり希少性の高さから博物館に保管すべきオーパーツである。
「ああ、ご安心ください。無料なのは理由がございまして、既に必要な部品は抜き取られているので、見た目だけのハリボテのような状態なのです」
「え」
アマル様の説明によると、錆びついてしまった装甲等はすでに失われた技術で作られた金属で、当時は再現できなかった為そのままにしているとのこと。だからハリボテという表現をしている。
そして最も価値のある内部の部品は、魔動船を作る際にドワーフさんが研究のために抜き取ってしまったとのことだった。
ここにあるのはほぼ抜け殻で、他に使えそうなパーツ等は既に持ち去られている。
セミの抜け殻みたいな扱いかな? 俺にとっては(子供の頃の)宝物だったけど。
だからジャンクもジャンク、中古品と呼ぶのも憚られるゴミなんだって。
なぁ~んだ。無料でくれるのはその所為なのかぁ~――――って。なんつーことをしているのだ!
『ピラミッドの盗掘と同じような感覚なのでしょうね。ただし魔動船の復元のための研究なので、内部を抜き取られていても全てが失われている訳ではありません。歴史的な価値も判らず、売り飛ばすために盗掘したのとは意味が違います』
そりゃそうだけど! 研究し終わったら元に戻しといてよ!
後々よく聞いてみれば、それら部品もほぼ錆びていたので廃棄したそうだ。
新しく作り替えられたから、いらないモノ扱いしたのだろう。
なんだっけ。唐の時代にインドから持ち帰った経典を漢字に翻訳し終えた後、当時の人が必要がないから捨てたという話に似ているような……。
それを日本から来た留学生が経典が捨てられているのを見て、「いらないなら頂戴」と持ち帰ったという逸話があったような気がする。
ゴミを持ち帰る日本人(笑)みたいな文献が残されてるとかなんとか。
『マスターの中途半端な面白おかしい流し読みで事実として正しくない部分はありますが、おそらく当時の人々は大半がその価値を判っていない為、厳重に保管されていなかったのでしょう。そうして市場に流出した経典の原本の一部を、特に日本人が有難がって持ち帰ったと考えられます』
流し読みで悪かったな!
どうせ俺の記憶力なんて興味のある事にしか発揮されないよ!
面白おかしい部分のみの知識なのは否定しないけど。
「リオン様、どうされました?」
「う~ん、ちょっとまって。かんがえてるから」
「そうですか? では、ごゆっくりどうぞ」
購入を考え込んでいるお客さん相手の様な返答で、アマル様は押し付けるでもなくさらっと俺から離れた。
よし、もう少し考えよう。
くれると言っても、安易にもらって喜べる代物ではない。
ねぇどう思う? Siryiさんや。
『そうですね。これらから推察するに、アマル殿下は太古の魔動船の価値をその程度と捉えていると考えられます。恐らくこの世界の多くの人がそうであるように。かと言ってそれを指摘したところで、直ぐに価値観が変わるとは思えません』
それなー。後々とても重要な価値ある歴史的遺産と判明しても、手遅れになることは間違いないだろう。
必要な部分は抜き取ってしまったからどうでもいいという考えだろうし。
しかもこの世界では遺跡の多くがダンジョン化されて、妖精たちの遊び場のようになっているのも原因だ。
だからこそ、希少性の高い歴史的遺物が当時の状態で残っていることは貴重なんだけどな……。
天才の筈のディエゴですら興味がなさそうだ。作れるか作れないかで判断するだけにしょうがないか。他のメンバーに至っては、ほんっとに興味がないみたい。
古臭い壊れた魔動船より、最新式の魔動船の方がカッコイイよなぁなんて声が聞こえてきた。
こりゃ博物館ビジネスにならないわけだ。
『でしたらいっそのこと、マスターが引き受けた方がよろしいのでは?』
う~ん。まぁ、保管するだけなら水晶型格納庫に入れて置いた方が安心だけどね。これ以上劣化させないためにも。
『賢明な判断です。悪用されない為にも必要な処置でしょう』
悪用ってどうすんだよ。
魔動船の復元のために既にドワーフの技術者によって、散々研究され尽くされているんじゃないか?
『復元されていない機能がある可能性は否定できません。マスターの世界でも、古代のアンティキティラ島の機械は、完全に復元できておりませんでしょう?』
現代の技術でも無理というより、失った部分や腐食や変形のせいで復元し難いのもあるからね。
『だからこその「水晶型格納庫」なのでは?』
それを使ってマスターが復元させてみれば判明するでしょうと、Siryiが俺を唆す。
今のところ確かなのは、空を飛ぶ機能のみを復元した魔動船だからな。
Siryiが完全に鑑定が出来なかったのも、抜き取られた部品が多すぎたからでもあるそうだし。
そう考えれば確かに太古の魔動船の全てが復元されているとは思えない。
魔動船の装甲に使われている金属も、俺たちがドワーフ職人さんと(遊びながら)偶然にも再現しただけだし。
多分、ブラックボックス的なナニカもあるのだろう。
世界を滅ぼす最終兵器みたいなものとかないといいんだけど。
あったとしても復元させなければいいだけの話ではあるのだが。
くれるというなら貰いたいし。このまま放置しても結局は劣化してしまうだけなのは勿体ない。
ただね。なぁ~んか、嫌な予感がするんだよねぇ。
アマル様っておっとりしてるように見えるけど、商人でもあるからなぁ。
シュテルさん以上に考えの読めない人なだけに、他に何か企んでそうでもあった。
『問題があればアントネストで手に入れた亀の甲羅のように、マスターのリュックにないないしておけばよろしいかと』
そういえばそういうのもあったね。
すっかり忘れてたけど。
アレも危険な代物だったな。永遠に封印するか、どこかの火口に放り込んで燃やした方がいいアイテムだった。
願わくば太古の魔動船は、宇宙を漂う天空の魔動船になりませんように。
『ラ〇ュタは大気圏を漂っているだけで、宇宙空間まで突き抜けておりません』
「…………」
『ラーマーヤナのような文献がないか調べてみますか?』
おいやめろ。
インドラの矢みたいな武器が実際にあったら怖いだろ!
そんな物騒な武器がもし復元されでもしたら、滅亡待ったなしじゃないか。
ただでさえ歴史的遺産の扱いが未熟なのに、そんなものまで発見されたらとんでもないことになっちゃうじゃん!
それこそ『ないないの刑』に処さなければならない。
魔道具にしてもそうだけど、この世界の文明が妙なところでハイテクなのが何となく判ったような気がする。その分ロストもしているんだろうけど。
はぁ……しょうがない。
なにかに呼ばれているような気がしてたけど、コレを回収させる為のようなそんな気がするし。
妙にひりつくこの手の直感は、無視してはいけない。そんな気がして。
ここは保護と保存という名目で、危ない物はないないするべく、俺は太古の魔動船を引き受けることにした。
◆
「全部回収されるのですか?」
「うん。だいじょうぶ?」
結局俺は、全てを持ち出すことにした。
王家の墓ならぬ、魔動船の墓場にあった空っぽの棺ではあるけれど。
供養の意味を込めて。
盗掘じゃなくて許可を貰っているから問題はなかろう。墓暴きをしたことで呪われることがないように祈っておく。
「それは構いませんけど。全て持ち運べますかね……」
「できるよ」
水晶型格納庫があればね!
アイテム自体は秘密でも何でもないドロップ品だし。マジックバッグと同じだけど、大容量の格納庫(修復機能付き※ただし素材が必要)なのだ。
しかも中に入っている物を指定すると映し出してくれる。ボトルシップみたいに、太古の魔動船を眺めることができるって訳だね。
修復作業の工程も確認できるし、3Dプリンターっぽくて面白いんだよね。
「そんなモン貰ってどうすんだ?」
「どう見てもゴ……いや、ジャンク品だろう?」
ディエゴお兄ちゃん……言い換えても結局ゴミって言ってるぞ。
流石の魔道具好きでも、壊れたモノはゴミという考えのようだ。ギガンも同じで、下らないモノを欲しがるおかしな奴という目で見ている。
子供って何でかそういうガラクタが好きだよなぁ~って。ぼそっと呟いているのを俺のウサミミ帽子は聞き逃さなかったぞ。
「ねぇねぇ、どうせ貰うなら中古の魔動船の方が良くない?」
「そうよねぇ……大昔の魔動船の抜け殻を貰ってもねぇ……? まぁ、リオンがそれでいいなら反対はしないけど」
「ウッキュキュ~?」
ブランカに「あんたバカ~?」みたいに言われた。チクショーメ!
アマンダ姉さんやチェリッシュも、はっきりと言わなくても同じ気持ちなのが何となく伝わってきて悔しい!
因みにノワルとシルバはノーリアクションである。
余計なことを言わないから賢いよね! 後でジャーキーをあげよう。
「でもリオリオが欲しがるってことは、何か価値があるかもじゃないすか? きっと俺らには判んない魅力があるんすよ!」
テオだけだよ、俺の気持ちを判ってくれるのは。ただし本当の意味で価値が判っているとは言い難いけれど。それでもいいのだ。味方が一人でもいれば。
博物館見学でつまらなさそうに展示品を見る同級生と、ワクテカしながら説明を読んで化石や遺物を眺めている俺との温度差を久しぶりに感じた。
文化遺産に対する価値観は人夫々だけどさ。
作られた過程や、当時の生活を想像するのって楽しいのに。
でもこういう歴史的遺産の面白さやロマンを、興味がない人に伝えるのって面倒臭いんだよなぁ。
それに熱く語れば語るほどに呆れられるのが落ちなので、賢い俺は黙って幽霊船の様な太古の魔動船を水晶型格納庫に収納した。




